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【詩】旧友

四十年ぶりに会う君は
あの頃と おなじ
約束の時間に
すこし 遅れてあらわれた
あの頃と 変わらないまなざしで
白く変わった 髪のむこうに
記憶の底を さわっている

おなじ庭の おなじ樹の
まだ あおい かさを被った団栗が
はなればなれの森にまかれて
とどかない 空をめざし
芽吹き 枝を張り 葉を繁らせた

あの頃と おなじ顔いろで
変わらない 手つきで酌みかわし
ともにすごした月日より
遥かに
ながい時間の切れ端を
うなずきあい なぐさめあい
旨味も 苦味も かみしめあう

別の森の ちがう風に吹かれても
おなじ傷あとを かかえている
腐るもなく 折れるもなく
信じるままに 背伸びをした

想いの丈を口走るたび
陽のあたらない 繁みのうらも
無防備に さらけて
あの頃のまま
遠慮もなく のぞきこんで

おなじ庭の樹の 団栗どうし
変わらない 背たけを確かめあえば
わすれていた
木かげのにおいが鼻を刺す

あの頃と
空の高さは 変わったけれど
あの日とおなじ また
それぞれの ゆくえをさがして
陽射しを 追っている

話しのつづきを 疑うもなく
あの頃と おなじ
「じゃあ、また」 と
いつともつかぬ 約束をかわす
ぎこちなく 手を握りあい
たがいの
枯れはじめた枝をみつめて

©2024  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。