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【海のナンジャラホイ-12】変顔でプランクトンを見よう!

変顔でプランクトンを見よう! 

プランクトンという言葉はよく知られていますね。浮遊性の生物のことです。自力ではしっかり泳げなくて、頑張って泳いでもままならず、思わぬ方向に流されていってしまうような動物たちです。大きなクラゲだってプランクトンの部類に入るわけですが、たいていのプランクトンは、とてもとても小さいのです。
大きさが2~3 mmにも満たないものばかりだから、ふつうプランクトンを観察するときは、プランクトンネットを使って採集して顕微鏡で観察します。プランクトンネットの網目のサイズ(目合い)はいろいろで、例えば、目合い0.3 mm のプランクトンネットを船から降ろして海中を曳けば、目合いサイズより大きなプランクトンが、網の奥まで流れていって、網の一番奥の容器に溜まるのです。

プランクトンネットを曳く


ぎっしり集まったプランクトンを顕微鏡で観察すれば、どんな生き物がいるのかを、詳しく調べることができます。でもですね、捕まえられたプランクトンは、スライドグラスに載っけられて、カバーグラスをかけられて、動きを封じられて、たいていは瀕死の状態で人間の目に晒されるのです。とってもかわいそうな状況に追い込まれたプランクトンたちを、私たちは観察しているわけです。

そんなわけで、たいていの人は「プランクトンは小さいから顕微鏡で見なきゃならない」と思っているのではないかな? ところがですね、人間の目というのは、けっこう解像度が高いのです。部屋の中に窓から漏れてきた朝日が差してきたときに、空気中の埃(ほこり)が見えることがありますよね。透明な飲料の中に異物が入っていたら、かなり小さな粒や欠片(かけら)でも、見つけ出すことができます。床に落ちた芥子(けし)の実だって、見つけて拾うことができるのです。だから、実は、海の中を漂う小さな粒子だって動物だって、けっこう見分けることができるのです。
「でも、海で泳いでいたって、プランクトンなんか見えないじゃないか」とあなたは言うかもしれません。それは、ピントがずれているからなのです。私たちは、ふだん物を見るときには、わりと遠く(腕を伸ばしたくらいの距離かな?)にピントを合わせて、比較的大きい物体を見ることを期待して視線を彷徨(さまよ)わせます。だから、ごく近くにいる小さなプランクトンは見えないのです。

海の中で、直(じか)にプランクトンを見たければ、水中マスクを着けて海に入って顔まで沈めて、スノーケルを使って息をしながら、目の前10~15センチくらいのところにピントを合わせるのです。もちろんスキューバ潜水で、背中のタンクの空気を吸いながらでも可ですが、光のよく当たる水面付近が観察しやすいので、スノーケリングの方が楽かもしれません。顔の向きは上向きや下向きではなくて、視線は海水面に平行な方向です。
するとどうでしょう! 海中の微小な動物が見えるようになってきます。ピコピコと動いているのは、カニのゾエア幼生かな? スイスイっと動くのは、ヤムシかな? 悠然と流れて行くのは、ウニのプルテウス幼生かな? 思い出したようにピクッピクッと動くのは、カイアシ類かな? ヒクッヒクッと動く小さなクラゲもたくさんいるなあ・・・。
慣れると、いろいろな動物が見え始めるのです。囚(とら)われの身ではない自由なプランクトンの生態を見ることができるのです。目のピント調節をうまく行えば、動物プランクトンよりもずっと小さな珪藻類などの植物プランクトンまで見えるようになります。そんな風に不思議な世界に、次第にはまってゆく感じになるのですが、一生懸命にプランクトンを観察している人は、どうしても寄り目になります。

スノーケリングでプランクトン観察をする

海の中でじっとして、海水面直下で思いっきり変顔をしているのですから、他の人から見たら、かなり奇妙でしょう。「ねえ、大丈夫?」と聞かれたら、仲間に入ってもらって、みんなで変顔をして一緒にプランクトン観察を続けましょう。
あとで、海から上がってから、共通の話題で話が弾むこと間違いなしです!

ただし、注意事項がいくつかあります。プランクトンの種類や量は季節によって大きく変わります。泥が舞っている時や、春先などの植物プランクトンが大量発生した濁りの強い時などは、こうした観察には向きません。観察しやすい大きな動物プランクトンが増える秋口には、透明度が高くなることが良くあります。そうしたときは、海中でのプランクトン観察に適しています。
そんな日に海に入れたら良いのですが、クラゲも多くなる時期ですので、ウェットスーツやラッシュガードなどを着て、肌を出さないようにした方が賢明です。また、近くばかり見ることに集中していると、知らないうちに流されて沖に運ばれたり、岩場にぶつかったりするので、要注意。時々、あたりを見回すようにするか、誰かに見張っていてもらうようにしましょう。まずは、安全第一ですので。


○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。


*文中に出てきたプランクトンについては、どんな姿なのか、ネットの画像検索で調べてみてくださいね。


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