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『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』プロジェクト・アース・シンフォニー

そういえばドラえもんの映画に「音楽」がテーマの作品ってまだなかったんですね。内容はどんなもんかと思いきや、すんごい壮大で最終的にエヴァの人類補完計画を彷彿とするような幻想SFの域にたどり着いてました。たまげた。

はじまりはいつも通りのドラえもんって感じで、まわりの子に比べて上手くリコーダーを吹けないのび太がひみつ道具「あらかじめ日記」を使い、音楽の授業を無くしちゃえーというもの。日記に書いた文章が「おんがくがなくなった」なんて雑なもんだから、"世界中から音楽が無くなる"という展開に。日記のページを破り、書いた内容を無かったことにしたのでひとまず事態は収束します。

その後も大体セオリーに沿った展開で、河原で出会った歌うのが得意な不思議な女の子と仲良くなり、5人そろって「ファーレの殿堂」という大気圏外にある巨大施設、つまり今回の舞台に赴くのでした。それぞれのキャラクターに合った楽器を手に取り、みんなで音楽を奏でることでファーレの殿堂に活気を取り戻すというのが主目的。音楽のスキルも徐々に上がっていき、併せて楽器や演奏する曲も変わっていくため、ゲームのステージをプレイしている感覚があり、そのRPGっぽい要素をフックとして観ると、のび太たちとともにレベルアップしていく楽しさが味わえます。

逆に言えば中盤あたりからは先の展開がだいたい予想できてしまうため、ややダレます。私はちょっとダレました。細かい部分の整合性とか観客側の”納得度”がさほど高まっていない状態でキャラクターたちが動いてしまうため、感動する場面でいまいちチャンネルを合わせづらいなあとも思いましたし、後半になるにつれさらに話の規模が大きくなっていくことから物語としては破綻している点もあります。

でもねえ、この映画最後がすごいんです。地球全土を宇宙から覆い侵略を試みようとする外来生物のアメーバに対して、のび太たちが音楽を奏でることで対抗、まさに「ちきゅうシンフォニー」という状態を画と音楽で見せ、「音楽ってこういうもんだろ」と言葉要らずの説得をさせられます。特にいいなあと思ったのは、主役5人の演奏だけでなく、ママが包丁でキュウリをトントン切り刻む音とか、パパがトイレをジャーっと流す音、おじいさんが縁側で唄う演歌、ノコギリで木材を削る音、子どもたちが遊ぶ声、そういう名もなき人々が生活することで自然と生まれる音まで含めて「音楽」とすることで、かつてないほど、”5人以外のあらゆる人たち”にフォーカスを当てている感覚がありました。クライマックスでここまで地球に暮らす「市井の人々」に目を向けたドラえもん映画って無かったんじゃないかな。たぶん人によってはそこにすごく感動すると思う。反対にドラえもん映画に求めてるものが5人の冒険である人からはちょっと違う……と思われそうではあるなと。ちゅうか「音を食べるアメーバ」の設定って、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のあれっぽいよな、製作者参考にしてるんじゃないだろうか。

ベートーヴェンや滝廉太郎やモーツァルトといった有名音楽家を元ネタにしたロボットたちも協力し、スネ夫がライブに行く予定だった人気歌手ミーナも話に参戦、のび太のリコーダー、メインゲストであるミッカの過去、そういった前半部分で配置しておいた要素を最後のクライマックスで惜しげもなく投入。さらには曲の合間にはテレビシリーズを観ている方ならよく知る”あのメロディ”も入れてきて否が応にもエモーショナルな気分になっちゃいます。

ディズニーが『ファンタジア』において音楽の表現をアニメーションで豊かに楽しく表現していたように、この作品でも「音」を「アニメ」で演出している場面が多数。視覚的にも和気藹々としていて楽しい気分になりますね。

ただ、テーマの扱い方にはやや不満が残る出来で、のび太は最終的に割としっかりリコーダーが吹けるようになるわけですが、それだと結局「演奏が上手くないとダメなの?」ってことになっちゃうし、音楽が苦手でも興味が無くても、歩く音や息づかい、それだけで音楽となり得るんだよ、というところに繋げた方が良かったんじゃないかとは思います。そういう意味合いでママ、パパ、見知らぬ誰かの姿を描いていたはずなんだから、テーマをブレさせないためにはのび太をその真ん中に置いた方がより伝わったんじゃないかな。

中盤はややダレましたし、気になる点もある映画です。しかしなんというか力技でねじ伏せてきます。ねじ伏せられます。音楽とアニメの力を持って。特にクライマックスにおける壮大なSF的絵面と、市井の人々の暮らしをクロスカットさせていくシークエンスは印象的でした。

あと今回はドラえもんが故障する展開が用意されています。ちょっと『雲の王国』っぽくて逆に萌えました。目がバツ印になっていたりね。

さてさて、恒例となってる来年の映画予告ですが、ドラえもんが何かをスケッチしているところを見せ、その後大きな城を背景に杖を持ち、赤いローブを羽織って魔術師っぽい恰好になったドラえもんが映されていました。これはなんだろうね、パッと浮かんだのは『ゆうれい城へ引っこし』と『のび太と夢幻三剣士』あたりですが。リメイクなのかな。それとも原作の話を広げたオリジナル作品でしょうか。なんにせよ楽しみです。


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