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ウクライナ戦争と食料安全保障~戦争から1年~(CSISの記事)

写真出展:andreas160578によるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/andreas160578-2383079/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1325882

 CSISは2023年2月24日に、旧型半導体の現状に関する記事を発表した。内容は、2022年末から2023年3月までの食糧事情や今後の見通しを概観するものである。昨年12月も記事にさせていただいたが、食料事情は相変わらず深刻であり、今後の食糧価格高騰が予期される状況となっている。世界の食糧事情を見据えるうえで参考になることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(The Strategic Importance of Legacy Chips)
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/2023-03/230303_Shivakumar_Legacy_Chips.pdf?VersionId=3CnqsaOufV9_n0l35miYXEqfM8hpcZ6z

1.記事の内容について
 ・ウクライナ戦争において、ロシアはウクライナの農業部門を広範囲に攻撃してきており、CSISの2022年6月における衛星画像分析でもそれは明確だった。
 国連の食糧農業機関(FAO)、世界銀行、欧州復興開発銀行の調査によると、84200機もの農業機器が破壊され、400万トンの穀物及び菜種が廃棄ないしは接収され、940万トンの備蓄が失われている。金額的には66億ドル分の被害が発生しているが、逸失利益は342.5億ドルに達すると見られている。農作物の輸送などのインフラの損失により、さらに185億ドルの損失が上乗せられると見られている。
 ・国連世界食糧計画(WFP)の試算によると、1400万人が住居を失い、1800万人が人道支援を必要とする状況となっている。戦争前まで、農業はウクライナ経済の20%を占めており、年間の輸出額は278億ドルだった。戦争による農業部門の損失のため、2022年のウクライナのGDPは、30%も下落した。黒海穀物輸出支援事業により、ウクライナは2200万トンの穀物を輸出することができているが、これは戦争前の半分程度の水準である。更に輸送コストは1トン当たり30ドルから200ドルも増加しており、アメリカ農務省の試算では、小麦のここ半年の輸出は約37%も減少しているとしている。
 黒海輸出ルートが機能していないことから他の輸出ルートを確保する必要があるが、それは容易ではない。輸出減少に伴い国内の供給は過剰になり、国内の穀物価格は60%も減少していることから、2023年の生産量は3500から4000万トンも減少する見方もある。
 ・西側諸国は、ウクライナ戦争開始後もロシアからの肥料輸出は経済制裁対象から外していた。しかし天然ガス価格の高騰により肥料価格も高騰しており、更には肥料に利用される無水アンモニアの輸出も途絶え、肥料価格の上昇に拍車をかけている。現在の肥料価格は多少落ち着いているが、それでも2020年比で80~200%増となっている。
 ・ロシアとウクライナは世界の小麦生産量の3分の1、トウモロコシの17%、ひまわり油輸出の75%を占めていることから、今回の戦争は世界市場にも影響を与えている。2022年2月直後、FAOの農産物価格指数は過去最高を記録し、2022年3月には過去2番目を記録した。WFPの報告書によると、79か国の2億人が食糧危機に直面しており、2023年2月には過去最大の食糧危機が訪れる可能性が指摘されている。各世帯の栄養状況が悪化し、更なる人道支援も必要になることが懸念される。ここ1年で食料品価格は55%も増加し、東アジアは干ばつの影響で食糧輸入が必要な状況となっており、低所得者層の食糧事情は悪化するだろう。
例えば、エジプトは黒海経由の小麦輸入の85%を占めていたが、戦争に伴って小麦価格が30%上昇した。その結果、85%の家庭は肉の消費を減らし、75%は玉子の消費を減らしたが、その一方で芋やパスタの消費はそれぞれ、21%、14%増加している。国連の試算によると、2020年は最低限の栄養食ですら1日当たり3.54ドルも価格が上昇し、31億人の栄養状態が悪化するとしている。
 人道支援のコストも高騰しており、1か月当たりの必要経費は2019年比で7360万ドルも上昇していることから、人道支援を巡る状況も厳しさを増している。
 ・アメリカをはじめとした先進国は、食料危機の問題解決に取り組んでいる。昨年5月、ブリンケン国務長官は30か国の外務大臣級会合にて食料安全保障会議を開催し、9月には国連で世界食糧安案保障サミットを主催した。G7は食糧安全保障に関する取り組みを発表し、アメリカ国際開発庁は2億ドルを子どもの食糧支援に拠出するとし、その後2億8000万ドルの追加支援も発表した。アメリカ政府は2022年にWFPに72億ドル支援し、バイデン大統領はサハラ以南のアフリカ諸国向けの食糧支援を発表し、12か国から20か国を支援するとした。世界銀行は300億ドルの支援を発表し、食料及び栄養保障のため35億ドルの支援を決定した。
 ・ロシアは好天に恵まれ、2022年から2023年の農繁期にかけて4300万トンの小麦を輸出しており、ロシアにとって農業は大きな収入源となっている。ロシアの食糧需給への影響力を低減させるためには、世界各国の外交が重要である。当面、ウクライナの農業投資支援などにより世界の食糧需給を安定させる必要がある。

2.記事読後の感想について
  食糧危機があまりニュースにならなくなったが、事態は相変わらず深刻なようだ。日本に影響がなかったとしても、欧米諸国への影響は甚大である。
  日本は外務省が途上国向けのODAで食料確保に奔走しているおかげか、物価上昇も相対的に穏やかであるが、近隣諸国が被害を受ければ、同様の状況が生じうる。その最たる事案は、台湾有事となるだろう。台湾海峡を通過する輸出タンカーの数は、尋常ではない。中国が台湾を侵攻すれば、日本は輸出路を絶たれることとなり、数日のうちに兵糧攻めで窮することになる。今回のウクライナ侵攻を地球の裏側の事件としてのんきに見ているべきではない。  
  ただ残念なことに、日本は情報鎖国状態で危機感が共有されていない。テレビ、新聞、週刊誌といった情報源は、所詮エンターテイメントに過ぎず、重要な情報を供給することはほとんどない。インターネットにおける優良な情報番組などに注目するだけでなく、海外メディアの翻訳など、情報源を幅広く開拓していくことで、質の高い情報にアクセスすることができるのである。

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