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中国の半導体生産戦略は機能しているのか(LSEの記事)

写真出展:Jacek AbramowiczによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/jacekabramowicz-1981807/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1201077

 2022年9月1日にLSEは、中国の半導体戦略の現状に関する記事を発表した。内容は、現在の中国の半導体生産状況や今後の展開を概観するものである。今回は特に中国の国内での政策状況に着目した内容となっており、今後何をしていくのか、どのような展開になるのか良く分かる内容となっている。半導体産業の行く末を予測する参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Ask the Experts: Is China’s Semiconductor Strategy Working?)
https://blogs.lse.ac.uk/cff/2022/09/01/is-chinas-semiconductor-strategy-working/

1.本記事の内容について
 ・中国は半導体生産の海外依存を低減するため、各種政策に取り組んできた。2021年の半導体輸入額は4,320億ドルにも上っており、これは小麦や石油の輸入額に匹敵する水準であり過大なコストになっているだけでなく、米中貿易戦争による先端半導体を入手できなくなるという技術覇権の問題もあり、中国は対策に乗り出さざるを得なくなっているのである。
 ・中国の半導体生産の中心は24ナノメートル以上の製品が大半であり、5ナノや3ナノの最先端製品はおぼつかない状況である。先端的な半導体はTSMCとサムスンに握られているだけでなく、自前で生産するとなると多額の投資や生産に必要となる部品、薬品などの多岐にわたるサプライチェーンも必要となる。生産装置についてはアメリカが知的財産を握っていることから容易に輸出規制可能であり、オランダのASMLの極端紫外線露光装置の禁輸はその最たる例である。
 ・それでも中国のSMICは、深紫外線露光装置を活用して7ナノメートルの半導体を生産し始めている。深紫外線露光装置は極端紫外線と比較して3から4倍も露光させる必要があり、経営的に成立するかは疑わしい。また2014年に設立されたIC投資基金も400億ドルの資金がありながら、2022年の投資評価ではほとんど成功していないとされ、不正や汚職の調査が進められてさえいる。
 ・では中国が完全に失敗しているのかというと、そうではない。中国が生産している半導体は世界的に重要であることには変わりなく、上海STARハイテク市場のような集金システムも有力である。本質的な問題は多岐にわたるサプライチェーンへの対応であり、これは他国も苦慮している問題なのである。
 ・2015年に策定された「中国製造2025」は、2025年までに中国が必要とする半導体の70%を国内生産するという目標を設定している。2020年8月に発表された新時代IC及びソフトウェア開発に関する政策通知では、研究開発、人材育成、教育などの促進政策の重要性を提示している。これらの取組は一定程度の成果を上げており、中国の半導体生産額は世界の7.6%を占めており、中国国内の半導体装置の売上額は、2015年に130億ドルだったが、2020年には398億ドルに達している。また中国の半導体生産企業は、2011年に1300社だったが、2020年には22800社にまで増加している。
 ・ブルームバーグの8月の報道では、SMICが7ナノメートルの半導体生産に成功したとされているが、専門家は世界的に展開できるほど生産することができないと見込んでおり、更にアメリカや同盟国が多国間の枠組みで輸出規制を強化するともされていることから、中国は更なる苦境に陥ると見られている。
 ・ICについても半導体と同様に苦戦しており、製造2025では2020年までに必要量の40%を国内生産するという目標を掲げていたが、現状としては16%であり、2025年においても20%程度までで留まると見込まれている。半導体関連製品は高度な技術でかつ参入障壁が高いものが多いことから、1国で全てを掌握することができないのである。より現実的な政策は、個々の企業が得意分野に特化し、他の製品については、同業他社と補完しあうことである。
 ・中国の産業政策のうち基金のみが目標を達成していると言え、回路設計、生産、組み立て試験、パッケージング、メモリーチップなどに多額の投資がされている。1兆元にも及ぶ基金は民間も参画しており、特に回路設計分野が興隆することとなった。ある識者によると今後数年のうちに大きな成功を収める可能性があるとしており、世界のサプライチェーンの中で大きな存在感を示すことになるだろう。その場合、中国とのデカップリングを望まない国々も出てくるだろう。

2.本記事読後の感想
  経済の難しさがわかる記事である。中国は粗製乱造で何か一つでも当たればいいと思っている節があり、多額の資金を投じているにも関わらずコストパフォーマンスが非常に低く見える。ただ7ナノメートルの半導体生産にこぎつけているという所をみると、過小評価するべきではないのだろう。
  最近は半導体基金が不正申請や横領などの問題にまみれているということで、政治闘争の道具として利用されているようだが、こういった情報から中国がプロパガンダをしているだけで、内実は伴っていないと侮ってはならない。不正のニュースの影で成果を出しているという部分は注目しておくべきであり、世界のサプライチェーンにおいて重要な位置を占め続けているということは現実として受け入れておかなければならない。
  結論としては、技術競争は適正に評価しなければならないということである。過大評価も過小評価もしてはならず、現在の状況を正確に把握しなければ、有効な政策を考えることはできないのである。

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