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美術展観賞記録

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展覧会に行ったときの感想文。Instagramに投稿しているものと基本的には同内容です。
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【画像11枚】「女子美術REUNION」(松坂屋上野店 美術画廊)

【画像11枚】「女子美術REUNION」(松坂屋上野店 美術画廊)

 女子美術大学出身者によるグループ展。上野店とは言いますが、最寄り駅は御徒町でございます(上野公園からは徒歩10分強といったところ)。
 どうやら自分は海が好きなようで、その意味でも中嶋彩乃さんの描く海が良いなと思いました。以前から軍艦や波といった、海にまつわる題材をひたすら描かれている方で、特に澄んだ空気感であったり、青い海をたゆたう白い波の「生きた」塩梅であったりが気に入っております。朝方だっ

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「デ・キリコ展」(東京都美術館)

「デ・キリコ展」(東京都美術館)

 一般的に「絵画」というと、たとえば人物や池、リンゴというように、現実にある何かしらの「もの」が描かれていた/いるもの。それが20世紀に入り、キュビスムや抽象絵画が登場すると、その「常識」が少なからず揺さぶられるわけですが…同時代を生きたデ・キリコの描く「形而上絵画」の場合、石像、マヌカン(マネキン)、どこかしらの路上、室内という風に、描かれているものはいちおう現実に存在するもの。
 しかし問題は

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【画像11枚】「法然と極楽浄土」(東京国立博物館)

【画像11枚】「法然と極楽浄土」(東京国立博物館)

 法然は平安末期から鎌倉初期にかけて活動した浄土宗の開祖。ざっくり言えば「南無阿弥陀仏」と念仏を唱え続けることで、極楽浄土に往生できると法然は説きました。密教などと比べると簡略化された印象もありますが(弟子の中にも、都合良く拡大解釈する向きもあったようです)、その背景には末法の世の中、そしてより多くの人々を救いたいと考えた法然の考え方があります。
 ちなみに法然は地方武家の子で、夜襲により父を亡く

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【画像15枚】李晶玉個展「アナロジー:三つのくにづくりについて」(N&A Art SITE)

【画像15枚】李晶玉個展「アナロジー:三つのくにづくりについて」(N&A Art SITE)

 昨年川越で開催していた「神話#2」(NANAWATA)の延長とのこと。私がコロナ感染したりして、「神話#2」の展示を観ていなくて色々アレですが、日本・韓国・北朝鮮にまつわる建国神話を取り扱った内容だったかと伺っております。今回もその時の作品が展示されている様子。

 一つの国につき、併置されるのは三つの作品。日本を例にとると、最初に展示されるのは鉛筆画による天岩戸。次に、少し大きめのカンバスに国

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【画像6枚+α】「ライトアップ木島櫻谷」(泉屋博古館東京)

【画像6枚+α】「ライトアップ木島櫻谷」(泉屋博古館東京)

 三つあるうちの、最初の展示室1がとにかく美しい。

 そこには5点ほどの屏風と水墨画掛軸(今尾景年《深山懸瀑図》)、写真撮影に関するパネル、あとはベンチが2つあるのみですが、そのベンチに座って、この後の作品や予定も一旦かなぐり捨て、腰を据えて長居したくなるような雰囲気があります。強いて言うならベンチをもう少し入口近くに置き、5点の屏風を眼中に収められる位置にしてほしかったぐらい、完成度の高い展示

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「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

「浮世絵の別嬪さん - 歌麿、北斎が描いた春画とともに」(大倉集古館)

 タイトルにはありませんが、今回は肉筆オンリーの展覧会。個人的に版画のほうはたくさん観る機会があるのですが、肉筆のみの展覧会というのは地味に初めてかもしれません。春画の展示は3フロアあるうちの、地下1階のみ。中学生以下(入場無料)は地下1階はご遠慮を、ということでしたが、春画無しでも十二分に楽しめる展覧会です。

 通常の浮世絵(多色多摺の錦絵)は版元が企画を立案し、それをもとに絵師が絵を書き、彫

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【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

【画像24枚】「平野杏子展 -生きるために描きつづけて」(平塚市美術館)

 子育て等の悪夢から見たきっかけに具象絵画から抽象絵画へと進み、そこから更に仏教芸術の要素をミックスするなど、複数回にわたる作風の変遷を繰り返した平野杏子。抽象画と仏教芸術のミックスはポップアートのようなコラージュ調でもあり、一方で構図に対する関心も伺えます。

 卵や目玉などのモチーフを描きつつも、後期に入るとブランクーシ?な抽象彫刻もあり点描もあり民藝調もあり…自分の感情に正直に、描きたいもの

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【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

【写真35枚】「ここは未来のアーティストが眠る場所となりえてきたか?」(国立西洋美術館)

 西洋美術館にとって初めてとなる現代芸術展。しかし、西美の礎となる「松方コレクション」を収集した松方幸次郎はそもそも、若い芸術家達に"本物"の芸術を見せてあげようと意図したと言われております。その"本物"の芸術に触れた芸術家たちは果たして西洋の名作と比肩する作品をものにできているのか、今回の開催はむしろ自然な流れと言えるのかも知れません。

 今回の展覧会はアーティゾンの行う「ジャム・セッション」

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「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

「ブランクーシ 本質を象る」(アーティゾン美術館)

 思えば私が美術のことを勉強し始めた時、そのときに初めて知った名前の一つが今回のブランクーシ。いわゆる抽象彫刻ということもあり、手がかりの乏しさを感じる人もいるかもしれません。
 写実彫刻をやっていた頃はロダンに傾倒し、そのロダンに激賞されるほどの腕前だったそうですが、「大木の下ではなにも育たない」と言い、ロダンの影響下を離れ、独自の道を歩むことになります。それは単純なフォルムかつ、石や金属といっ

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「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

「フランシス真悟 - 色と空間を冒険する」(茅ヶ崎市美術館)

 アメリカ、そして鎌倉をメインに活動を続けるフランシス真悟の、国内初の大型回顧展。

 画面の形こそマレーヴィチ等を連想する抽象絵画ですが、たとえば〈Infinite Space〉(1,2)の場合、カンバスの隅に重ね塗りの形跡が残っています。よく見るとメインの画面も丁寧に塗り重ねられたハケの後が残っており、まるで夜明けのさざ波を眺めているかのような気分。画面上下にある塗り残しはまるで波打ち際…手仕

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「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

「没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる」(東京都写真美術館)

 戦前~戦後にかけて、小型カメラのライカを手に街に繰り出し、「ライカの名手」として名を馳せた木村伊兵衛。
 その写真は非常に軽やかなテンポに溢れるもの。肖像写真などでは比較的安定感がありますが、自らを「報道写真家」と自称したのはなるほどと。メインの被写体が中央で目立つ隅でカメラマンを怪訝に観ている人をトリミングしていなかったり、素材としての生々しさを残すところはある種報道的だと思いました。

 パ

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「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

「マティス 自由なフォルム」(国立新美術館)

2023年春にも東京都美術館で開催されたマティス展。コロナ禍による延期の影響で、ちょっと珍しい2年連続開催となりました。なお、前回はポンピドゥー・センター、今回はマティス美術館のコレクションが中心となっており、主催も異なる別個の展覧会です。
 
前回も前回で面白かったんですが、マティスの集大成と言える《ロザリオ礼拝堂》が映像展示で、レプリカ等による再現が無かったことに「無いのか…」と思ってしまった

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「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

「第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで生きてる」(横浜美術館)

 タイトルにつけられた「野草」というのは中国の小説家である魯迅の散文詩集のタイトルより。前回は確か夏頃の開催ということもあり、「楽しい」という印象も強かったのですが、今回は昨今の世相を反映し、シビアな話題に触れた作品が多かったように感じました。「楽しむ」を目的に美術館に行くと面食らう作品が多いかと正直思いますが、かつてジェリコーやゴヤがそうしてきたように、同時代を生きる現代芸術だからこそできること

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卒展に行ってきました。

卒展に行ってきました。

 人はなぜ、卒展に出かけるのか。

 私が初めて卒展に出かけたのは昨年。
 エゴン・シーレを観に東京都美術館に行った帰り、ふと見かけた東京藝術大学(藝大)の卒展を観たことがきっかけでした。本当は事前予約制だったらしいのだが、受付で話したら「いいですよ」と、あっさり会場内に入れてくれました。優しい。

 もちろん卒展で展示される作品が、制作された大学生・大学院生達にとってのベストバウトであることには

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