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ヴィエラの改革を参考にFC東京の「改革」を考察する

長谷川健太体制での堅守速攻からの変革を掲げアルベル新監督を迎えたFC東京の2022シーズンが勝ち点49の6位で終わった。

FC東京公式FANZONEが監督インタビューを連載しており、(どこまで本音か分からないが)彼のプランや現状の評価を知る上である程度参考になる。彼は自らをリアリストと評し、今年は「最低限のポイントを現実的に拾いつつ完成度を高めていく」計画であることは繰り返し強調されていた点だ。

そのため結果に関して私としては、残留争いに巻き込まれずにトップハーフで終えたことを評価するというスタンスを取る。

このnoteでは、「変革」がどのようなプロセスで行われ、現状の課題と出来ている事を整理し、来シーズンの展望につなげたいと考えている。

参考としたいのが、プレミアリーグのCrystal Palaceだ。長く続いたHodgson政権でのローブロック&カウンターという受動的なアプローチからの転換を図り、Vieira監督の下でアグレッシブで能動的なチームへの変革を始めて今年で2シーズン目。

FC東京と違ってリーグ内での相対的な立ち位置は低く目標はトップハーフとするクラブなので一概に同じとまでは言えないが、全試合視聴しているプレミアリーグの中でFC東京に最も似ているのは彼らだ。

まずは、半年早く改革を始めたCrystal palaceの変革を見ることで、FC東京の考察につなげる。

Crystal palace 21-22

基本布陣


Crystal Palace FC 21-22

ベースは4−3−3。保持時は左肩上がりの3−2−5へ変形する。攻撃的に振る舞うときにはOliseやEzeといったテクニカルなアタッカーを投入し4−2−3ー1気味にすることも。

自陣でのビルドアップ

彼らのスカッド、特にエースのZahaを活かすため、ビルドアップの目的はアタッカーが勝負するための時間や場所の貯金を作ることにある。そのためには相手を退却させるというよりはラインを越える必要がある。

GKのGuaitaは繋ぐ技術が高いとは言えず、サイドを逃げどころにしたロングボールが多く見られた。CBのAndersenからのフィードは大きな武器となり、背後にも対角にも鋭いボールを蹴ることが出来る。しかし、彼もGuehiも持ち運びを得意とはしておらず、ブロックで構えられると苦労していた。

SBの2人も基本は対人守備の強さを売りにしており、大外レーンを主戦場としてきた。中盤で受け手となるKouyateはターンの技術が高いとは言えない潰し屋タイプで、ボールを握る時間が長くなると予想出来るゲームでは足下の技術に優れるHughesやMcArthurが起用された。

ビルドアップの課題は、特にGKとSBの技術不足が真っ先に指摘されるが、それ以外にも場所と時間双方に問題がある。

①出し手が相手を止めてテンポをコントロールすることが出来ない
速くなるとエラーが起こりやすいという当然のこと。相手が無理に奪いに来てバランスを崩すのを待ち、矢印の逆を取らなくてはならない。

②受け手がマーカーに捕まることを嫌がって降りて来てしまう
受け手は本来相手選手の背後に立つことでプレス隊を広げて連動させないようにすべきなのだが、相手を引き連れて降りて来るとプレスの餌食になりやすいし、敢えて引き込んでいるのでない限りは良くないプレーだ。

どちらも共通して言えることは、相手の守備ラインと駆け引きする意識が薄かった。これでは相手は秩序を維持してプレッシングをかけやすく、選択肢が狭まる保持側は自陣から貯金を持ち出すことは至難の業だ。

敵陣での攻撃、プレス

シーズン当初は敵陣に押し込んでも、ビルドアップの流れのまま静的な配置を維持して、幅は取って5トップの陣形こそ取るが、チャンネルを走り抜ける動きや背後を狙う動き、サイドでの旋回など動的な構造が生まれずに苦戦していた。

しかし、徐々にレフトバックのMitchellがインナー/オーバーラップを使い分けることを覚えてZahaの仕掛けを助け、トップのポジションを勝ち取ったMatetaは背後を取る動きで相手のバックラインを乱し、IHの2人はチャンネルランを繰り返してポケットを取るなど、動的な構造が生まれた。

奪われても即時奪回の意識は高く、高い位置で奪うか、それでなくとも相手にアバウトなクリアを強いて回収して攻撃に繋げた。予防的な配置も取れている場面がほとんど。ハイプレスのスイッチは主にGallagherが入れ、明らかな格上以外との対戦時には能動的かつアグレッシブにボールを繋ぐ、奪う意識を高くプレーしていた。

元々カウンターが得意なチームなので、速攻で得点を取りつつ最後は持ち前の粘り強さで耐え抜く試合運び。しかし、セットプレーでの失点の多さが響きトップハーフでのフィニッシュはならず。

いかがだろうか。選手の特徴、抱えている課題、ポイントを重ねた(崩壊しなかった)要因。全てFC東京に通じる面があると私は思う。ではここでFC東京の2022年を振り返ることにする。

FC東京 2022

基本布陣


FC東京 2022後半戦

自陣でのビルドアップ

シーズン当初は青木がアンカーを務めたが、一貫してほとんどサリーダ(中盤の選手がバックラインに降りること)はせず、CBからのパスコースを前方に多く確保するとともに、サイドバックは外から動かさなかった。

ビルドアップの目的は恐らく前線に起用される選手のキャラクターによって異なっている。ウイングに紺野やアダイウトンがいる時にはCBからのロングボールも多用していたように、大外で幅を取る選手が仕掛けるスペースと時間を与えることにある。レアンドロや渡邊は中央に現れて受け手となるので、ディエゴのキープ力を活かしてミクロな数的優位を発揮させるよう、その手前では相手の陣形を引き伸ばすための保持だった。

GKのスウォビィクはコースが空いていても中央に縦パスを入れるチャレンジがまず見られないし、ボールが来た方向にトラップするのでプレッシャーを受けやすいし、サイドバックへのミドルパスの精度も低いし、ビルドアップ適性は全くないと言って差し支えない。

CBは2枚ともロングフィードの質は高いが、木本は運ぶドリブルを得意にはしておらず、森重も衰えが隠せない。SBはバングーナガンデが徐々に技術面の向上が見られ、長友もポジショニングを間違えないものの、プレスを剥がすことは両名とも得意とはしておらず狙い所にされやすかった。

アンカーの東は技術、テンポ調整ともに見事。塚川と松木、安部のインサイドハーフは強度に特徴のある選手たちで、ターンが苦手な点が共通する。松木は位置もターン技術も向上が見られ、塚川の止める蹴るはさすが川崎にいただけのことはある。この2枚が定位置を掴んだ理由だろう。

課題はPalaceと同様。まずはGKとSBの技術不足。そして、それに起因する事象ではあるが、テンポコントロール。さらに、SBやインサイドハーフが相手を引き連れて降りて来てしまう点も共通している。(ただし、長友が中央に流れて渡邊がサイドで引き取り手になるという工夫は見られた。)

駆け引きという点で言えば、シーズンが進むにつれて、CB、SB、アンカー、インサイドハーフの菱形による保持に奥でディエゴや渡邊が受け手として選択肢を作っていたこと(特にアウェーの柏戦)、相手の陣形に応じて3−1型の保持も見せたこと(特にホームのセレッソ戦)はポジティブだ。

敵陣での攻撃、プレス

ビルドアップが完了して敵陣に押し込んでも打開策が見つけられないゲームが多かった。数試合で紺野の右サイドでのアイソは警戒され、ディエゴもサポートが少なく孤立。

ポケットに走り込む動きを長友、安部、松木、永井は行えていたがゴールエリア目がけてのニア、ファーの使い分けに終始し、ゴールは数えるほど。

ラスト2試合のように相手に引かれると一定のテンポでブロックの外側を回すのみ。背後を狙うなど相手のブロックを乱す動きはなかった。

一方で、ポイントを重ねる要因となったのは元々スカッドの特徴であった強度と速攻。昨シーズンまでの2シーズンは永井とディエゴに中盤より後ろが連動出来ずにいたプレッシングを整備。ウイングが外切りして中盤中央で奪う形がスタンダードであった。

即時奪回の意識は高く、予防的な配置も整理され、ショートカウンターでゴールを重ね、コンパクトな陣形を維持して失点を抑えたことが6位に踏み留まった要因だろう。

しかしここもPalace同様にセットプレーでの失点は多く、逆に得点は少ない点は「結果」を追い求める上で克服しなければならない。

以上のように共通点の多い改革初年度の2クラブ。では、一足先に2年目を迎えたPalaceの

Crystal Palace 22-23

基本布陣


Crystal Palace 22-23

課題だったSBは補強せず。GKはイングランド代表歴もあるJohnstoneを補強するもGuaitaから定位置は奪えず。非保持ではプレスのスイッチを入れ、保持では動的構造を生むランやミドルシュートの脅威もあり、まさに獅子奮迅の働きだったGallagherはChelseaにローンバック。アンカーはKouyateより読みが鋭くボール扱いも苦にしないDoucouréを補強。

変化

1点目はOliseをインサイドハーフに配して右ウイングにAyewを置く場合があることにも象徴されるように、保持志向を高めている。当初は受け手が降りて来て詰まる時間帯はあるものの、徐々にそれも解消されつつある。

Gallagherと違って狭い中でのドリブルやコンビネーションを得意とするEzeが中核となっているため、左サイドではMitchell,Zahaとの三角形で奥を取る場面が増えた。右はOliseのキックやドリブルを活かすためにSchluppとAyewが場所を作るプレーを見せる。

最も評価出来る点は相手との駆け引きが出来ているように感じる点だ。昨シーズンは自分達の型優先で練度を高める時期だったのだろう。しかし今シーズンは相手のプレッシングによって、Mitchellが低い位置にステイして相手を引き出す、受け手が相手の中盤から離れながら受ける、ライン間に現れて出し手のCBと繋がって2ライン一気に越えるなどの場面が多く出ている。

それが結果にも現れており、ここまで既に逆転勝利を4回達成している。相手の出方を受けて問題点をピッチ内で解決し、そして監督が修正を施して実践できている証だ。

2点目はプレッシングだ。前から追い回して方向付けも相手の保持の精度を落とすこともこなしていたGallagherの代わりをタイプの違うEzeに求めるのは無理がある。そのためボール循環の方法を見つけるまでは主導権を握られがちであるし、押し込まれる展開を押し戻す手段を欠き、一方的に殴られる展開になってしまう。

逆転勝ちが多いとはそれだけ先制点を取られているということだし、勝てていないゲームで試合を支配したと言えるのは1試合(vs Brentford)のみ。強豪相手には難しい戦いを強いられている。

FC東京 2023展望

長くなってきたが本題はここだ。Palaceを参考に来季に向けた伸びしろや懸念材料を洗い出しておきたい。

ビルドアップ

正直人の入れ替えが手っ取り早い手段。GKはルヴァンカップで悪くないフィードを見せた波多野に期待しつつ、(高丘、朴に並ぶレベルは贅沢かもしれないが)ビルドアップ貢献の出来る選手を補強すべきだ。SBも中村は厳しいと言わざるを得ない。受け手、出し手の技術向上が時間と場所の問題解決につながるだろう。

ただ、ファーストチョイスが変わらなかったPalaceでも能動的な立ち位置を取って、相手を引き出す、奥を取るということが出来るようになった通り、型通りではなく相手のプレッシングを観察することにも伸び代はある。

4−4−2のガンバ、神戸、福岡、そして5−3−2の湘南、名古屋。彼らのように受け手の選択肢を削りながらコンパクトに追い込んでくるチームへの苦手意識を克服するキーは相手の秩序を乱す立ち位置とボール循環だ。

敵陣での振る舞い

ビルドアップの質が上がれば(そしてターンが上手くなれば)ライン間でインサイドハーフや渡邊が前を向ける場面が増え、ディエゴの負担は減り、ウイングが場所と時間の貯金を持って仕掛ける機会も増えるだろう。

そのような(擬似)速攻は心配していないが引かれた時の手段に乏しいことは問題だ。参考になるのはArsenal。左サイドでSB、中盤、ウイングが三角形を形成し、旋回しながら相手のマークを撹乱。さらにはトップのJesusが4人目として奥に現れる。そうして相手を寄せて右はアイソレーションしているSakaが1on1を仕掛けてドリブル突破からチャンスを作る。

そうしてサイドの攻略をした後の手段も必要だ。ポケットを取った後の折り返しはファーに送る場面(ホーム神戸戦の永井→アダイウトンなど)、ニアに鋭いボール(ホームセレッソ戦の安部→フェリッピなど)に終始。

だが最も得点可能性が高いのはプルバックのマイナスクロス。Arsenalで中盤のØdegaard,Xhakaが得点を決める形だ。(Cityも川崎も横浜も多い)

もう一つは自分達で形を示した。最終節の2点目。紺野がハーフスペースの手前から逆サイドのハーフスペースの裏に送り込む。そこに現れたフリーの渡邊の折り返しにアダイウトン。守備ブロックの泣きどころを使うこのクロスもArsenal,City共に多用している。

ビルドアップ・崩し双方に関わり、出し手にも受け手にもフィニッシャーにもなる中盤のクオリティ。それに加えて彼らには強度を維持することも義務付けられている。

Eze,Oliseの2人で保持時のクオリティを向上させてもGallagherが担っていた非保持での能動的な振る舞いが失われたことで殴られる時間を増やしてしまっているPalaceを考えても、上位進出のためには強度と運動量の両立が必須だとわかる。

その点、小泉慶の獲得報道が出るということはフロントもアルベルも強度を一貫して求めていることがはっきりしている。シーズンを通して大きく成長した松木がさらに成長を加速させれば言うことなしだ。

総括

相手に対しての解決策を見つけ90分間で勝ち切る川崎、相手に時間と場所を押し付けて自分達の土俵で戦う横浜。彼らに追いつくためには相手を上回る強度(と集中力)を維持しつつビルドアップとプレッシング双方で能動的に振る舞って「相手」に対して優位に立つ戦いをする他ない。

オフシーズンの補強、個人の成長、ユニットの連動、集団の意思共有。強度という今までの良さを残した上でこれらを愚直に追い求めた先に、一段上の景色が待っているはずだ。

2023年もFC東京と共に、旅をしよう。


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