指導者2年目

母校の中学校での指導の2年目シーズンが終わった。ブロック大会進出は果たすものの都大会には出場出来ず。結果としては昨年度と全く同じだが個人的にはより指導者としての枠が広がり、自分を評価する第二の自分を外在させることも出来たと感じている。

指導の際の心構え

私が中高で指導者を信頼出来ずにモチベーションを失ってしまった経験に起因している考えだが、1年ごとにメンバーの入れ替わりがある部活動で「指導者のやりたいサッカー」が先行することは不必要だ。

私の仕事は、
・個々のスキルアップの手助けをすること
・創造性や個性を殺さないように原則を設定すること
・サッカーの構造、チームの戦い方への解像度を上げさせること
・ゲームに臨むモチベーション、目的を揃えること
・試合で勝利するための作戦と戦術を立てること

上記のミッションを達成するために長期の強化戦略を立て、日々のトレーニングを設計し、必要に応じて個々の選手とコミュニケーションを取る。

自分自身のアップデート

インプット→思考→アウトプット→評価→改善

このサイクルを回すことを意識している。インプットは多様であることを意識している。プロの試合、他の中体連のチームの試合、書籍、Twitter、他分野の知識。

最先端の戦術を理解し、プロの試合をある程度分析(というか言語化)出来るようになっても、それを中学生の戦略、戦術にそのまま持ち込むことは出来ない。伝え方、トレーニングを通じた落とし込み方も工夫しなければならない。

そして実際にトレーニングや試合を行なって、自分の指導法と選手たちのプレーぶり、上達具合を評価する。それを基に次なるトレーニングの設計や、計画を柔軟に変更する。(軸を見失わないように!)

昨年度は正直このサイクルを上手く回せていなかった。指導を始めた当初は同じメニューに傾倒し、難易度の高いプロのトレーニングをそのまま導入したりもした。

しかし、ボール保持で立ち位置を教えることが結果としてゾーンディフェンスの原則落とし込みにつながることを図らずして発見したことは大きかった。このような自分の経験からのインプットも大切なものとなる。

今年のチームの理念、戦略

1年前の大会はゾーンでの撤退守備からのロングカウンター1本槍でロースコアのゲームを制して結果を残した。しかし、新しい代のコアメンバーはテクニックに優れた選手たちだ。彼らに聞くと(日本代表とは違って部活動なのでこのアプローチは正当でしょう)やはりボールを握る能動的なスタイルへの希望があった。

これを踏まえ、積極的かつ能動的なアプローチでゲームの主導権を握ることを志すことに。しかし、技術に不安のある選手が多い状態で自陣ゴール近くでボール保持を行うことはプロであっても難しい。

そこで、昨年度培った強度は出来るだけ維持しつつ(要求水準を据え置き)、その上で敵陣で幅を使ったアタックと予防的な配置を組み合わせて保持→展開→回収のサイクルを回すことを優先的な戦略とした。

草の根ならではの課題、コミュニケーション

少し脱線するが、この環境ならではの難しさは多く存在する。

毎週起こることとしては塾を優先する生徒がいること。中高一貫の中1、2の塾など本当に大事なのか?とも思うが、私は卒業生の中でも受験大失敗組なので説得力がない。

これは私が現役の頃からあった難しさだが、学校行事のプライオリティが部活より上であること。さらにそこにコロナ禍が加わり、継続的な強化や全員の士気を揃えることが難しかった。

スケジュール面だけでなく、14歳ならではの難しさも当然存在する。ご自身の中2時代を振り返って欲しい。子どもとして扱われることを嫌い、特に中高一貫校の生徒にありがちだが見る世界が広がったことで全能感のようなものを持っている。

当然コミュニケーションに工夫をしなければ私の言う事など聞いてくれない。昨年度は最高学年の人数が少なかったので彼ら全員と距離を近くし、サッカーと関係ない話で壁を作らないようにしていた。

今年度は昨年度から起用していたコアメンバーとそれ以外のメンバー間で扱い方を変えた。気の強いコアメンバーには信頼を示すことが大事なので戦術変更や新選手の抜擢は先に伝えておく。そして要求水準も高くすることで彼らに主力としての自覚と向上心を持ち続けることを促した。

他のメンバーに対しては基本的な技術指導はもちろんのこと、課題をはっきりと指摘し、それをカバーする術を伝える。そして重要なのは彼らの良いプレーを見つけて褒めること。明らかに自信を持ってプレー出来るように変わっていった。

実際のトレーニング

重視したのは、
・相手なしのドリルは基本的に行わない
・トランジションを発生させる
・方向をつける(ミニゴールの設置等)
・同じようなメニューでも場所と制約を変更する

基礎練習やパス練習からトレーニングを始めるが、このメニューも慣れが出ないように数回変更した。パスには動きとターンを含めた。

その後はロンドか3vs3vs3。後者はビブスの色を3色使い、認知負荷をかけた上でトランジションも保持の仕方もトレーニングできるので気に入っている。

ここまでがルーティン。後はテーマごとに、幅を使った保持(+ゾーンディフェンスが裏テーマ)、ビルドアップvsハイプレスの構造、対人メニュー(奪って攻撃に転ずるために守備側を多くすることも)。そしてゲーム。

2月にフットボリスタから発売された「トレーニング×学問化」の号は私に影響を強く与えてくれた

制約や条件を変えることで解決策を選手たち自身に見つけさせ、それが集団として、そして個人としてのレベルアップや試合中の応用が出来る。3月からのわずかな期間では成果がはっきりとは見えなかったので来季に持ち越しとなる。

しかし、ヒントを与えつつではありながら選手達が状況を解決するプレーを見つけ、選択できるようになった部分もあり、それが得点力の強化につながった。

ゲーム、大会本番

毎週末ゲームがある一度大会が始まってしまえば、私がやれることはコンディション調整と、相手のスタイルに合わせた戦術の落とし込みだけ。

相対的な力関係で格上はどうしても出てきてしまうので、その際は割り切って532で撤退守備をするやり方も準備した。また、こちらがボールを握れるであろうゲームを控える週にはゴール前でのスピードを意識したメニューを組んだ。

ただ、面白いのがこちらから働きかけなくとも、選手達は公式戦という舞台で成長するのだ。格上とのドローから予選をスタートしたことで自信を持ち、2戦目で敗戦し追い込まれ、3戦目でようやく7得点を奪っての大勝でリバウンドメンタリティを示した。

その過程で選手間のコミュニケーションの量は増え、強度の出力をコントロール出来るようになり、落ち着いたボール保持も可能となった。

とにかくチームとしての意思を揃えること。私の言葉や指導の癖が反映されているような気もしなくはないが、トーナメントというわかりやすいコンペティションの良さは一体感を、戦術面でもメンタル面でも持つことを可能にしやすいことにある。

最後は暑さと相手の圧倒的な個の力と自分達の怪我人といったマイナス要素をはね返せずに完敗を喫したが、そこに至るまでの過程は満足できるものであったのではないか。

来年に向けて

長くなってしまったが、来年に向けた目標を示して締めたい。

まずトレーニングでは前述の通り、ディファレンシャルトレーニングの要素を全面に出してみること。反復や訓練のようなメニューよりも楽しいだろうから。そして、私が指導に行けない日には自分達で制約を考えてメニューを組めるレベルにまでなって欲しい。

部員がサッカーを、そしてこのチームでプレーすることを楽しみ、振り返った時に良い思い出であって欲しい。(スポーツは教育的意義とは引き離して考えるべきだし、まして私は教員ではなくコーチだ。)

綺麗事だと思われるかもしれないが、学生の、それもスポーツ推薦などない(サッカーで進路を決めることが全く要求されていない)学校で一番大事な目的は結局のところ、良い時間・思い出にすることと生涯サッカーを愛し、趣味としてくれることだろうと思う。あわよくば優れた頭脳をサッカー界に還元する流れを作りたい。

サッカーが上手くなること、そして試合に勝って大会で好成績を残すことはその目的実現のための手段だ。










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