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22-23プレミアリーグ 全体総括

2022-23シーズンのプレミアリーグが終わった。
全試合視聴を始めて3年目。(380試合×3シーズン=1140試合!)
来年4月から社会人になり、指導者の現場にはいられないので今季限りだ。

さて、過去2シーズンは全チームの概観を記したが、各チームのファンの方々より解像度がどうしても低くなる。

同じ38試合を観てるのに差が生じる理由は、選手個々の特徴を把握することにまで私の関心が至らないからだろう。戦略、意思共有、原則、振る舞いの整理の仕方、など大枠を掴んで、その日のゲームプランまでは思考を巡らせることが出来ても、それよりさらにミクロな階層に踏み込むことは難しい。

ということで今年は、シーズンを通して感じたいくつかのテーマについて掘り下げてみたい。

1 圧倒的なシティとライバル達との差

終わってみれば3連覇を果たしたシティがぶっちぎった。他にCL出場権を勝ち取った3チームも瞬間最大風速ではシティにも引けを取らなかったが、シーズンを通して見れば大きな差があったように思う。

アーセナル、ユナイテッド、ニューカッスルは、プランAの練度・プレー強度が非常に高く、相手をその土俵に引き摺り込む強さを有していた。

保持しながら押し込む陣形を作り、保持→やり直し→侵入→プレス→回収→侵入→フィニッシュという敵陣でのサイクルを回す。基本的には3チームとも大枠ではこの部分に強みがある。

アーセナルは両翼の質的優位と、狭いスペースでも技術を発揮出来るウーデゴール、ジェズスと両翼の関係的優位を活かす構造のフィニッシュ局面と即時奪回プレス→ショートカウンターの整備が他の2チームよりも質高く、大量点での先行逃げ切りを完遂した。

ユナイテッドは安定した前進を行う構造作りやテンポコントロールには苦労しつつも、まず非保持の整備を行うことで、ホームゲームでは上記のサイクルを回してショートカウンターで刺すシーンを多く作った。

ニューカッスルは散開した陣形でも発揮出来る左右のユニットの意思共有の速さと、クロスやポケット攻略の質、走力を活かしたプレスを活かして、広くて速い中での勝負を相手に強要する強さを誇った。

彼らは戦略的な面で強みを持っていたが故に再現性高い勝ちパターンを作ることが出来た。しかし、彼らを上回ったシティは戦術面での柔軟性に非常に優れていた。

なぜシティの試合は常に注目を集め、実際に面白いと感じるのか。それは毎試合異なった姿を見せてくれるからだと思う。確固たる自分達の基盤がありながらも、相手の傾向や対策を踏まえて、他のチームとは比較にならないほどの柔軟性を持って自らを変化させてゲームを支配する。

だからこそ、(そもそも選手の消耗管理が上手く怪我人が少ないのだが)数人の欠場も、アウェーゲームも、相手の奇策も障害にならない。

さらに彼らは、悲願のCL制覇のために戦略の部分でも変化を見せた。ボールを持たなくても良い、そして4CB、ネガトラ対策、人数を掛けすぎずスペースを食い過ぎない侵入→フィニッシュ構造。

相手の振る舞いに関係なく自分達の強みを押し付けることで勝てるぐらいプランAを磨くことに加えて、相手を攻略する観察眼と柔軟性。シティの強さは、機械的な強さと人間的な強さのハイブリッドとして際立つ。

2 場所と時間

私は試合を観る時、プレーエリアの広さとプレースピードを決めているのはどちらのチームのアプローチかどうかをまずチェックする。場所と時間を決める権利を持てば快適にゲームを進められるだろう。

一般的に、保持型のチームであれば、横に広く場所を確保(散開)しつつテンポを落として保持→敵陣に押し込むことで、相手のプレスの連動を阻害し、サイドに閉じ込められることなくブロックの中に侵入する経路を探る。

しかし、これをただ忠実に遂行しても動的構造を作りづらかったり、ギアチェンジが難しかったりと得点に繋がりづらい。守備ブロックとの駆け引きで認知負荷を掛けるなどの工夫で秩序を壊して侵入するに至らないのだ。ヴィエラのパレスはまさにこの典型だった。

ニューカッスルとフラムは、ネガトラへの準備が整っているがゆえに縦志向強く侵入の試行回数を増やす。左右のユニットも2~3人のシンプルなもので速さを発揮し、逃げどころになるアンカーは減速させることなくすぐに次のパスを刺す。こうして、広さの上に速さを兼ね備えたチームとなった。

今季様々な顔を見せたリバプールも、冬の好調時にはこのようなモデルであった。シンプルな3人×3つのユニットを形成して敵陣でゲーム支配しつつ、広いカバー範囲で回収できるとともにすぐに次のパスを供給出来る後方の3人が試行回数を増やし、ユニット間を繋ぐ選手が数的優位を作り加速する。

ブライトンは、後方で誘引する保持によって相手を縦に引き延ばし、両翼やライン間に広いスペースを与えて加速する。同じ戦略を取ったのはボーンマス。誘引する保持と深さを取るソランケを組み合わせて空いたライン間に2列目の選手が入り込み、そこから流動性を持ったアタックを繰り出した。スペースを食い過ぎないことで崩しの難度は下がる。

ラリーガから迎えた新指揮官が途中からガラリとチームを変えたヴィラとウルブズは、中央に段差を多く作ることで、相手の各守備ラインの手前と前後を叩き、中央から人数(選択肢)多く加速しつつ、空いたサイドを的確なタイミングで思い切って攻め上がるSBで外からの攻略の選択肢も突きつけた。

このように、ボール保持を使って場所と時間をコントロールしつつ鋭いアタックを見せるために工夫を凝らした各チーム。速さ、ユニット、縦の長さ、段差。

ゲーム支配手段を持ったチームがこれだけ多くいると、逆を言えばその手段を持たないチームが苦戦したのは当然のことだ。手前に当てて背後へ供給の一本槍に近かったスパースとフォレスト。個人のボールスキルが高いが故に保持は出来るが、どう侵入するのかの方針が定まらなかったチェルシー、ウェストハム、レスター、セインツ。非保持に振り切って陣地回復やクロス、運動量に頼ったエバートン、リーズ。

3 直観に反するアイデア

上で見た侵入のための工夫と同様に、一見すると理にかなっていなかったり危険に感じる戦い方が有効になる、というのも今季はよく見られた。(誘引の意図を分かっていてもプレスに出てしまうのは、「取れそう」「取ったら大チャンスだ」という餌に食いついているからだ。)

まずはブレントフォードのハイプレス&ローライン。敵陣で相手のビルドアップ隊を人基準で捕まえて強く制限を掛けて球出しの精度を下げるとともに時間を奪いつつ、ラインは上げすぎずにいることで相手の侵入隊との距離を引き延ばす。こうすることで、コンパクトに前進することを許さない。ハイプレスをひっくり返しても背後にスペースもない、という状態に陥らせる。

次にヴィラのハイライン。彼らはハイラインながらも非保持で縦に引き延ばされることを嫌ってか、ボールホルダーをオープンにしたままでも構わないスタンスを取る。当然相手はハイラインの裏に蹴るのだが、それも予測出来るバックラインとGKが冷静に対処してほとんどをオフサイドに掛けるかマイボールにしてしまう。保持側のチームは段々と単調な攻めに陥り、かつオフサイド連発でイライラや焦りを募らせて普段通りの前進→侵入を発揮出来ない。

このように、自分たちの行動で相手を動かし、そこまで含めて予測しているので自分たちのペースに引き込めるという駆け引きで、決して予算規模が巨額なわけでないチームが上位陣相手にを挑む構図もサッカーの面白さだ。

4 型と原則、アドリブ

ワールドカップでも個人的にテーマであった、まず型を作って完成度を高めても、怖さを出すにはそれに加えて意外性が必要だ、という観点。

チームの枠組みを大きくしておくことで、戦術の幅を広げ、選手の対応の柔軟性を高めることができ、相手をその都度攻略できるのではないだろうか。

ガチガチに戦術で縛るよりも、思考態度を揃えることと、判断基準となる原則を共有する方が試合には有用なのではないだろうか。であれば原則はどの程度まで細かく設定すれば良いのか。

指導者としての私は常にこのことを考え、練習ではエコロジカル的なアプローチのトレーニングで枠組みの拡大や課題発見→解決能力を養い、声掛けや制約によって原則を落とし込み、試合前にはイメージの共有のためにある程度型でのシミュレーションを行うというサイクルを回している。

今季のプレミアリーグでその点で示唆に富んでいたのは私のサポートするクリスタルパレスだった。ヴィエラ政権下のパレスは2-3-2-3で散開した保持をしているだけで、両翼のドリブルやキックに頼るだけのチームだった。ビハインドを負うと、良い意味で縛りから解放された思い切りの良い攻撃を繰り出して何度も逆転勝利を収めた。

しかし、ギャラガーがローンバックした穴はプレスのスイッチが入れられないという問題として残り続けてヴィエラは解任の憂き目に遭う。

ホジソンは、ヴィエラの残した保持時の陣形という型を活用しつつ、両翼やライン間に届いた後はアドリブを重んじた結果、エゼとオリーセが大爆発。余裕を持った残留を掴み取った。

型を作って、縛るぐらい徹底させないとモデルチェンジは出来ない。しかし、それが浸透したら今度は緩めることが良い結果に繋がる。型とアドリブの間の適切な落とし所を探ることは難しいミッションだ。

最初からシンプルだが意思を揃えやすく速さ強度が上がる戦略とユニット構築を採用して外枠から落とし込んだハウのニューカッスル。ミクロな戦術に最初からこだわり、相手の出方に応じて柔軟に戦術的振る舞いを変化させるデゼルビのブライトン。

代表例としてこの2チームを挙げたが、全チームを線で追うことで、様々な強化アプローチや思想に触れることができたことは、私にとって大きな収穫であった。

5 3年間全試合観続けて

毎週末10試合。ミッドウィーク開催があればそれ以上の試合数に達する。自分のチームの練習と試合、FC東京の現地応援、ラリーガやJリーグやUEFA主催のコンペティションの観戦と並行して観るのは時に「縛り」を感じてしまったことは否定できない。

しかし、前述の通り、20通りのチームの歩みを3年間追うことは、チーム作りや原則の設定・運用を学ぶ(推察する)ことで勉強になったし、毎試合両チームの普段着との差異から駆け引きを楽しみ、濃く味わうことができる。

そして何より、全チームに愛着が湧く。もちろんパレスに関しては毎試合感情的に観てしまうが、それでも毎試合に納得感が生まれる。毎週、次の10試合を迎えることが楽しみな状態で1週間を過ごすことができた。

この素晴らしいコンテンツによって、コロナ禍に見舞われた大学生活が充実したものになったし、自分の指導者としての経験もより濃いものに出来たと考えている。

4月からどれぐらいサッカーを楽しむことができる時間的余裕があるのか分からないが、8月からの新シーズンでは、小学生時代以来のプレミアリーグ現地観戦を果たしたい。


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