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倦む後ろ側

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記事一覧

倦む後ろ側 三

 岸田葵は直近のことを思い出そうとしてやめた。何度となく繰り返したが、やはり思い出せない。私は死んだのだろうか?そして幽霊になるほど、現世に執着している?岸田の大学では、死ぬと天国か地獄に行くと聞いていたが、まさか地下鉄駅とはわからなかった。
 みんなはこの状況を経験した唯一の人である、扶桑さんに群がっている。岸田も聞きたいことが色々あったが、密集している人の間に割り込むのはいい思い出がなくて、ホ

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倦む後ろ側 二

 今”地下鉄駅”にいるのは63名、うち自分を除く6名が自分の死を自覚している。この6名は要注意のチェックを密かにつけた。6名以外は困惑しっぱなしだ。リーダーもいない烏合の衆、行く宛もなく、ただ駅のホームに立ち尽くすだけ。
 私はメモを周囲にかざした。
「本当に俺たちは死んだのか?」テレビマンをやっていたと聞いた山川が聞いてきた。20代後半で、集団の中では若く活発に動いている。
「ああ、幽霊と一緒だ

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倦む後ろ側 一

「ほんとにさ、骨髄提供してなんともなかったからいいけど、もうひとりで行動するのは辞めてね、家族なんだから」
 パパとママはそのスタンスを崩さない。おばあちゃんはにこにこしているけど、わずかに言葉を濁したお医者さんに対して激高した。いいことだと思うけど、なんでうちの家族がしなくちゃいけないわけ?というのが骨髄提供に対しての鍔金家の回答だ。
 お街から自動車道を使ってニュータウンへ。こうして私の単独挑

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