松雪泰子さんについて考える(61)『カミさんなんかこわくない』

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*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:8点(/10点)
制作年:1998年(TBS)
視聴方法:U-NEXT

※ネタバレを含みますが、決定的な展開や結末には触れないようしております。

故田村正和主演の、一話完結型ラブコメディ。

1998年ということは、当時私は小学生だが、田村正和さん・橋爪功さん・角野卓造さんの3人組の構図は見覚えがあった。調べると、この前に放送された『カミさんの悪口』の後継作らしい。どちらかを当時観ていたのかもしれない。あるいは親が観ているのを横で眺めていたか。

90年代らしい古き佳きドラマ。望月五郎(田村正和)は、ある事情により自宅に転がり込んできた神戸(橋爪功)と森川(角野卓造)と、しばらく一緒に暮らすことに。望月は妻と娘がロンドン滞在中で、束の間の一人暮らしだった。

このオジサン3人組の家に毎回マドンナ役(死語)が現れては、望月(田村正和)とうまくいきそうになったところでご破算になる。分かりやすくて面白い。

各回のマドンナ役(死語)が豪華。

第1話 小泉今日子
第2話 黒木瞳
第3話 和久井映見
第4話 宮沢りえ
第5話 高橋惠子
第6話 浅野温子
第7話 瀬戸朝香
第8話 鈴木京香
第9話 石田ゆり子
第10話 中村玉緒
最終話 松雪泰子

中村玉緒さんの回だけ説明が必要だろうか。男3人組の高校時代の憧れの先生が、何十年ぶりかにやってきて…という、他とはタイプの異なる話。この回は、最後に先生(中村玉緒)が望月宅を出ていく場面にジーンとした。2人とも表情がいい。

他は基本的に、望月・神戸・森川の3人組がマドンナ役にほだされて、分かりやすくアプローチする。全話観たが、どれも面白かった。

下心を全く隠さないオジサン3人組が暮らす家に、年頃の美女が1人でやってくるのは、平成の当時でもなかなか有り得ないと思うが、令和の今なら、この様子を映すだけでコンプライアンスが問われそう。犯罪のにおいすら感じてしまう。

一方で、望月(田村正和)のようなダンディなオジサマの家だからこそ、他に腰巾着が2人くっついていても、女の方も下心を秘めて家に上がりこむ。そう考えれば、あながちあり得なくないシチュエーションか。現に、神戸・森川の2人は、マドンナ役にとっては望月の引き立て役でしかない。

ただし、森川(角野卓造)は甲斐甲斐しく家事全般をこなし、しっかりとした朝食を他の2人のおじさんのために拵える。ランチョンマットを敷き、おかずはサーブ済みで、ご飯と味噌汁は、本人が起きてくるのを待ってから用意する。その健気で献身的な様子が可笑しく、キモかわいい愛すべきキャラクターになっている。

もう一人、無視し得ない存在感を発揮している人物がいる。望月宅の隣人で、うるさくておせっかいなオバちゃん。演じているのは岡本麗さんで、ウザさが絶品。望月たちから陰でババアと呼ばれる。しかも飼い犬が全然言うことを聞かない。出てくるだけで笑ってしまう。

望月とマドンナがいい感じになりかけ、あと一押しで事が動きそうなときに、だいたいこのババアが玄関で呼び鈴を鳴らす。このドラマが失楽園にならずコメディの線に踏みとどまっているのは、岡本麗さんのおかげなのだと思う。ドラマのコンプライアンスを保つセーフティ装置。個人的に、ここ数年観てきたドラマや映画の中で、ぶっちぎりの最優秀助演女優賞。

岡本麗さんは、『はぐれ刑事純情派』の婦人警官役を覚えている。あれとはまた違った役だが、今作のこの役は素晴らしい。忘れられない気がする。

書きたいことが多くて本題の松雪さんの話にたどり着かないが、もう少し続けよう。

それにしても田村正和がいい。隣のババア(岡本麗)をあしらうのも、神戸・森川との丁々発止もうまい。同氏独自の、言い淀み・甘噛み・独り言は、どこまでが台本で、どこまでが計算で、どこからがアドリブなのか。自然体で、衒いがない。

それでいてマドンナ役との対峙シーンでは色気全開。男の自分も、田村正和でなくマドンナ側に感情移入してクラクラしてしまう始末。

田村正和作品で他に観たのは次のとおり。

『古畑任三郎』(フジテレビ)
ほぼ全部見たが、特に江口洋介編、陣内孝則編、松本幸四郎編、藤原竜也編が好き。

『オヤジぃ。』(2000年、TBS)
放送当時リアルタイムで観た。週刊ザ・テレビジョンのドラマアカデミー賞で最優秀作品賞になっている。黒木瞳さん、広末涼子さん、水野美紀さん等。

『さよなら、小津先生』(2001年、フジテレビ)
これも放送当時リアルタイムで観ていて面白かった。ユースケ・サンタマリアさんらも出演。

そういえば『パパはニュースキャスター』等の代表作を未だ観ていないことを思い出した。配信でいつか観てみよう。

言い淀み・甘噛みの話でいうと、橋爪功さんも角野卓造さんも、所々言い直しているシーンがあるが、全部そのまま流している。90年代ってそうだったっけ。全然これでいいと思う。自然でさえあれば。


本題。

最終回のマドンナ役が松雪さん。当時25歳のはず。

ロンドンへ行って長期不在にしている望月娘の部屋に居候するため、引っ越して来る。名前は須美。望月娘とは友人関係。

引っ越して来た家に、望月父(田村正和)がいるのは当たり前として、他に神戸(橋爪功)、森川(角野卓造)も住んでいると分かると、普通は居候をやめようと思うだろうが、3人組と仲良く酒を飲んだりしている。繰り返しになるが、望月父(田村正和)という色男がいるからこそ際どく成立するのであって、普通はあり得ない。風呂・トイレをおじさんと共用するなんて、男でも嫌である。

このドラマで望月(田村正和)を見て、「そうか、俺にもまだ可能性があるんだ!」と勘違いするオジサンたちが大量生産されたとするならば、なんと罪深いドラマだろう。世の中年男性に、叶うはずのない夢と希望を与えてしまっている。神戸(橋爪功)と森川(角野卓造)こそが、標準的中年オジサン。それもそれで失礼かもしれないが…。

終盤で、このドラマの常套パターンどおり、望月(田村正和)と須美(松雪泰子)が急接近。2人とも色気を醸し出しながら、場の空気と相手の心の読み合いを繰り広げ、緊張感が走る。松雪さんが下唇を噛んではにかむ演技は、この頃の作品でしか観れない気がする。

それにしても、細い。一方、田村正和さんも細い。よくこんなスタイルが維持できるなぁと、放縦に身を任せた我が下っ腹をさすりながら思う。

第10話までは毎回ロケ撮影シーンがあるし、第9話はハワイが舞台になっているくらいだが、この最終回に関しては、最初から最後まで望月宅のシーンで、全てスタジオ撮影。この回だけ観るとアメリカのシットコムかと見紛うし、実際に話もかなりシンプルなつくりになっているが、それゆえの面白さが感じられた。

ところで、手元にある週刊ザ・テレビジョン別冊「連ドラ10年史~ドラマアカデミー賞10年プレーバック~」という古いムック本を見てみると、このクール(1998年春4〜6月)には、『愛、ときどき嘘』という松雪さん主演ドラマが日テレで放送されている。ということは、主演ドラマをやっていながら他局(TBS)の連ドラにゲスト出演したということになる。『愛、―』の最終回が6/24で、『カミさん―』最終回が6/21なので、主演ドラマが一応継続中の段階。なかなか珍しいケースなのでは。

それにしてもこの1998年は忙しすぎる。年始の冬クールで『きらきらひかる』、春クールで『愛、ときどき嘘』『カミさんなんかこわくない』最終回。夏クールはあいて、秋クールで『なにさまっ!』。当時は音楽活動もやっているから、よく体がもつなぁと思う。いくら若くても。

『愛、ときどき嘘』に関しては、いつか配信してくれないかと、淡い期待をもって待ち続けている。

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