松雪泰子さんについて考える(62)映画『子ぎつねヘレン』

*このシリーズの記事一覧はこちら*

*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:6点(/10点)
作品の面白さ:7点(/10点)
公開年:2006年
視聴方法:FOD

※ネタバレを含みますが、決定的なオチや結末には触れないようしております。

ネットで目にする感想に否定的な声が多かったような気がして、後回しにしていた映画。

期待しなかったことがよかったのか、普通に佳作だと思った。素朴なハートウォーミングストーリー。

北海道の原風景がいい。映画は何よりもまず、テレビドラマではなかなか撮影できないスケールの映像を盛り込んで欲しいと常々思うが、その点は優に見応えあり。広大で起伏に富んだ野原と、そこで戯れる動物たち。

ストーリーは単純で、視覚・聴覚のない子ギツネを拾った小学生の太一(深澤嵐)が、健気に看病した結果どうなるか、そして何を学び取るかという話。

太一はひとり親の母・律子(松雪泰子)がカメラマンとして海外出張中。預けられた先は、母の再婚相手(予定)で獣医の孝次(大沢たかお)とその娘の美鈴(小林涼子)が切り盛りする動物病院兼自宅。

この孝次・美鈴の父娘がフィクション全開の善人だったら「そんなやついねぇだろ」となっていたかもしれないが、適度に不親切さや意地汚さを備えている上、「動物の命も大事だが自分たちの生活を犠牲にはできない」という至極真っ当な感覚を持ち合わせていて安心した。不完全で不真面目な人間性が、人間らしくていい。映画自体が真面目なテイストだけに。

太一そっちのけでカメラマン稼業のため海外へ行ってしまう律子(松雪泰子)の自己中ぶりも、現実的で人間らしい。後半でようやく帰国してからも、空気の読めない(というか読もうとしない)マイペースな言動が、「こういう人いるよなぁ」と妙にリアリティを感じる。

こういう不完全な人たちだからこそ、最後に少しだけ成長する結末が、あまり説教臭くならずちょうどいい塩梅になっていると思う。都合のいいまとめ方と言えなくもないが、許容されるべき予定調和の範囲に収まっている気がする。

律子役の松雪さんの演技は、ニコニコしながらちょっと鼻につくような喋り方が若干『アフリカの夜』(1999年)っぽい。映画公開当時、既にこういう役は少なくなっていたと思うが、2010年代以降、さらに見かけなくなったような。

小林涼子さんは、当時、子役と大人の端境期くらいの年齢だが、既に十分上手い。『パーフェクト・リポート』(2010年)、『5人のジュンコ』(2015年)でも共演。後者では、田辺絢子(松雪泰子)の職場に加わった、背伸びしたがる未熟な新人役を熱演。

獣医の幸次役を演じた大沢たかおさんは、有り余る演技力を発揮できるような難しいシーンがなかった。むろん、好演。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?