【童話】 ぷるんtoとげとげ/もうひとつのエンディング
ぷるんがとげだらけになってしまってから、百年の月日が静かに流れました。
ぷるんは、木々が鬱蒼と生い茂った森の小さな草むらで、ひっそりと暮らしていました。
大昔に、ぷるんが柔らかで美しくみんなから愛されていたことを、今では誰も知るものはおりません。
森の動物たちは誰もが、ぷるんを森の奥に住んでいる恐ろしい生き物だと思っておりました。
満月の夜になると、ぷるんがギギギギ、ガガガガと不気味な音を立てるので、誰も近づこうとはしませんでした。
ある日、ぷるんがアリの行進を飽きもせずに眺めていると、遠い国から旅をしてきた一匹のヤマアラシが、偶然ぷるんの住む草むらを通りすぎようとしました。
ぷるんは、気が遠くなるほど長い間、一人ぼっちで暮らしていましたので、久しぶりに友達が遊びに来てくれたと大喜びして、ヤマアラシにむかってゴロゴロと転がっていったのでございます。
ヤマアラシは、見たこともないとげだらけの恐ろしい生き物が、ものすごい勢いで転がってきたのでたいそう驚き、とっさに全身の毛を逆立ててぷるんを威嚇しました。
でも、勢いのついたぷるんの体は止まりませんでした。
ゴロゴロゴロゴロ
どーん!
あっという間に、ぷるんとヤマアラシは激しくぶつかってしまいました。
そして、お互いのとげが互いの身体に突き刺ささってしまったのでございます。
二匹は、あまり痛さにその場にうずくまって泣き出しました。
ぷるんは泣きながら思いました。
『とげってこんなに痛いんだな。』
『僕は、こんなにひどいことを友達にしたんだな。』
『ごめんね。みんな。』
あのとき傷つけてしまった友達はみんな、とっくの昔に天国に行ってしまいましたが、ぷるんは初めて心から謝ったのでした。
ぷるんの涙が鋭いとげを伝って、ぽたりぽたりととめどなく流れ続けました。
するとどうでしょう。ぷるんの涙に濡れたとげがみるみるうちに萎れ始めました。あれだけ頑張っても引っ込めることができなかった全身のとげが次第に萎れていき、1本、また1本とハラハラ抜け落ちていきました。
やがて、ぷるんの身体から全てのトゲが抜け落ちて、薄く虹色に光る艶やかな姿が現れたのでございます。
元の姿に戻ったぷるんは、すぐに泣いているヤマアラシに寄り添い、音楽を奏でてその痛みを和らげようとしました。
ヤマアラシの鋭いとげが、また容赦なくぷるんの身体に刺さりましたが、それに構うことなく身体全体を震わせて、鈴を転がしたような美しい音色でヤマアラシを癒しました。
音楽を聴くうちに、ヤマアラシの逆立っていたとげも次第に元に戻っていきました。心地よい音楽に包まれたヤマアラシは、安心したように眠りに落ちていきました。
ぷるんは、ヤマアラシの傷が癒えるよう、心をこめて音楽を奏で続けました。
その美しくも切ないメロディーが、森中に静かに響き渡りました。
森にいる動物たちはみな、音楽に引きつけられてぷるんの住む草むらに恐るおそる集まってまいりました。
集まってきた動物たちは、虹色に輝くぷるんの美しさに目を奪われ、そして、オオカミも大蛇もクマもウサギもシカも野ネズミたちも、みんな仲良くうっとりと音楽に聴き惚れるのでした。
そしてぷるんは、身体をキラキラと美しく輝かせながら、いつまでもいつまでも音楽を奏で続けるのでした。
(おしまい)
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