ちょっとストーム久保のことを話させてくんないか

 皆は、ストーム久保という男をご存じだろうか。
 広島 TEAM iXAに所属するプロゲーマーで、選手としてだけではなく配信や動画活動にも力を入れているプレイヤーだ。
 そのストーム久保がこんなポストをしていた。

 4月末で広島 TEAM iXAを脱退する。
 プロゲーマーの定義は色々あれど、一番一般的な「企業からスポンサードされたプレイヤー」という定義に基づくならば、ストーム久保は今月でプロゲーマーを引退する、ということになる。

 少なからず衝撃を受けた。
 なんで、という気持ちも。一方でなるほど、という気持ちも。

 色々思うところはあるのだけど。
 いい機会なので、今日は俺にストーム久保の話をさせてくれないか。
 彼は俺の恩人なのだ。


 彼を知ったきっかけから話そう。
 そのためには”とあるキャラ”に触れないわけにはいかない。
 そう。アビゲイルだ。

コイツです

 現在大流行のスト6──の前作にあたるスト5で突如追加されたDLCキャラクター。ストーム久保は実装当時からこのキャラの使用者として一番に名前が挙がる使い手だった。
 この筋肉モリモリマッチョマンのどでけえ男が、俺とストーム久保とを引き合わせたのだ。

 このキャラが追加された時のことは今でもよく覚えている。
 EVO2017。ときどがPunkと激闘を繰り広げたその壇上で突如始まったトレラー。そこで画面にデカデカと映し出された巨漢の姿を見て、俺はこう思った……

 誰!???

 誰!? 誰なの!? 怖いよぉ!
 格闘ゲームはそこそこたしなんでいたものの、そこまで重度のカプコンファンというわけでもなかった俺に、ファイナルファイトの敵キャラなんぞ分かるわけもなく……。
 その時は正直「なんじゃコイツ」としか思ってなかった。
 いや「こんなのよりまこととか出してくれよ」とすら思っていた。
 まさか将来、自分の魂のキャラになるとは夢にも思わず……。

 アビゲイルが実装されて少し経ってから。
 友達と緩くスト5で対戦していたとき、友人の一人から不意にアビゲイルをおすすめされた。
 曰く「強い」「お前にはあってると思う」
 ホントか?
 俺今までデカキャラとか使ったことないけど……いやつよーーーー!!!
 
 本当に強かった。使ったその日に、今までほとんど勝てなかった友達の豪鬼に勝ちまくった。
 そう、実装当時のアビゲイルのキャラパワーは本当に凄まじかったのである。俺は勝利の喜びを知った。
 
 調子に乗った俺はランクマの海に漕ぎ出す。
 当時の俺は、格闘ゲームに関しては完全にエンジョイ勢。
 スト5は友達とゆるーく対戦するのみでランクマに行ったことは一度もなかった。だって怖いし。弱い俺なんかが行くところではないのではとか思っていた。
 そんな俺があっさりとランクマへ行ってしまうくらいには、アビゲイルは強かった。
 
 初のランクマで俺はアビゲイルのキャラパワーを振りまわし、怒涛の快進撃を続け……

 そして、全然勝てなくなった。
 
 まあ当然である。
 キャラの強さだけで勝てるゾーンはたかが知れている。
 確かプラチナに入ったあたりだっただろうか。分かりやすく壁にぶち当たった。
 勝てない。
 たまに勝ててもそのあと同じくらい負ける。
 ポイントはしばらく停滞を続けていた。

 そんな俺が、ネットの動画で見つけたのがストーム久保の対戦動画だ。
 
 思ったね。
 アビゲイルって……こんなに強かったのか!
 
 俺は素直にそう思った。動きが全く違う。コンボが高い。俺よりもずっとうまくキャラパワーを押し付けている!
 俺もこうやって動かしてみたい! そう思った。
 そこから、ストーム久保の動画を見漁ってはトレモに篭り真似をして、ランクマで試す日々が続いた。
 そうして、ようやくダイヤにまでランクを上げることが出来た!

 壁を一つ越えることのできた実感がはっきりとあった。
 嬉しさのあまり、ストーム久保の配信に赴きコメントで報告とお礼を告げた。今思うと恥ずかしいことをしたものである。
 この時の快感が無ければ、今もスト6にこんなにのめり込んではいなかったかもしれない。
 
 ただ手なりで楽しむだけではなく、練習して、試して、上達をしていく楽しみを、俺は初めて知ったのだ。
 そのきっかけをくれたストーム久保に俺は恩を感じている……
 というわけではない。
 いやまあもちろんその恩もあるが、俺が彼に助けられたのはこのあと。
 スト5を、やらなくなってからのお話だ。

 この世にはわんさと娯楽がある。
 アニメ、ゲーム、漫画に映画、釣りにキャンプにアウトドア。
 格闘ゲームというのはその無数の娯楽の中の一つである。
 
 何が言いたいかというと。
 スト5以外にも楽しい娯楽はいっぱいあった、ということだ。

 めでたくアビゲイルでダイヤに上がった俺だったが、そのあともスト5をずっとやっていたかというとそうではない。
 ポケモンやったりペルソナ5やったりApexやったり。
 ゲーム以外でもアニメ見たり映画にいったり。
 単純に仕事が忙しくなって時間が取れなくなったこともある。
 スト5というのは、なんとなくやりたくなった時に思い出したように立ち上げるゲームになった。
 その頻度も時間が経つごとに下がっていく。
 アビゲイルも、最も強かったシーズン2からはずっとナーフ傾向が続き、それもモチベを下げる原因になった。(タイヤは笑ったけど、笑えただけだった)
 そして、何回か目のアプデでEXダイナマイトパンチにゲーム画面がフリーズしたかと思うほどの不利フレームを付けられたとき。
 俺は、スト5を触らなくなった。

 そんな中でも、俺はストーム久保の動画を見ていた。
 元々はアビゲイルのプレイ動画を見るために登録した彼のチャンネルだったが、次第にアビゲイルとは関係のない動画も楽しみに見るようになった。

 スト5を立ち上げなくなっても、俺のyoutubeの通知欄には彼の動画が現れる。
 
 ゲームをやっていなくても、彼の動画を見てスト5の「今」を知ることが出来た。
 各キャラにどんなアップデートが来たのか。
 今どのキャラが強いのか。
 一番エロいDLCコスを決めるなんて動画もあった。

 楽しかった。
 スト5を立ち上げなくなっても、心がスト5から離れずにいられた。
 俺は格闘ゲームが好きなのだと、忘れずにいられた。

 もちろん彼の動画だけではなく、他の格闘ゲーム配信者(どぐらとかハイタニとか)の動画もよく見ていたが、格ゲーの動画をyoutubeで見るようになったきっかけは間違いなくストーム久保の動画だったし、一番よく見ていたのも彼の動画だ。

 そこからしばらく経って、スト6が発売された。
 体験版が出たときから遊び倒し、今でもプレイし続けている。
 現在MRを奮闘中だ。

 思うのだ。
 もしも、この世にストーム久保という男がいなかったとして。
 俺は果たして今ここまでスト6に熱中できていただろうか。

 スト5を触らなくなってからスト6発売までの間。
 彼の動画を見ていなかったら。
 生活の中から格闘ゲームというものを一切消し去ってしまっていたら。

 ここまで格闘ゲームを楽しんでいる俺はいただろうか。

 きっとこれからも俺は格闘ゲームをやり続ける。
 時にはプレイしなくなることもあるかもしれない。格ゲー以外にも好きなことはたくさんある。
 それでも、SNSを開けば格闘ゲームのポストが流れてくるし、youtubeでは毎日のように対戦動画や切り抜きがお知らせやおすすめに上がってくる。
 俺の生活から、格闘ゲームという成分が0%になることは恐らくない。

 そんな俺を作った要素のひとつがストーム久保という男だったのではないかと、今振り返ると思うのだ。

 ありがとう、ストーム久保。
 これからも続く格闘ゲームが織り込まれた生活の中に、引き続きあなたがいてくれると、俺はとても嬉しい。

 

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