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【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜  第17話 

 第17話 二つ目の森
 
 
 交代で仮眠を取り、持ってきていたフルーツサンドなど食事も摂って、みんな一日目の疲れがかなり取れた様子だった。
 
荷物を片付けて、オリバーがみんなを集めて次の森の説明をした。
 
「みんなしっかり休息も取れて食事もして万全な体制だと思う。次の森は【強欲の森】と言って、身体感覚優位な人が特に影響を受けやすい森だ。特に味覚部分に反応する。森に入る前のテストだと、ウィリアムが特に要注意という事になるけれども、先ほどの森でも分かった様に、他の人も影響を受けないとは限らない」
その事をジャンも、前日のリリーと同じ様に不思議に思っていた。
「テストしたのに? 結局他の人も影響を受けるの?」
「どの感覚もみんな使っているものだからね。特に優位というだけで、使う割合は人によってバラバラさ。それに滞在時間が長引けば多分みんな危ない。どの森も一見幻想的だったり、魅力的だったりするが気持ちの緩みが命に関わるから、みんな気を引き締めて」
「具体的に、その強欲の森ってどんな所なの?」
「人間の食に対する欲を刺激する場所さ。次に現れる森の食べ物は魅力的だけれど、食べない様に。資料によると少量だとあまり大きな害は無いみたいだけれど、食べた量により色々な症状を引き起こすみたいだ。念のため、食べないに越したことはない」
「そんなの分かっていたら、食べないよ」
とジャンは否定したが、
「でも、少量だと害はあまり無いって、ちょっとだと食べても良いって事?」とリリーは少し森の食べ物に興味を持っていた。ウィリアムも口に出さなかったが、もちろん飯屋をしているぐらいなので、魅力的な食べ物と聞いて興味を示さない方が難しかった。
オリバーは続けて説明した。
「僕の集めた資料によれば、少量を口にした者も何名かいたからね。今のところ特に症状は出ていないみたいだけれど。数年後に出る物なら、ここの食べ物による作用とは断言しづらくなるからね、本人が気づいていないだけかもしれないけどね」
「ふ〜ん。そうなんだ」とリリーは頷いていた。ジャンはそんなリリーを心配した。
「まさか、食べる気なの?」
「ちょっと聞いただけよ。それに私たち妖精は食べ物を食べる習慣が無いわ」
ウィリアムは、その話に興味を持った。
「そうなのかい? 木の実か何かでも食べるのかと思ったよ。……じゃあ、どうやって栄養を摂っているんだい?」
「空気よ。空気があれば生きられるわ。あとお水。それと太陽があれば充分よ」
「なんか不思議。植物みたいだね」とジャンは笑っていた。
「人間の方が不思議よ。そんなに食べなくても生きていけるんじゃ無い?」
「食べるのも楽しみのひとつさ」とウィリアムは自分のぽってり出たお腹をポンっと叩きながら答えた。
「気を付けてくれよ。誘惑に惑わされない様に」和やかな空気を引き締める様に、オリバーが会話に口を挟んだ。
「ああ、今度こそビシッと、気を引き締めて行くよ。任せてくれ」
ウィリアムは名誉挽回しようと、気合を入れていた。

 そこから普通の森を数時間歩き続けた。
「ねえ、次の森はまだなの?」
「……もう少しのはずなんだけど」
資料を片手に、オリバーが答えた。辺りは、緑の木々が沢山並んでいるだけで、特に変わりがなかった。

「なんか甘い匂いしない?」ジャンがそう言うと、みんな辺りを見回しながら匂いを嗅いだ。
「本当ね! うっすら果物の香りみたいな甘い香りがする」リリーが楽しそうに共感した。
「次の森に入ったね。ここから気を付けて行こう」オリバーの顔だけが少し険しくなった。
「なんか、でもちょっとだけ楽しみだね」とウィリアムは小声でリリーに話しかけた。
「浮かれてると危ないよ」オリバーはすかさず注意した。
「分かっているわ」そう言ってリリーはウィリアムと顔を見合わせた。
 
 

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