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audible「ガラパゴス(上)(下)」

相場英雄の作品。2016年に出版された時はけっこう話題になったそう。ドラマにもなったみたいね。

2年前の身元不明の死体について小さなきっかけから再捜査が始まって、最終的には大きな社会の闇が暴かれるかと思いきややはりそこはオトナの事情というものがあって、闇はまたさらに深い闇に沈んでいったのだった…という話。
私たちがまさに今抱える、大きな問題があちこちに散りばめられていて、ところどころ暗澹たる気持ちにさせられる。結末にしても、なんともやりきれない。仲野くんの魂はちゃんと島に帰れただろうか。
いろんなテーマがあったのだけど、忘れないためにいくつか整理しておきたい。

派遣社員をめぐる諸問題
最近、私自身「今の派遣という制度自体が日本の産業を弱くしている」と否定的に思ってるところが少し。作品の中で描かれる派遣の状況は少し前のもの、かな。低賃金で、いつ契約を切られるか分からない不安定な生活、一部屋に5〜6人も押し込まれる劣悪な生活環境、正社員からの壮絶ないじめ。これらはさすがに最近ないと思うけど、以前は事実としてあったのだろう。昇給や正社員への登用をちらつかせた密告制度なんて、そんなことあんの!?と思ったけれど、もしかしたらあったのかもしれない。恐ろしいな。
自身だけではなく家族を含めた生活を人質にとられた状態でこれをやられたら、乗るしかないでしょ。
最も大きい問題だと思ったのが、「製造現場の仕事を誰でもできるようにする」というあたり。派遣先の会社にとっては、どんどんスキルを上げてほしいと思うけれど実際は難しい。いまでは派遣社員本人の側がそれを望んでいないということになってる。本人のためにもならないと思うんだけど。

リコール隠し
リコールというのは案外多く起きているもので、私自身「〜〜という部品に不具合が見つかりましたので販売店までご連絡ください」といった連絡をもらったことが一度や二度ではない気がする。
嘘をつくことで背負うリスクと比較すると、正直に公開する方が、初めはともかく、よっぽど安くつくのではないかと思う。個人の場合も然り。
ここは肝に銘じておかなければ。

電気自動車
作品の中でEV自動車の評価は低い。
実際の社会でも、最近ではEV自動車への熱狂みたいなものが胡散霧散している印象。
太陽光発電も、少し前まではもてはやされていた気がするけど今は問題を指摘する声ばかり(私の周囲だけなのか?)。もう以前のようにはならないと思うけど、注意して見ていきたい。

貧困
派遣社員もだけど、地方から出てきた若者や、職場のトラブルなど小さなきっかけで心身のバランスを崩したOLなど、あっという間に貧困に落ちているのが当たり前のように描かれていて悲しい。
まったく珍しいことではないのだろう。
若い世代が生活を立て直せる仕組みが、インフラとして必要なのだと思う。

硬直化した警察組織
警察を舞台とした小説もドラマも、こぞって組織の問題を取り上げるのはなぜなのだろう。

ガラパゴス
被害者となってしまった若者がハンドルネームとして使っていたのが「ガラパゴスの住人」だった。
うまいな。
労働者をとりまく環境もガラパゴスなら、製造する製品そのものも世界で通用しないガラパゴス。このあたりが作者のセンス。

このnoteのトップに載せる写真を探そうと「ガラパゴス」で検索したらゾウガメの写真がでてきた。これはジョージ?
ジョージは長生きしたけどひとりぼっちだった。
仲野青年は暖かい人柄で仲間は多かったけれどひとりぼっちで人生を終えた。
写真を眺めながら、改めて思いを巡らしている。

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