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センチメンタル熱海 7 熱海城

旅で訪れたら必ず「行かなくちゃいけない」と
思わせる場所がある。
京都の清水寺然り、東京の浅草寺然り。
ここ熱海では崖にそびえ立つ
「熱海城」そして「熱海秘宝館」だ。

「妙な年齢の女がひとり、なにも貴重な休日を使って…」とぶつぶつ。
「さすがに秘宝館はね…」と葛藤しながら
ロープウェイの切符窓口に行った。

「秘宝館とセットならお得ですよ。」
「はいそれで。」

考えるより先に返事をしてしまった。

動揺したままロープウェイに乗った私。
耳は、周りのカップルの会話に囚われ
目は、後楽園ホテルの屋上の祠を見つめながら
上へ上へと運ばれていく。

到着した展望台が熱海城かと思いきや、
すぐ目の前に秘宝館の入り口。
勘違いして通りそうな位置だ。
心の準備が出来ていないので回避して、
急な坂を登っていく。
木々の間から熱海の街が見渡せた。

熱海城に到着。
すんなり本丸なのにちょっと違和感を感じた。
小田原城のように周りを囲むお堀も石垣もない。
崖が代用なのかしら・・・・

中に入ったら納得した。
熱海城は昭和34年に作られた観光施設で、
歴史的に実在したものではなかったのだ。

その割には
金鯱や城郭に本物嗜好のこだわりがあったり
刀剣や火縄銃や鎧兜などの収蔵品もあって、
城好きのテーマパークといった感じだった。

建物を全て城のテーマで満たすのは難しいのか、
途中から展示に息切れ感があり、
人も留まらない。

ここを建てた人たちの夢が、
埃と一緒に空気に舞っていた。

おそらくスペースを持て余して入れた
ゲームコーナーだけ妙に賑わっていたのが
もの哀しい。

天守閣からあらためて熱海の街を眺める。
サンビーチも見える。
勤めているレストランも見える。

私は今、
そこらからいつも見上げていたところにいる。

ふと向こう側にいるはずのない自分と、
目が合った。不思議な感覚だ。

鳥のように飛んでやって来たような錯覚。
それか3人の私がTV中継しているような。
視界の瞬間移動だ。

いやいや忘れたの?
さっきロープウェイ乗って来たでしょ。
ハアハアしながら坂登って来たでしょ。
そんな自問自答しながら
城の階段を降りる足は、ちょっと重い。

あの街にはまだ帰れない。

全国で唯一現存する秘宝館、
「熱海秘宝館」が待っているのだ。

ウサ耳の兜かわいい。

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