塗装初心者が陥る「完璧」というミス

結論から言うと

完璧を捨てろ!

だ。

先日県外から趣味で車のパーツをDIY塗装をしている知人が来た。
話をしているとこんな問いが。

「どうしても塗装が上手くいかない。塗り終えると納得しない仕上がりなってしまうのはどうして?」

とのことだった。
なんともどこから手を付ければいいのか?というふわっとした内容だ。
DIYでの塗装だから、そんなに場数を踏んでいないこと。設備と呼べるような物は無い事。
あるのは小さめのコンプレッサーとデビのルナ2、そして自宅のカーポート。そういう前提だ。

専業で鈑金塗装をしている人ならそんな環境じゃ上手く塗装できるわけない。と一蹴されそうだけどこの際ゴミが付くとか下処理がとかそういう事はどうでもよい。

彼なりに限られた今の環境、道具、材料で出来るだけ上手く塗るにはどうすればいいのか?を模索しているようだ。

そもそも上手く塗装したい。というのはどういう対象物でどんな感じに、なのか?
一つ目は筒状のパーツ。トイレットペーパーの芯のような物の内側まできれいに塗るにはどうしたらいいのか?
二つ目はリアウイング。表裏があるパーツだ。こちらも両面きれいに塗りたいが、どうしてもガサガサ荒れてしまう。という。

正直なところ、サイズもあるけどプロでも複雑な形状の物の塗装は難しい。

続けて話を聞くとパーツの裏を吹いているうちに表がざらつき、表を吹いていると裏がざらついてしまう。というような悩みだった。

要因はある程度絞られる。硬化剤やシンナーが速い物を使いすぎているから遅いものに替えるとか、もっと吐出を調整したり重ねを増やしたりピッチスピードを変えて塗装する。とか。
やり方を試して上手くいく場合もあるし、やっても上手くいかない場合もある。

そういう細かい調整とかは日々仕事として塗装をやっている人ならガンガン試したり、アドバイスを聞いたりして早くコツを掴むことが出来る。でもDIYという限られた中ではなかなかその塩梅の判断が難しい。

材料の選定や道具の熟練度は大切だけど、本当の上手くいかない原因は他にあると思った。

自分はこの話を聞いたとき、あ、なるほど!
多分どこから見ても、どの角度から見ても完璧な感じにしたいのね。全部を上手く塗ろうとし過ぎて全部イマイチに仕上がるんだな。と。

そこでこんなアドバイスをした。

一番魅せたい場所だけ丁寧に塗って他は殺してください

だ。

なんて雑なアドバイス!と思うだろうか。

かくいう自分も塗装するときは常にこのことを意識して塗装している。
完璧を捨てる」のだ。

もっと言うと
活かす場所、殺す場所」を意識して塗装するという事だ。
正直自分なら筒状の中も、ウイングの両面もそれなりにキレイに塗る自信はある。
しかしDIYでいきなりそのレベルの塗りを再現するのは経験値的にも無理がある。
だからこそDIYで出来るだけ上手く塗装した感じに魅せるのであれば、余計に
「活かす場所、殺す場所」を意識して塗らないと全体的にまぁまぁな仕上がりになるのは、やる前から目に見えている。
逆に良く見える場所が綺麗に塗れているとそれに引っ張られて全体的に仕上がっているように見える。

筒状の物なら内側をしつこく攻めず、渕に艶が出る程度にして外側に全集中すればいい。
ウイングなら下側を向く面はそこそこに塗って、一番見える上面に全集中した方が良い。


DIYで材料の特徴やスプレーガンも使い慣れていないのならなおさら、魅せたい場所だけを丁寧に塗る!に意識を1点集中するしかないのだ。

この考え方はプロの実践でも通用すると感じている。
例えばドアパネル。
一番きれいに魅せる、一番人の目に付く活かす面はスキンと呼ばれる外面だ。
当たり前だけど人の目は一方向からしか見る事しかできない。ドアの外側と内側を同時に見る事も出来ないし、右面と左面を同時に見比べることもできない。

誤解を恐れず言えば、この面さえキレイに塗れていれば9割の人は他は気にならない。
もちろんドアの裏側も塗装するが、こちらは殺す面となる。
外側よりクリアが薄く塗装してあったり、表面のような均一な塗装肌ではない場合が多い。
内張りで隠れる箇所は上塗りがされていなかったり、サッと色だけかかっている状態というのが普通だ。

軽自動車のフードに隠れるフェンダーの取付面なども同じように上塗りが掛かっていないという事がある。
ここもフードを閉めていれば見えづらくなるので殺す面という事になる。
見えなくなるところにあえて塗装する必要もない。という事だ。

あえて新車っぽく雑を再現して塗る。というのもあるが、それは外側をそつなく塗れて、余裕のあるプロがやるテクニックに過ぎない。

塗る事すらままならない初心者はそんな余裕があるはず無いんだから、まず、一番見られる所を集中して丁寧に仕上げる事に徹する。
そこが上手くできるようになって初めて、裏側とか塗りにくい所のディテールに拘っていけばいいと自分は思う。

初心者ほどいきなり全部を上手くやろうと思うから、全体的に失敗してしまうのだ。


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