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連載中【前書き・物語の概要と前半主要登場人物】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
小説「狩野岑信 元禄二刀流絵巻」前書き
◆ 連載開始: 令和五年十二月十五日
◆ 物語の概要
狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許され、さらに、父や兄を差し置いて、御用絵師総上席、狩野派最初の奥絵師となった。
特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。しかし、彼は、主君が将軍になったそ
【第40章・笹子峠の矢立杉】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
第四十章 笹子峠の矢立杉
「駒木、そこの茶店で一休みしていこう」
狩野吉之助は、笹子峠を越えたところで同行の駒木勇佑に言った。
笹子峠には有名な矢立の杉がある。幹回り五間半(約十メートル)、樹高十六間(約三十メートル)の大木で、戦国時代、出陣する武将がこの杉に矢を射て戦勝を祈願したという。後年、歌川広重の諸国名所百景にも描かれた。
二人は道から少し外れた高台の茶店に入って腰を下ろした
【第39章・大月宿のかまいたち】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
第三十九章 大月宿のかまいたち
川越藩江戸家老・穴山重蔵の命を受け、同藩の甲斐潜入部隊が江戸を発ったのは元禄十二年(一六九九年)四月十七日。狩野吉之助たち甲府藩一行が出発した三日前のことである。
潜入部隊は二隊編成。新見典膳が指揮する一番隊は、武田の隠し金山の探索を主任務とする。江戸を各個に発ち、甲州街道の大月宿で集結。以降、山道伝いに塩山方面に出るべく行動中。
一方、徒目付・貢川保
【第38章・甲州街道関野宿】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
第三十八章 甲州街道関野宿
狩野吉之助が、相棒の島田竜之進、用人・間部詮房らと共に甲斐に向けて浜屋敷を出立したのは、元禄十二年(一六九九年)四月二十日の朝であった。
一行は、昼間の八つ半(ほぼ午後三時)には甲州街道の府中宿に入った。府中は甲州街道を歩き始めた旅人が最初に泊まる宿場である。八王子まで行ける者でも旅の初日は無理をしないことが多く、府中宿は江戸期を通じて大いに栄えた。
吉之
【第37章・はぐれ新陰流】狩野岑信 元禄二刀流絵巻(歴史小説)
第三十七章 はぐれ新陰流
元禄十二年(一六九九年)四月上旬、浜屋敷の庭園を散り桜が覆う。潮入の池も水面が桃色に染まり、風流この上ない。そんなある日、狩野吉之助と島田竜之進は、用人・間部詮房から呼び出された。
「甲府の藩庁から報告が届きました。受け入れ準備が整ったと」
「では、我らも甲府へ?」
「はい。御成書院へ参りましょう。殿の御前にて皆様と協議いたします」
甲府二十五万石の主、正三位権