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きっかけは指。【ショートショート】

Googleストレージが95%です
今日もスマホから警告が流れる。
昔から整理整頓が苦手で、写真も全く整理せず放っておいたら最近頻繁に警告が出るようになって焦る。
こんなゴールデンウィークの天気が良い日に、何で家にこもってスマホで写真整理なんかしてるんだろうと、ほとほと自分のだらしなさが嫌になる。
そもそも、その都度写真を整理しなかった自分が悪いのに、どんどん機嫌が悪くなってくる。
何枚も撮った料理の写真、同じような景色の写真は言い訳をすると、どれが一番良いか選べないということと、いつか何かに使う時に横向きと縦向き両方から選べる方が良いよね、アップと引きと両方あった方が良いよね、と限りなくゼロに近いその「選ぶ日」のために消せずにいるのだ。

停めた駐車場の番号の写真、これは永遠にいらない。大きなショッピングモールに行くと停めた場所がわからなくなることがあり、自然と写真を撮る癖がある。何ですぐに消しておかなかったんだろう。
でもそれはまだ良い方で、何で撮ったのか分からないスクリーンショットが山程その間から出てくるのだ。
そんな写真が6年分も蓄積し、もう嫌になってくる。

マグカップに入れたコーヒーが紅茶に変わり、またコーヒーに変わる。
その間に、冬が来て秋が来て夏が来てと季節を逆にさかのぼり、写真を選別しひたすら要らない写真を削除していく。
桜の写真を削除しながら、ああ、今年は花見に行けなかったな、そう思っていた時だった。

この日何枚も削除した料理の写真だったのに、同じような写真のないたった一枚しか撮っていない写真に違和感を覚え、クリックする。
思わず、あ、と声をあげそうになり、声をあげるのももどかしく、写真を急いで拡大する。
美味しそうな料理の向こうに指が写っていた。それはグラスに置かれた指で、どこにでもあるような何てことのない写真だった。

信号、渡れるかも。
急ごうとする私の肩を掴んで

「次の信号で良いでしょ。もう少し一緒に居たいし。」

と言った彼の指の感覚が、その時の情景がよみがえってきて息が苦しくなる。

一枚もなかった。
撮ることも出来なかった。
撮ろうとしたこともなかった。
彼の写真。
一緒にいる時に料理の写真もほとんど撮ったことなんてなかったはずなのに。

指だし、指だけだし。
指だけの、しかも料理の奥のぼやけた写真。


なのに、何かを見つけて秘密をしまい込んだような気持ちになり、スマホのボタンを長押しして充電を切った。
着替えて美味しいケーキでも買って来てお茶しよう。
恋がしたい、久しぶりに服も買いたい、マニキュアもしたい。
そして部屋も片付けたい。
気がつくと、部屋には窓の長い影出来ていた。

1088文字

ぎりぎり間に合ったー!
書こうと思っていたので皆さんの応募作品ほとんど読まずに我慢してました😅

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