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長瀬有花インスタレーション⚡~2nd LIVE"放電"ライブレポート~

2024年3月30日、長瀬有花 2nd LIVE”放電"が開催された。
1stLIVE"エウレカ"が開催されたのは昨年の8月だったから、約半年ぶりの自主企画ライブとなる。とはいっても、この期間の長瀬有花さんの活動は非常に精力的で、ほぼ毎月ライブに出演するような状況が続いていたし、4月に至っては毎週ペースである。私の推しは思っていたよりも体力お化けのようだ。今はファンとして推しを追うのが非常に楽しい。

さて、今回の放電はファンクラブ限定の昼の部と通常の夜の部が開催された。セットリストは下記通り。

今回、先行チケットで昼の部は抑えることができたが、夜の部は一般抽選から落選してしまった。
それもそのはず、WALL&WALLはエウレカが開催されたLIQUIDROOMの半分以下の箱である。推しの人気に感服しつつ、きっとこの箱であえてやるからにはそれなりの理由があるのだろうと予想していた。
ライブを見たら一目瞭然。
長瀬有花"放電"は「音楽の原体験」をコンセプトとしたライブだった。
※なお、夜の部は一般チケット抽選に勝ったので現地参加しています。


コンセプト

後日、ライブ後の公式noteにて、サウンドプロデューサーである矢口さんが放電のコンセプトを語っている。

日本の写真家・現代美術作家である杉本博司氏の作品群「Lightning Fields(放電場)」は、カメラを用いずに撮影された写真作品としての側面を持っている。暗室のなかで写真乾板(フィルム)の上に放電現象を引き起こし、直接それを感光させることによって、原始的な電気そのものの姿を収めた。
 「Theaters(劇場)」、「Seascapes(海景)」をはじめとする、氏の発表してきた概念芸術は、人の眼を超えた時間の集積や発生を切り取ったようなコンセプトのもと組み上げられている。
 ライブ「放電」では、カメラという機械を介さず、放電という誰もが見逃す一瞬の時間を目撃し切り取った氏の作品を構想の出発点とし、等速の音楽世界=長瀬有花ワールドと重ね合わせた。
 演奏場に流れる時間を緩やかに、あるいは聴衆の五感をより高速度かつ鋭敏にすることで、長瀬有花の音楽という名の放電を目を凝らし観測する場を設ける。同期演奏を排したトリオ編成と簡素な美術ステージという要素を以て、より本質的な音楽ライブの表現に挑むことを目的とした。

その美術的なコンセプトに驚いてしまったが、ライブのキーヴィジュアルを見て納得した。そこには、写真乾板で撮影された長瀬有花さんが堂々と映し出されている。とても、ヴァーチャルアーティストとは思えない、リアリティに溢れたヴィジュアルだが、このぼやけた写像が不思議とヴァーチャルらしさを醸し出していて、個人的には結構好きなキーヴィジュアルである。

このキーヴィジュアルについて、ファンクラブで詳細が公開されているが、これはフォトグラムの撮影方法を用いて撮影された一点物のようだ。
まさにサウンドプロデューサーの矢口さんが言っていたような杉本博司氏の写真コンセプトのオマージュとなっており、ライブという一瞬のきらめきと人の眼には見えない現象を長瀬有花の音楽で感じられることを表現している。

また、放電はライブ会場での同期がない、という点にも注目したい。

同期について

最近の長瀬有花さんチームからは等速の音楽というワードをよく耳にする。ファスト視聴と呼ばれるように、昨今では倍速視聴が消費の方法として当たり前になってしまった。特にVtuberオタクの間では多窓や倍速視聴が当たり前のようにされている現状にある(私の周りでも実際多い)。
SNSでもコンテンツが次々と流れ、日々のものを消費するのが精一杯の世界で、長瀬有花さんは"だつりょく系"アーティストとしてゆったりとした時間を与えてくれる。現代的な装飾のない"間"こそが長瀬有花ワールドの良さなのかもしれない。そんな長瀬有花さんのコンセプトを突き詰めた結果、同期がない音楽性に行き着くのは必然のような気がする。

特に今回はライブ中にバンドメンバー間で顔を見合わせて呼吸を合わせるシーンが印象的だった。バンドメンバーとの阿吽の呼吸を観客としても感じることができたし、曲と曲の間には不思議な緊張感が漂っていた。
後ろから流れる雑踏の音と噛み合って、まるで路上ライブのような、生音の美しさとアーティストの持つ緊張感を味わうことができるライブ構成になっていた。

そして、これはある意味で一般的なヴァーチャルライブへのアンチテーゼ的な表現になっていたと思う。一般的なヴァーチャルライブでは、どうしても今回のような表現はできないからだ(スクリーンにVtuberを移しつつ、バンドメンバーが音を聞きながら合わせて演奏する形式のライブでは難しいと思う)。

長瀬有花は、ヴァーチャルの姿でデビューしつつも、徐々にフィジカルを露出していったアーティストだ。彼女はデジタルとフィジカル、両方があるからこそ表現の幅が広がることを体現している。
今回のライブはまさにフィジカルの境地を改めて開拓した、長瀬有花らしいライブだったと思う。

そして、コンセプト上でも余計な装飾や映像演出を入れず、同期なしのレトロで純粋な音楽の原体験を生み出せるアーティストは非常に貴重で、放電は長瀬有花らしさを突き詰めたようなライブとなった。
私はそういった彼女の人柄が好きだし、その音楽性が大好きだ。

昼の部

ライブハウスの中は雨音と雑踏の音が後ろのスピーカーから流れていた。
そして、眼の前には大きな放電のプラズマが光る。また、大きな電灯がとうとうと輝いていた。
自分がWALL&WALLに行くのは三回目だったかと思うけれど、少し異様で独特な空間構成だな、と思った。

近くて、遠くて - 長瀬有花 (Official Live Video)

脇からするっと有花さんが出てくると手元のノイズ機器を弄ってスタート。
どちらかと言えば重苦しいような、重厚感のあるノイズミュージックで開幕を告げる。

最初の一曲目は「駆ける、止まる」
今まで様々な場所で披露されてきた代表曲の一つではあるが、今回は楽器が少ないからこそジャジーなアレンジが施されていて、しっとりとした空気感のある楽曲に仕上がっていた。そして、「とろける哲学」、「みずいろのきみ」へと続く。間奏の上質な6弦ベースやピアノの弾ける音がなんともオシャレで美しかった。

トントンとドラムがビートを取って、「プランクルームは夢の中」へと続く。
有花さんのノイズミュージックも合わさって本当に夢の中へと迷い込んだような独特の世界が展開されていた。
そして、リズミカルな「アーティフィシャル・アイデンティティ」、「ライカ」、「異世界うぇあ」が披露される。個人的にはライカのイントロがとても好きで、ピアノの強く鍵盤を叩く音に思わず身体を揺らしてしまった。
異世界うぇあも、会場の空間演出と相まって異世界感がより増していたように感じた。なんとも不思議な話だが、通常のライブとは異なる同期なしの音楽だからこそ、会場だけで流れる生音が上質な空気感と音の重厚さを強く実感させてくれて最高だった。

バンドメンバー紹介を挟んで「オレンジスケール」へと続く。私が長瀬有花の曲の中でも最も好きな曲の一つで、アーティスト「長瀬有花」になる前の純粋な原点が表現されている曲だと思っている。

次は、「fake news」。生で朗読の部分が披露されるのは初めてなんじゃないかと思う。思わず私はエウレカの冒頭を思い出した。
有花さんのノイズ・ミュージックのフィルターが上手くかかると、リズムが速くなりそのまま曲は「近くて、遠くて」へと続く。
この楽曲は会場のグルーブ感が本当に良くて、音の積み重ねとリズムの高揚感が会場のボルテージを一気に上げていた。
ちなみに、平手さんが片手でキーボードを弾きながら、片手でトランペット吹き初めて驚いた。人間ってそんなことできるんだ。

ドラムソロパートを挟んで、「アフターユ」が披露される。ここは、有花さんのカズーの演奏が印象的だった。昔はカリンバ配信をよくやっていた有花さん。色々な楽器に挑戦する姿はいつもかっこいい。

続いて、「やがてクラシック」。平手さんのトランペットソロもあり、エウレカのときよりもジャジーな、落ち着いたアレンジとなっていて、しっとりとした音色に仕上がっていた。
次にノイズから始まった「プラネタリネア」は、アコースティックアレンジが見事に決まっていて、宇宙船の中にいるような長瀬有花さんの雰囲気がさらに増していた。
この楽曲の披露が終わると、バンドメンバーが外にはけ、ステージには有花さん一人のみ。おもむろにギターをもって、引き始めたのは、サカナクション「ユリイカ」。その選曲のセンスにしびれる。
東京にあるWALL&WALLで披露されたユリイカは有花さんのギターと声だけが響く孤高の音で長瀬有花というアーティスト性の濃縮した部分を見ることができた。遠くへと響く歌声が本当に美しかった……
そして、背後のスピーカーから雑踏の音が流れる中で、路上ライブをイメージして作曲された楽曲「微熱煙」が演奏される。
本当にこのシーンをずっと見たかった! 1stliveエウレカで唯一心残りだったのが、有花さん自身の弾き語りを見ることができなかった、というもので、今回の演奏は念願だった。途中で楽譜が落ちるトラブルがあったものの、そのシューゲイズの地響きは忘れられない。シンガロングの煽りも相まって会場が一体となり、微熱煙はライブでこそ映える楽曲だと改めて認識させられた。
最後はいつも配信で使用しているアコギに持ち替えて、「宇宙遊泳」が歌われる。配信で聞いているギターの響きを生で感じることができて、とても嬉しかった。アコギの素直な音と有花さんの声の相性は最高で、ゆったりとしたウィスパーボイスが昼の部の最後を締めくくった。

夜の部

昼の部と同様にノイズミュージックからスタートした夜の部は前回と同様「駆ける、止まる」から始まった。昼の部はほぼ最前で見ることができたが、夜の部は中央部後ろから有花さんを眺める。
楽器隊がよく見えてこれもまた良いな、と思った。そして、前にいるときは気づかなかったけれど、ライティングに照らされた影がとても良かった。有花さんの影もそうだし、色々な楽器の影がライティングの方向によって、照らされてとても綺麗だった。

「とろける哲学」「みずいろのきみ」「プランクルームは夢の中」と昼の部に演奏された曲が続く。どことなく演奏がよりこなれているような、音楽がリラックスしているような気がした。
夜の部では一度演奏を聞いていたおかげかバンドメンバーの音に集中することができた。全体として特殊なギターレスの構成がベースやピアノの音を際立たせていて、ギター演奏の部分をカバーしていたのが印象的だった。そして、当たり前のように森田さんがベースを持ち替えてフィンガーピッキングを披露しているのが凄い。

「アーティフィシャル・アイデンティティ」、「ライカ」、「異世界うぇあ」という楽しげなポップソングが続くパートでは有花さんも私達も身体を揺らして、大きな歓声をあげながら盛り上がった。
一度バンド紹介を挟み、「オレンジスケール」のイントロが流れると会場のボルテージはもう一段階上がる。この曲は長瀬有花さんの原点にあたる曲であり、ワンマンライブで歌われることに大きな意義がある。私としては、毎回違った印象を与えてくれるのがとても嬉しい。

そして、ここで昼の部には歌われなかった曲「砂漠の水」を披露。この曲は前回のワンマンライブ「エウレカ」で歌われなかった曲で、とても新鮮に聴くことができた。浮遊感のあるミュージックに、独特なアンサンブルが噛み合って長瀬有花ワールドをより色濃く染めていた。
そして、そのままポエトリーから始まる「fake news」へと続き、その独特な浮遊感をもたせたままYouTubeで動画公開がされている「近くて、遠くて」が披露される。「砂漠の水」から続くこの三曲は、その繋がりと間奏がとても気持ちよく、現地のグルーブ感を最大限に活かした演奏になっていたように感じられた。まさに「音楽の原体験」そのものだったと思う。

続いて、赤色のライトに照らされ披露された「アフターユ」は、シューゲイズ風のアレンジになっていて、この放電の世界観を体現しているように見えた。そして、異世界感にあふれた空間を引き継いだまま、ピアノの音色が印象的な「やがてクラシック」が歌われる。通常のものよりもテンポを落としたバラードアレンジになっていて、よりメロディアスな曲に仕上がっていた。

続いて、昼の部では有花さん独りのアコースティックで披露された「微熱煙」が夜の部ではバンド編成で披露される。ゆったりとしたオシャレなベースソロのイントロから始まったこの曲は、どこか寂しげな印象を残しつつ、有花さんの強い決意を感じられる。
これは後日の振り返り配信で言っていたことだが、らららのシンガロングは昼の部で披露して良かったので急遽取り入れたものらしい。
その通り、みんなで合唱する「微熱煙」はとても楽しかった。

そして、昼の部とは異なりバンド演奏で「宇宙遊泳」を披露。昼の部とは異なり、軽快なリズムにゆったりと身体を揺らすことができた。

ここで短めのMCを挟んで、唯一撮影可能な曲となった「プラネタリネア」が演奏される。歌いだしに顔を見合わせて泊を取る姿が印象的で、リズムが難しいこの曲を有花さん、そしてバンドメンバーが上手く乗りこなし、楽しく表現していた。「
宇宙遊泳」→「プラネタリネア」という宇宙感のあるセットリストは、浮遊感のある放電のエンディングに相応しい様相で、独特な長瀬有花の世界観に満たされながら夜の部を終えた。

放電の音楽性

今回長瀬有花さんは手元でノイズミュージックを弄っていたが、空間の音楽全体として、「ニューウェイブ」が裏のコンセプトになっているのではないかと感じられた(これは私が勝手に言ってるだけ)。
1970年代~80年代にかけてロックに停滞感が漂っている中で、ロックという生音に電子音楽を交えて発生した「ニューウェイブ」。
この音楽性は同期なしの音楽の中にノイズミュージックを混ぜた放電と重なる。

手元の機器を操る有花さんはとてもかっこよかったし、薄っすらとYMOの影が見えた。レトロなロックミュージックが好きな長瀬有花さんらしいコンセプトになっていたかと思う。
また、リアルサウンドから記事が出されている放電の公式ライブレポートにある独特な写真も、ニューウェイブバンドPOLYSICSもオマージュだと思われる。この写真独特で本当に好き。

長瀬有花2ndLIVE「放電」は、長瀬有花さんらしい表現に拘りつつ、新しいことに挑戦したライブとなった。
Vtuber発のアーティストといえば、映像や3D技術などのバーチャル表現を磨いていく中で、逆に本物の生音に拘る今回のライブはとても新鮮だった。そして、彼女が音楽好きということが良く伝わってきた。
次のライブがどんなコンセプトなのか今から楽しみだ。

あとがき

年度初めの仕事に忙殺されているうちに、もうGW。
バチバチとした放電が心に鳴っているうちに紙のノートにざっと感想メモを書いていたけれど、noteにまとめる間がGWまでないままこの時期まで引き伸ばしてしまった。流石に反省しているので、次回以降はペースを早めたい。

冒頭にも述べたが、年が明けてからの長瀬有花さんの活動は本当に精力的で、ほぼ毎月、4月に至っては毎週ライブが組まれていたように思う。
普段ロックバンドも追っている私としては、この頻度でライブをしてくれるVtuberが現れるとは思わなかったので本当に嬉しい!(ただ、チケット戦争は嫌だから次のワンマンはZepp Shinjukuをお願いしたい……)。
また、無理はしない程度に東京で開催されるライブはできる限り追っていきたいと思っている。これは自分が見たいということもあるけれど、長瀬有花さんを初めてみた人の感想がとても好きなのが大きい。みんな本当に良さげな顔をしているんだよな。

私は長瀬有花さんの音楽センスに惚れているので、これからも長瀬有花の世界観を拡張していけば、面白い世界になると確信している。
今回のライブありがとうございました!次も楽しみです!

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