終わらない争い
「中東地域の紛争・戦争」に関する授業を受けたのは、12月の暮れのことだ。パレスチナ地域の歴史。これまでに起こった戦争。和平への歩み寄りと頓挫。講義を聴きながら、あのニュースのことを思い出さずにはいられなかった。
2023年10月7日。パレスチナの解放を訴える武装組織「ハマス」が、イスラエルに対して大規模な攻撃を開始した。
このニュースは瞬く間に世界に広まり、連日、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられることとなった。刻一刻と変わる戦況を映した画像や映像が、現場の凄惨さを保もったまま、遠く離れた私たちのところまで届く。
世間が「戦争だ」「大変だ」と騒ぐ中で私は、まるで話題の映画の戦争シーンが広く出回っているかのように、どこか冷静に、自分とは関係のないものとして、この出来事を捉えていた。
そこに暮らす人々の大変さや苦しさは想像に難くなかったし、目に留まる戦地の様子には心を痛めた。が、正直「戦争」そのものには興味を持てず、実際、関連するニュースにもほとんど目を向けなかった。
そんなわけで、この授業にもたいして興味を持てなかった。「単位を取るために覚えなければならないもの」の一つでしかなかった。
その翌日か、翌々日だったと思う。なんとなしに、NHKの「世界のトップ!教育コンテンツ~第50回日本賞~」という番組を視聴した。
「日本賞」はNHKが主催する国際コンクールで、教育の可能性を広げる世界の優れた映像作品が表彰される。今回(2023年)は、55の国と地域から391の作品が寄せられたというから、規模の大きさが分かる。そんな多様なコンテンツの中で、見事グランプリに輝いたのが「トゥー・キッズ・ア・デイ」だ。この作品の概要を、NHKのサイトから引用する形で以下に示す。
番組では、この作品の始終が放映された。
映像を通して、そこに生きる人たちの様子が克明に伝わってくる。
石を投げる子供たち。それを逮捕する大人。拘留所で泣く子供。子供に激高する大人。
と同時に、彼らのもつ強い負の感情を受け取った。それは「個人」の感情ではない。怒り、悲しみ、嘆きといった負の感情が、幾層にも重なって「地域全体」に広がっているような気がした。人ひとりの感情をも超える、集団的に形成されてきた感情が対立を深め、広げ、続けさせる。広大な空間と時間を支配する「何か」が、終わりのない戦争を引き起こしているのだと思った。
今なお続くイスラエル・パレスチナ戦争。
それは、パレスチナ人とイスラエル人の民族間の争いである。
2つの巨大な勢力どうしの争いは、石を投げる子供とそれを捕らえる大人という二者間の対立に集約されているのだ―こう考えると、この問題は他人事ではないように思えてきた。それは、自分や周りの対立や争いが、もしかしたらもっと大きな何かによって引き起こされている(引き起こされる)かもしれないからだ。戦争は自分には関係のないものなんかではなく、「自分の身にも起こりうる出来事」として、少しだけ関心が湧いた。
なぜ戦争が起こってしまうのか。終わりが見えないのか。その一端を、この作品に見た気がする。
もう一度、授業の内容を確認してみよう。
そう思い立った僕は、さっそくパソコンを開いて、少し前に受けた講義の資料を開いた。
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