緑玉で君を想い眠る①
純白のウエディングドレスが、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
溢れ出す鮮血は止まるところを知らず、傷口を押さえる手を擦り抜けていく。
「叶羽……!」
彼の手が、私の頬に触れる。私はその手を握り返す。
同じように彼の名前を呼びたいのに、唇が震えて言葉が出てこない。
ようやく周囲のゲスト達も現実の状況に頭が追い付いたのか、ざわめきと悲鳴が入り混じり、場は混乱に満ちていく。
西洋建築の館。鳥のさえずりと秋の優しい木漏れ日が差し込む、穏やかな森。季節の花と五メートルほどの池がある庭。建物の正面には舗装された道と広々とした芝生のみが広がっている。豪奢すぎない、どこか素朴さがある、閑静な館。
この場に相応しくない喧騒が広がる。
その音は鼓膜には届いているし、私も同じように叫びたかった。
なのに、何一つ言葉にならない。わずかな空気すら震わせることができない。
「叶羽…………!」
もう一度、彼が私の名前を呼んだ。
その瞳が、まっすぐに、切実に、私を見つめている。
いつ溢れ出したのか、彼の目から涙が零れていた。その涙を拭ってあげたいのに、彼の手を握った手は硬直したように動かない。傷口を押さえる手からは未だに生温かいものを感じて、離すことはできなかった。
救急車を、警察を、捕らえろ……。そんな言葉が聞こえてくる。
周りが騒がしくなるにつれて、体が冷えていった。命の炎が消えていくような気がした。
駄目だ。このままでは駄目だ。
何か。何か言わなければ。
彼に聞かなくては――。
「どう、して……」
どうして、こんなこと。
彼はまた、一筋の涙を流した。
そして、精一杯微笑んだ表情をした。
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