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Soap Opera - 5:Final

あらすじ。34年連れ添った、37歳年上のおじを失い、悲壮にくれる近所のおば。財産をハゲタカのように狙うおじの実子たち。当初は、おじの実子たちに財産を取られるので戦わなければならぬおば、対、ただひたすらにハゲタカな実子たち、という構図かと思っていたが、実はおばもかなり酷いことをしでかしていたことが発覚。両サイドの家族の真実を知ってしまった我々夫婦。そしてそのことを知るのもまた我々夫婦のみ。さぁどうする、どうなる、葬式。(ようやく)最終回です。

前回の話。

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その前に書き記しておきたいことがある。実はちょっと前にNoteでご縁の
できたKoedananafushiさんにタロット占いをしていただいたのだ。

  • 内側では、葛藤しているし、気は抜けないぞ…なんか、巻き込まれる予感してるしなぁって、何か戦いに巻き込まれそうとか、そういう不安というか、嫌だなぁ、面倒だなぁって気持ちが渦を巻いています。  

  • くるりと方向転換すると、見える景色はかわるものです

  • 現在の立ち位置は救済者。寛大で、きっと、周囲の人になんだかんだ言いつつ優しくしているのだと思います。

  • 精神的な疲労。 周囲の人の中に、気疲れして、悲しみ、不安定な人がいますね。

  • だからなのか、質問者の恐れもしくは期待のところに『平和な休息時間』をあらわす棒の4がやってきました。きっと、周囲の人の悲しみや不安定さをカバーするためにRingoさんは何かしら頑張っている日々なのでしょうね。

  • 打開策を考えたり、トラブルに備えて踏ん張る時ですよとカードは言っています。

……ちょ……


おわかりいただけるだろうか。そう!このSoap Opera記事で書いている出来事のママではないかぁぁぁぁ。びっくりでない?!びっくりするよな!私はびっくりした!リーディング結果が届いたのは、おじの死の4日前のこと。先読み?!タロット、すごい。Koeadananafushiさん、すごい

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と、いうわけで葬式の当日である。夫は半日だけのオフ、私は1日休みを取った。式の後、お客さんらが近所のおば宅に集まるのでそのための食べ物や飲み物を買い出しに行ったり、ばたばたと用意をして、葬式の会場へと向かった。

お葬式の始まる前。家にいるときに夫アルゴは、あなたに話しておきたいことがある。といい、彼がどうしたいのか、何をするのかを語りだした。

近所のおばがおじの地元でのお別れ会費用を負担しないのは間違っているが、おばが出すことはない。絶対にないだろう。思い返せば、おじの死の直後は、光熱費どうしよう、病院の請求どうしよう、などということも口にして嘆きまくっていたが、葬式の手配が済んだ途端にそれがぴたっと収まった。その時は、姉たちがいるから落ち着いたのだとばかり思っていたけれど。保険金やもろもろの相続の手配が終了した途端に、彼女は何も言わなくなった。俺が思うに、実子たちに公開した金額以上のものを受け取るのだと思う。

両家の関係は拗れにこじれており、もはや一発即発の状態であり、地元からおじの親族も数人やってくるのだ。葬式の最中に乱闘が起こる可能性も非常に高い   (普通に考えて葬式で乱闘っておかしいだろ!だがもう私の感覚も麻痺していたため、普通に、そうよなぁと納得してしまう始末)

何より、自分たちの家族がこのような感情のままにおじを見送ることは悲しいし、死者への冒涜である。それが俺には許せないし、納得いかない。

うむ……すべてに同意。

俺はおじさんの地元のお別れ会の費用をお悔やみとして出そうと思う。自分たちの貯金に手をつけることになるし、あんたには申し訳ない。だが彼女は血の繋がったおばであるし、おじは俺にとって大事な人である。お金を出すことであちら側の親族の心が少しでも安らぐのなら、そうしたい。おじがこの街で、妻(おば)の親族に与えた愛、築いた人間関係に救いがあったのどと思ってほしい。知っていて欲しい。おじが俺に教えてくれたこと、与えてくれたものは本当に大事で、俺の一部なのだ。だからお返しをしたい。

この事は誰にも言わずあくまで俺らと実子息子の間だけのやり取りにしたい。恩を着せるわけでもなく、感謝されるためにすることではない。ただ、おじを送るために俺ができることをしたい。

また、おじ親族側の事情を知らないおばたちは、皆、彼らに大層、失礼なことをしでかした。事情を知らないとはいえ、ひどいことをしたと思うし、俺もひどい態度をとった(私も態度には出さずともひどかったと反省した)。

俺があちら側の親族と挨拶したり、話したりするので、あんたは、こちら側の親族の助けを継続して欲しいし、近所のおばをサポートしてほしい。

このことは二人だけのこととして誰にも話さず、また、葬式では普通の態度でいてほしい。それからのことは後から考えればいい。

事実というのは、愛する夫、父親を亡くした人たちであり、そして俺自身、唯一の父親のような人であったので悲しい。それがBottom Line(根っこのとこ)である。

このような旨のことを夫はゆっくりと静かに言った。

おばのしでかしたことに何故我々が尻拭いをせねばならぬのかと、腹は立ったが、夫の [ただ今は静かにおじを見送りたいのだ] という気持ちを尊重することにした。その時に、冒頭にあげたタロットリーディングの言葉を思い出したのだ。

現在の立ち位置は救済者打開策を考えたり、トラブルに備えて踏ん張る時ですよとカードは言っています。なので私は言った。

確かに額はでかいが、おじさんが子供の頃から貰った小遣いなど30数年分の総額をお返しする、と考えれば、これくらいの金額にはなるだろうから、おじさんにお返しする気持ちで包むことにしよう。まあ、日本にはお包みする文化もあるしさ。

また、当初の予定通り、私は、お葬式の途中で抜け、おば宅へと行き、葬儀のあとに人が集まる準備をしよう。私は昨日のうちにおじさんとのお別れは済ませてしまったので、大丈夫である。

なので、あなた(夫)は自分の気持ちを落ち着かせ、取り乱すことなく葬儀に出てほしい。途中で退席したりすることのないよう、きちんと最後までおじをお見送りしてくれ。それはあなたにとって必要な通過儀礼であり、おじへのリスペクトである。私が最後まで参列できない分、最後まできちんと式を終えてほしい。これが、うちからお悔やみを包む条件である。

葬儀場は、義母を見送った場所と同じ。何も変わっていない風景や、義母の式をした部屋と同じ部屋であったので、夫アルゴにとってはとてもしんどいのだ。なので、2時間ばかりその場にいろというのは夫アルゴにとっては大変なことだった。この人はそもそも繊細な上に、しかもこんなメロドラマ背景もある。夫アルゴは準備をするのに時間をかけた。その間、私は夫に言われた通り、夫側の親族と行動をともにした。

おじの死から葬式の日まで。夫アルゴは、悲しみ、激怒し、落ち込み、また激怒。ほとんど寝てもいなければ、食べてもいなかった。胃の痛みと悪夢にうなされ続けていた。ママの時も、去年のおじさんの時も、今回も。金、金、金ってアホか。親族同士のマインドゲームとかアホか。醜悪すぎる、もううんざりだと呟いた彼はつぶやき続けていた。

そうである。普通に暮らしていたらこんなにもキチガイじみた葬式なんておかしいんである。

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おじの葬儀は、遺言通り、シンプルなものであった。おじが一番好んで着ていたスーツ。胸元には、キャデラックのエンブレムが置かれた。棺はとてもシンプルで、他のものも、式の流れもできるだけ宗教色のないものにしてくれという彼の言葉が尊重されていた。

かなりの数の人々が訪れ、おじとの別れに涙していた。誰もが、おじはいつだっておしゃれな格好をして、いい匂いをさせていた。キャデラックを心から愛し、そしてうまいジョークの言える素敵な男であったと口々に言っていた。

私は知らなかったのだけど、おじは若かりし頃、従軍していた。式の始まる前に、ミリタリーから派遣されたソルジャーがやってきて、国旗の授与を行った。これはこれでまた後ほど、ゆっくり記事にいたしたいと思う。

私にとっては、おじは、夫のおばの連れ合い。おじにとっては、義理の甥の嫁。まぁ他人といやぁ他人。それでも夫アルゴと付き合い出したその日から、私はおじを知っている。元気なときも、大きな手術をした時も、痴呆が始まってしまった時も。近所に住んでいたし、たくさんいる夫側の親族で、近所のおばとおじに最も親しく付き合っていたのが我々なのだ。

Old Schoolにも程がある頑固なじぃさん』というのが私が彼に思う印象であった。どんなに年をとっても、アルツハイマーで記憶を失っても、ジェントルマンで礼儀を重んじる人だった。私のことをいつだって素敵なレディとして扱ってくれた。悲しみもあったし、同時に、苦しい思いやしんどい思いをせずに最期を迎えられたのはよかったと眠っているような彼の顔をみてそう思った。

お葬式では一通りの祈りなどが終わった後に、故人との思い出を参列者が壇上でスピーチする。希望者が壇上にあがり、話す。夫アルゴはこれまで誰のお葬式でもスピーチをすることはなかった。ママの葬儀ですら。詩人であり、話し上手である夫アルゴに話してほしいと頼まれても、頑なにスピーチをすることはなかった。大体の場合において、夫アルゴの中で故人の死を受け入れられていないことが多いからだ。そんな夫が壇上にたち、おじへの気持ちを語った。

男とはどうあるべきかを教えてくれた唯一の人でした。きちんとしたスーツとそれに見合う靴を買うこと。どんなに高価な服をきていても、テニスシューズで歩き回るのは、テニスシューズの価値しかない人と言っているようなものだ。きちんと仕事をし、家族を愛し、そしてまっすぐに生きていれば、見てみろ、眼の前に広がる世界はお前のものなんだ。きちんとした格好、行儀作法、そして生き方、それが大事なんだ。身だしなみを整え、そして人には常に優しくあれ。と、俺が13歳のときにおじは言いました。

当時、彼の愛車だったフェラーリに俺をのせ、この街が一望できる広場で彼はそういったんです。本物を知れ。本物を身に着けろ。本物が似合う男になれ。そして、本物の男になれ。お前ならできる、とそんな風におじは言いました。

大人の男、粋な男、優しい男、モテる男、家族を守る男。そのすべてを教えてくれたのがおじで、彼はどうしようもなかった若い頃の俺を子供ではなく、小さな大人、小さな人間として、ずっと対等に扱ってくれました。

対等さ、というのは子供だった俺から見たら、残酷だったり、厳しかったりしました。自由でいるために義務をはたさなきゃならないから。大人と対等に扱われるには、それに見合った対価が必要だから。生意気だった俺は、口うるさいじぃさんだと思ったことが何度も何度もありました。でも、彼の考え方と生き方が今の俺を作り上げているのです。俺はおじを愛しています。そしてまた、おじも俺をたくさん、愛してくれました。今、こうして最期のお別れをしています。けれど、俺の中で、心の中でおじはずっと生き続けるのです。

そんなスピーチをした夫アルゴは、きちんとしたスーツ、そしてピカピカに磨き上げた靴を履いていた。主張しすぎないけれど、きちんとした本物の装飾品。おじが夫に教えてきたように、きちんとした身だしなみ、きちんとした行儀作法。取り乱すことなく、涙を見せることもなく、夫はスピーチを終えた。

近所のおばとこちら側の親族も。実子たちをはじめとするおじ側の親族も。皆が涙し、そうだ、そうだと声をあげ、拍手喝采で夫のスピーチに聞き入っていた。

散々なメロドラマが繰り返され続けてきたおじの死であったが、その時だけ、夫のスピーチの間だけは、どちら側の親族という区分もなく、皆が亡くなったおじのことを想い、一つになれた瞬間であったと思う

エンディング。実際のメロドラマならクライマックスシーンとでも言えよう。夫は、夫が言った通り、おじのことをきちんと見送れたと思う。

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式の後、夫は誰とも口を聞かずに一人で家に帰った。私は先に会場を出ていたため、知らないでいた。周囲の人々も、夫がいつの間に会場から去ったのか気づかないでいた。

私は手伝いをするためにおばの家に立ち寄った。そこには、たくさんの人たちがいたけれど、やっぱり、おば(我々)サイドの親族、おじサイドの親族できっちり分かれてしまっていた。なるほど、夫はこういうところを見たくもなければ、混じりたくもなかったのだろうと納得した。そして私もまた、その場には長居したくなかったので、夫がそうしたように、何も言わずにそっと近所のおば宅を後にした。

帰宅するとスーツを脱いだ夫が一人、ぼんやりと暗闇の中に座っていた。犬たちはみな、夫に寄り添っていた。真っ暗じゃん、電気つけなよ、と私が言うと、夫は、困ったような顔をして、ふぅっと大きなため息をつくと次の瞬間、大きな声をあげて泣き始めた。

咆哮にも似た声をあげて夫は泣いた。私はコートも脱がずに、わんわんと子供のように泣く夫を抱きしめて、よくやったよ、がんばったねと声をかけた。あの人は、父親のいない俺にとって、唯一の父親のような人だったんだ、そんな風なことを言って、夫は泣き続けた。俺は悲しいんだ。とてつもなく悲しいんだ。おじが死んだことが。悲しいんだ。ただ、ただ、悲しいんだよ。おじはもういないんだ。

おじの死から8日目。夫の見せた初めての涙だった。

抱きしめた夫からは、おじと同じ香りがした。あぁ、そっか。香水つけることもおじが夫に教えたことだもんなぁ。きっとおじが気に入ってつけていたものと同じものをつけたのだろうなぁ、とぼんやりと思った。

こうして、おじの死から8日間。ありえないメロドラマはようやく幕を閉じたのだった。

Who needs a soap opera when you have a family? Drama comes and goes. Family stays forever. Remember, you can love them, but you cannot fix them.

家族がいるとき、誰がソープオペラ(メロドラマ)を必要とするの? ドラマは行ったり来たり。 家族は永遠に残ります。 覚えておいてください、あなたは家族を愛することができますが、修正することはできません。

夫もいっていたけれど。結局のところ、根本にあるのは、それぞれがそれぞれのやり方でおじを愛していた、それだけのことだと思うことにした。

それからのことは後から考えればいい。と、夫は言っていたけど。まぁこれから起こるかもしれないメロドラマなんてもうたくさんだよ。なんてことを思いながら私は夫の背中をさすり続けていたのだった。


END

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こちら、文中で引用させていただいたKoedananafushiさんのタロット占いについて。普段は占いに全く興味のない私と、「ふわふわした占いです」なんて言い切るKoedananafushiさん。『偶然だ』といえばそうかもしれないけれど、それにしたってすごいと思う。


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