鴨林軒note支店

文芸同人の鴨林軒(おうりんけん)です。4人のメンバーが毎週水曜日に小説・評論をお届けし…

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文芸同人の鴨林軒(おうりんけん)です。4人のメンバーが毎週水曜日に小説・評論をお届けします。メールアドレス:ohrinken.takeout@gmail.com(感想等はこちらにお寄せいただけます)

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最近の記事

【戯曲】饗宴 第一幕(広瀬喜六)

後輩:学部一年生の美大生。洒落っ気のない機能性重視の服。顔立ちは中性的で柔和な体つき。身長は決して低くない。髪も伸びなりになっていて、男ならば長いが、女ならば短いくらい。ゴムで後ろにわずかにまとめている。ブルーライトカットの伊達眼鏡をかけている。 先輩:学部三年生の文系学生。カジュアルジャケットを着こなし小奇麗な見た目をしている男。服の割には背が低い。髪もさっぱりとしており、好青年の感がある。社会人向けのカバンなどを持っているが、服装からして大学生であると分かる。 この劇

    • 【小説】巡礼の年(西文貴澄)

       巡礼の年を迎えた。16歳の時に『方法序説』を読んでから、18歳になったら旅に出ると心に決めていて、私はそれを巡礼の年と呼んでいた。  巡礼と言っても、メッカに行くわけでも、お遍路さんに行くわけでもない。そういう、目的を持った崇高な旅ではなく、ただ、自分の思いを昇華させるための旅だった。その本のある一節を目にしてから、啓示のように、旅に出なければならないと悟った。自分よりも中性的な声が、頭の中でその一節を何度もなぞった。私は巡礼の旅に出るほかに、選択肢がなかった。  私は放課

      • 【小説】蟻とバス(南後りむ)

         午後四時を過ぎたころ、駅前のバス停には十名ほどの列ができていた。その最後尾に、学校帰りの男子高校生がスマホを片手に立っていた。その視線は当然ながらスマホの画面――会員制交流サイトとやらが表示されていた――にやられていた。その目は特に熱心になにかを見るというでもなく、気だるげだった。息をするように他人の投稿を眺め、特に何か思うということもなく、また息をするように――或いは食い物を咀嚼して、嚥下して、消化するように、画面をスクロールしてまた次の投稿を眺めていた。いや、彼にとって

        • 【小説】言い訳(唐桶つばめ)

           ため息をついてスマホの画面を閉じる。提出予定日を超過しているにもかかわらず一切の連絡もよこさないとは、どうやら完全に無視を決め込む算段のようだ。  ラインで何度連絡を取ろうとしても既読無視を繰り返し、電話にも一切応じるつもりはないらしい。こちらは予定に合わせて動きたいというのに、と本当に嫌気がさす。  どんな物事でも足を引っ張る人がいたら全て台無しになってしまうものだ。そして、その「足を引っ張る人」として真っ先に名前を挙げるとしたら彼だろうと前々から思っていたが、見事に

        【戯曲】饗宴 第一幕(広瀬喜六)

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        • ウリクセスの幕が上がる
          1本

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          【小説】庭たずみ(広瀬喜六)

           記号の与えられない感情をしまっておくには人間はちっぽけだよ。なんてきざなことを言った彼はどこへ行ったか知れない。彼は、ちょうど彼自身が思っていたよりもずっとちっぽけな人間だったのかもしれない。  田坂さんは、記号の役割は個別的な差異に気が付くようにする事なんじゃないかな、といって画廊を出ていった。それはちょうど5分前の事で、あなたはそれから彼を見ていない。田坂さんとは銀座でよく出会った。もちろん金などないものだからもっぱらきらめく街のショーウィンドウを眺めながら松竹の演劇

          【小説】庭たずみ(広瀬喜六)

          【小説】アドベントカレンダー(西文貴澄)

           昔、イーサーさんがアドベントカレンダーを買ってきてくれた。  クリスマスツリーの形をした箱がカレンダーになっていて、日付のところを押してくりぬくと中から小さなチョコが出てくる。暖かいところに置かれていたのか、出てきたチョコはどれも表面が白っぽくなっていた。  イーサーさんは2つ買って、僕と毎日1つずつ食べるつもりでいたが、イーサーさんが帰った後、僕は1日でチョコを全部食べてしまった。イーサーさんは「なんてことするんだ」と言って怒ってしまった。  けれど、後々考えたらきっとそ

          【小説】アドベントカレンダー(西文貴澄)

          【企画説明】2021年6月度のテーマを発表します(南後りむ)

           6月がやってまいりました。今月から、鴨林軒は本格始動します。  先週あたりによくわからぬ自己紹介小説が投稿されていたかと思います。まだお読みでない方は、ぜひそちらにも目を通してみてください。  さて、その自己紹介小説にて、鴨林軒のコンセプトというか、これからの活動の方針に触れたわけですが、投稿した後になって、如何せんわかりにくかったような気がしてきました。ですので、まずはそのことについて記すことにします。  そもそもわれわれ鴨林軒の活動は、小説、随筆、評論などの文芸作

          【企画説明】2021年6月度のテーマを発表します(南後りむ)

          【自己紹介】隠れ家的料理屋「鴨林軒」に行ってみました!(南後りむ)

           3丁目のY字路を曲がってまっすぐ進むと、突き当たりに寂れた小料理屋があります。細々と営まれているそのお店は、「鴨林軒」といいます。 「『おうりんけん』と読むんですけどね、どうも一見さんには読みづらいらしくて、いつもいつも『かもばやしけん』とかって、間違えられるんですよ。まあ、そもそもそんなにお客さんも、来ないんですけどねぇ」  のんびりとした調子で笑うのは、店主の広瀬喜六さん。気難しそうな方かと思いきや、存外柔和な方のようです。  さっそく食事を、とお品書きを見てみる

          【自己紹介】隠れ家的料理屋「鴨林軒」に行ってみました!(南後りむ)