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「反転授業」の威力(2):留学生が「地方分権」を考えた

英語基準の学部コースCommunity and Regional Policy Studies Majorで、わたしの担当授業「Multi-level Governance II」では、「反転授業」という方式を導入している。

動画を予習として置き、学生はそれを観て授業に臨む。授業では、テーマを与え、グループに分かれて議論し、プレゼンテーションをする。これが「反転授業」です。

3年前のコロナ禍の始まりとともに、この形式の授業をスタートさせた。その意義、効果はすでに論じたので、こちらをご覧いただければと思います。

今回は、反転授業で、その学べる範囲が、講師である私の意図を超えて数倍に拡大したことを紹介したいと思います。

今回のお題は「中央―地方関係」。最初に、その理論的なことや、簡単な指標を用いた各国の地方分権どの比較などを、私が約20分動画で講義しました。それが予習。

教室では、27人に受講生を6-7人ずつ、4つのグループに分けて、議論をさせた。課題は、「1つ国を事例として挙げて、その中央地方関係の特徴をまとめること」とした。

そうしたら、驚いたんです。

まず、事例として挙げる国が、私の予想を超えてました。「チリ」「ベトナム」「ミャンマー」「ノルウェー」。

えっ?(笑)と思ったわけです。まず、「ベトナム」は共産主義。「ミャンマー」は軍事政権です。チリは社会主義からピノチェト政権を経て、まあ民主化してはいますが、さて?。ノルウェーも北欧の福祉国家でどちらかといえば、中央集権のイメージ。

この時点で、学生のプレゼンの後にする、私の5-10分間の講評と解説で、私が元々話そうと考えていたことは崩れ去ったのです(笑)。たぶん、ドイツとか、カナダとか事例にするだろうなと思っていた私は、困ったなと内心思いました。

ところが、学生のプレゼンを順番に聞いているうちに、だんだん気づいたことがありました。

それは、「地方分権とは、中央集権のためにある」ということです。

日本ではそうではないかもしれないですね。しかし、世界にはそういう国が多いのではないかということです。学生も、それに気づいているから、そういう事例を選んできたのではないかと。

例えば、ベトナムです。共産主義で計画経済を実行している。共産党が決めた政策を全国に一律に行き渡らせる。その国がなぜ、地方分権なのか。それは、地方が未開のままだと、共産党が計画を決めても実行できないからです。共産党の計画経済を進めるには、地方が中央並みに発展しなければならない。だから、地方政府に人材やリソースを送り、分権の名のもとに発展させる。

軍事政権も同じですね。強力な軍による中央集権を全国で機能させるために、地方を経済的に発展させる必要があるのだと。

南米も、社会主義や、独裁政権、軍事政権を経て、民主化の過程にあり、その中でポピュリストの指導者が出現したりして様々です。しかし、いまだ発展段階が遅れている地方を掌握するために、分権のいう名の集権が行われているようです。

ノルウェーですが、元々林業が主要産業で、欧州の中では豊かではない国でした。ところが、北海油田が出てから、オイルマネーで潤い、それを原資に福祉国家を建設した。

そして、それをいまだ林業中心の地方に広げていこうとする。それが地方分権改革に意義なのです。

「世界のいろんな政治体制の国で、地方分権が、中央集権のために行われてきた」ということが、私のこの授業での講評となりました。

反転授業の威力は、講義部分を予習として、教室ではより深く広い議論を学生にしてもらうことで、私が講義するだけの時の何倍もの質と量のことを、学生が学べることです。

私が講義すれば、事例は日本やドイツなど欧州に限られる。私から学生が学べる範囲は、そんなに広くないのです。

今回は、学生が挙げて4つの国の事例から、学生はより広い事例を学べ、かつ、教科書には書かれていない、より問題の本質につっこんだ結論も得られるということです。

いい授業になったと思います。



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