紙野七

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紙野七

小説 / 詩 / 音楽など。YouTubeで本の紹介などもしております。Exotic Penguin主催。通販はこちら(http://inuikamina.booth.pm) ご依頼等はDM・メールにてご相談ください。 ご連絡→exopenkamina@gmail.com

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  • 平凡な少女のありふれた死に方

    【あらすじ】 ある日、主人公・西村景は部室で白坂奈衣が死んでいるのを発見した。 文芸部と演劇部が合併してできたという文演部では、『本作り』と呼ばれる特殊な作品作りが行われていた。 自分たちで書いたシナリオを、自分たちで演じる。しかし、それは文芸とも演劇とも違い、出来上がったシナリオを演じるのではなく、演じた結果生まれたシナリオこそが作品になるというものだった。 白坂はいつも自分が死ぬシナリオと作り、その死の物語を景たち他の部員に作らせていたが、ついに演技ではなく実際に命を絶ってしまった。 景たち文演部に残された部員たちは、彼女が最期に遺したシナリオを完成させるため、彼女の死の理由に迫っていく。

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【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第1話

【あらすじ】  ある日、主人公・西村景は部室で白坂奈衣が死んでいるのを発見した。  文芸部と演劇部が合併してできたという文演部では、『本作り』と呼ばれる特殊な作品作りが行われていた。  自分たちで書いたシナリオを、自分たちで演じる。しかし、それは文芸とも演劇とも違い、出来上がったシナリオを演じるのではなく、演じた結果生まれたシナリオこそが作品になるというものだった。  白坂はいつも自分が死ぬシナリオと作り、その死の物語を景たち他の部員に作らせていたが、ついに演技ではなく実際に

    • 【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第15話

       僕は和希みたいなタイプが苦手だった。  人当たりがよく社交的な性格、初対面から下の名前で呼んでくるような軽薄さ、どんな相手でもすっと懐に入っていけてしまう図太さ。そのどれもが僕とは正反対で、普通だったら決して仲良くならない人間だっただろう。  文演部に入りたての頃は、自然と彼のことを避けていた。必要最低限の会話は交わす程度、距離が詰まるとさりげなく後ろに下がって一定の間隔を保っていた。  それは彼のような器用な人間への憧れや嫉妬もあったが、一番は自分を見透かされてしまうので

      • 【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第14話

         果たして白坂先輩はどこまでのシナリオを考えていたのだろうか。  住野さんがああやって自分が殺したと嘘を吐くことも織り込み済だったのではないかと思ってしまう。だから、あえて彼女だけには自分が死のうとしていることを明かしたし、煽るようなことを言って彼女の怒りを買った。  もしかしたら、僕が白坂先輩の死を暴くところまで、彼女のシナリオ通りなのではないかとすら思える。そうだとしたら、僕はどこへ向かうのが正解なのだろう。彼女の死を解き明かすことができたなら、そのときは自分に与えられた

        • 【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第13話

          「私が言うのはフェアじゃないってわかってるんです……」  高木さんはそう言って苦虫を嚙み潰したような顔で、自分の知るすべてを語ってくれた。  真っ直ぐ僕の目を見つめるその瞳は、ビー玉のようにキラキラと光を反射して、透き通った綺麗な色をしていた。落ち着いた雰囲気で文学少女然とした住野さんとは対照的に、彼女は軽く明るく染まった髪とパッチリ開いた大きな瞳が印象的な派手めの女の子だった。  住野さんとは同じクラスで、何でも話せるほど親密な間柄とのことだが、全く違うタイプだからこそ仲が

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        【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第1話

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        • 平凡な少女のありふれた死に方
          15本

        記事

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第12話

           住野さんは最初の一回目以降、恋愛を題材にしたシナリオを持ってくることはなかった。  結局文演部には正式に入部し、『本作り』にも積極的に参加してくれていた。しかし、彼女の持ってくるシナリオは他のみんなの好みに合わせたミステリ的なものや、家族や友人関係に悩む姿を描く日常に即したものなどばかりだった。 「もう恋愛ものはやるつもりないんですかね?」  ちょうどその日は他に誰も来ておらず、部室には僕と友利先輩の二人しかいなかった。ちょうど机の上に置いてあった住野さんのシナリオが目につ

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第12話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第11話

           住野さんのお見舞いへ行った次の日、僕と和希は部室棟で聞き込みを行うことにした。  やはり彼女が白坂先輩を殺したとは思えない。しかし、彼女が何かを知っていて、それを隠している可能性は高い。それが理由で自分が先輩を殺したと嘘をついているのではないかと考えていた。  白坂先輩の死を追求するため、いずれにしても当日のことは調べる必要があった。そのとっかかりとしても、住野さんの行動から紐解いていくというのは悪くないアプローチだろう。 「じゃあ僕は知り合いを適当に当たってみるよ」  一

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第11話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第10話

          「……どうして僕なんかのことが好きなの?」  ついに悠乃が僕への想いを言葉にして告げてきたとき、最初に口をついて出たのはそんな疑問だった。後から思い返すと、それはひどく残酷な言葉だったのかもしれないと思う。それでも彼女は真っ直ぐ僕と向き合い、その質問に答えてくれた。 「実はずいぶん昔に一度咲人くんと会ったことがあるの」  それは僕が親の転勤について、各地を転々としていたときのことだった。ちょうど中学に上がる直前くらいの時期で、僕はすでに新しい土地で友達を作るのを諦め、何とか周

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第10話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第9話

           次の日、僕と和希は二人で住野さんが入院している病院へ向かった。  本人に連絡するわけにもいかず、病院の場所がわからなかったが、彼女のクラス担任に聞くと案外すんなりと教えてもらうことができた。自殺未遂であろう生徒相手に、学校の人間を簡単に引き合わせてしまうのはどうかと思うけれど、今はコンプライアンス意識の低さがありがたかった。 「わざわざ来てくれてありがとうね。詩織もきっと喜ぶと思うわ」  突然の来訪だったので面会ができないのではないかという懸念もあったが、住野さんの母は追い

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第9話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第8話

           住野さんは文演部に入ってきた唯一の後輩だった。  毎年四月はどの部活も新入生を獲得するため、積極的な勧誘活動を行っている。全校生徒の数に対して部活の数が多いため、気を抜いていると一人も新入生が入らないということになりかねない。だからそれぞれビラ配りをしたり、体験入部を促して囲い込みを行ったりして、何とか部員を獲得しようと動いていた。  しかし文演部は全く勧誘活動を行わず、浮足立っている雰囲気の部室棟の中でいつもと何ら変わらない日々を過ごしていた。 「このままだと誰も入ってく

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第8話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第7話

          「住野さんが病院に運ばれたらしい」  あの日以来、久しぶりに和希から来た連絡はそんな予想だにしないものだった。 「部室で倒れていたところを通りすがりの生徒が見つけたみたい。とりあえず命に別状はないけど、しばらくは入院することになるって」  まだ時間は十八時過ぎだったので、おそらく事が起きてから一、二時間しか経っていないはずだが、すでに彼はおおよその事情を把握し切っているようだった。人脈の広い彼のことだから、噂を聞いてすぐに事実確認を行ったのだろう。 「でも、部室ってまさか……

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第7話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第6話

           文演部の活動は基本的に月水金の週三回になっていた。  主な活動は『本作り』だが、これはシナリオがなければ何もできないため、誰かがシナリオを持ち寄ったタイミングで行われる形だった。シナリオの濃度や盛り上がりにもよるが、大体三日かけて物語を作っていく。それが月に一度行われるかどうかといった具合なので、大抵は特に活動のなく集まることが多かった。  活動のない日は各々が読書をしていたり、みんなでボードゲームをやったりして過ごす。あとは、実際に演じ終わった物語を文字に起こしておくのも

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第6話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第5話

           それからしばらくの間、学校は終始騒がしかった。  学校側から白坂先輩の死に関するアナウンスが流されるまで一週間ほどの空白期間があり、それまでの間はずっと色々な噂が飛び交っていた。渦中の僕は周囲から腫物に触るように扱われ、遠巻きでこちらを見ながら耳打ちし合う同級生を何度も見かけた。  そしてついに学校側も隠すことができないと判断したのか、あるいは大人たちの間で何かしらの調整が行われたのか、朝の全体集会で彼女の死が発表された。 「皆さんの大切な学友が不慮の事故により亡くなりまし

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第5話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第4話

           断り切れずに文演部に入部することになった翌週、僕は白坂先輩に言われた通り放課後の部室にやってきた。  恐る恐る中に入ると、すでに彼女が部屋の一番奥に鎮座していた。ちょうど僕に相対する形になり、待ちわびたと言わんばかりの不敵な笑みをこちらに向ける。 「歓迎するよ」  僕は彼女に促されて、机の周りに疎らに置かれた錆びついたパイプ椅子に腰かける。  ぐるりと部屋を見回すと、僕と彼女以外にも部員らしき人物が三人、左右に分かれて座っていた。とりあえず彼女一人ではなく、きちんと部活の体

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第4話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第3話

           べったりと血のついたナイフを抱えるようにして、白坂先輩は蹲って眠っていた。そんな生々しい死体を目の前にして、僕らは呆然と立ち尽くしてしまっていた。  そんな中で最初に動いたのは、彼女と同じ三年生の友利先輩だった。彼が急いで職員室へ向かい教員を連れてくると、僕らは部室から閉め出されて、そのまま別の教室で待機する形となった。  部室棟にいた他の生徒たちも追い立てられるようにして、次々と同じ教室にやってきた。どうやらきちんと事情を説明されていないようで、みんな何事かと不安そうな様

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第3話

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第2話

           僕が白坂先輩と出会ったのは、激しい雨の降る日だった。  ちょうど梅雨真っ盛りの時期で、気が滅入るような分厚い雲がずっと空を覆い尽くしていた。水を吸ってぐずぐずになった靴の中が気持ち悪く、足を地面につける度に小さな溜め息が漏れる。  雨風をしのぐには心許ない屋根とすっかり湿って座るのが憚られる簡素なベンチしかない停留所で、かれこれ二十分以上バスを待っていた。時刻表に書かれた時間はとうに過ぎているはずなのに、雨で遅れているのか、一向に来る気配がない。不規則な雨音に苛立ちを覚えな

          【連載小説】『平凡な少女のありふれた死に方』第2話

          僕は泥団子の作り方さえ忘れてしまった

          敬愛する音楽家が「自分の作品は泥団子だ」と言った。幼い頃に細かな砂を振りかけながら磨いていた泥団子がすべての原点であり、今もそこから何一つ変わっていないのだと。 僕はそういう幼少期の記憶をまるで覚えていない。泥団子の作り方さえ忘れてしまったから、今こうして手探りに文章を書くことしかできなくなったのだろうか。 最も古い記憶は、近くの遊園地に行ったときのものだ。しかしその中でも覚えているのは、二、三枚の静止画に収まる程度の情報だけ。 僕は両親にねだって、売店で売られていたく

          僕は泥団子の作り方さえ忘れてしまった