【読書日記】5/2 おいしいものと本。「小日向でお茶を/中島京子」
小日向でお茶を
中島京子 著 主婦の友社
中島京子さんは「夢見る帝国図書館」をはじめ「ちいさなおうち」「花桃実桃」「女中譚」などの作家さん。エッセイは読んだことがなかったので手に取ってみました。
食べることや旅のこと老いと健康のことなどを綴る48編。
時節柄、コロナ禍の生活や心象を描いていて、先日の川上弘美さんのエッセイもそうでしたが、このようなパンデミックにおける個々人の記録が残ることは次にことがおきたときの助けになるだろうと思います。
エッセイを読んでいると、同じ時期を過ごしながらもやはり都会と地方、職業や年齢で見えている景色が違うと感じました(そもそも観察眼や感性が天と地なのですが、それはおいておいて)。
今は、早くコロナ禍を乗り越えたいあまり政策が前のめりになっているようで、理解できる側面もあるのですが、コロナを不都合な過去として片付けてしまわずに、市井の色々な立場の人々がどのように行動しどのように感じたのか、という記録を収集し分析する姿勢は必要だと思います。
話が横道にそれましたが、エッセイの中から印象に残った何篇かご紹介します。
「シリア料理レストランの向こうに見えたもの」
クラウドファンディングでシリア難民であるシェフがレストランを開く支援をした中島さん。特典のランチを食べに出かけます。
中島さんによると「シリア料理=うまい」なのだそうです。
さて、そのメニューは。
「スパイスが使ってあるけれど辛くはなくて、やさしい滋味あふれるお味」なのだそうです。
シリア料理のことを今まで知らなかった、というより、それがどんなものか知ろうと思ったことがなかったことに気付きました。
シリアがどのような国なのか、なぜ、優秀なシェフが難民となり異国で言葉と文化の壁に阻まれて十分に才能を発揮できないでいたのか、などに目を向けることのなかった自分の関心の狭さを思い知りました。
「わたしたちのご先祖は喧嘩の苦手なお百姓さん」
日本語には、他の言語よりも罵倒語、特に性にまつわる罵倒語が少ないのだそうです。その代わりに登場するのが「野菜」。
ぼけなす、おたんこなす、大根役者、もやしっこ、芋野郎、どてかぼちゃ等々。
そのことを考察して、中島さんが描写する我々の先祖の様子になんともいえないおかしみがあって「なんだか、かわいいなあ、ご先祖様たち。」
・・・ほんと、かわいい。
「いつだって行きたい台湾。おいしいものと本があるから」
中島さんによる魅力的な台湾ガイド。
特に台湾の書店の、24時間営業で人々が書店の床にぺたんと腰を下ろしてその場で本を読んでいるという話が印象的でした。
そして、お勧めの台湾小説。
今まで台湾の小説は読んだことがありません。この機会に手に取ってみようと思っています。
「ミニチュアが呼び覚ますあの「銘菓」の記憶」
コロナ禍で家にいるので「ふとした気の迷い」で通販してしまうという中島さん。
心を奪われたのはなんと、「ガチャ」。
・・・そこまで、おっしゃいますか、中島さん。
そして、「老舗銘菓のミニチュアシリーズ」すなわち、泉屋のクッキーや榮太樓の飴を愛でる中島さんが・・・かわいい(失礼!)。
なんだか遠いお方のように感じていましたが急に身近に感じます。
そして、例としてあげている「NTT東日本公衆電話ガチャコレクション」。これ、うちにもあります。すこし、うれしい。
「夫婦別姓についてつらつらと考えてみた」
中島さんは夫婦別姓が選択できないので事実婚のままでいるそうです。
色々な意見のある問題でありますが、私も関心のあるところなので興味深くご意見拝読しました。
そして、最後のまとめ。
家父長制論でもなくフェミニズム論でもなく、二人が名字を「おそろい」にしたいかどうかとという別姓論。
うん、それは楽しいと思う。
おそろいにしたければすればよいし、いやならしなければよい。ペアルックはいやだからといって、カップルの仲が悪いわけではないのと同じこと。
「選択肢は多いほうが楽しい。」
・・・ほんとですね。