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【アントラーズ定点観測】#6 ホームで連勝。それでも残った歯痒さ

「まずはじめに、しょっぱい試合をしてすみませんでした。本当にまだまだ僕たちは内容を突き詰めていかないといけないと思いますし、試合終わった選手の表情を見ても誰1人納得している選手はいなかったので、もっともっと成長できるなと確信してます」

試合直後、フラッシュインタビューでの鈴木優磨のコメントである。苦手とするPKを成功させチームを勝利へと導いたものの、歯がゆい試合となったことは間違いない。

試合結果

鹿島アントラーズ 1 - 0 ジュビロ磐田

【得点】
〈鹿島〉
33' 鈴木
〈磐田〉
なし

【警告】
〈鹿島〉
名古
〈磐田〉
上原、レオ・ゴメス

スタメン

鹿島は先日の日本代表活動を辞退した佐野海舟がこの試合もベンチから外れた。代わって土居聖真が開幕節以来のスタメン復帰となり、佐野の代役としてボランチで起用されている。

一方、連敗から抜け出したい磐田は前節G大阪戦からスタメンを3枚変更。伊藤槙人、中村駿、山田大記がベンチからも外れ、U-23日本代表のCB鈴木海音、今季加入した長身FWマテウス・ペイショットが今季初スタメン。ボランチ上原力也の相方は開幕節以来レオ・ゴメスが務めることになった。

エースのメモリアル弾

試合序盤、鹿島はペースを握った。最初の大きな決定機となったアレクサンダル・チャヴリッチのシュート。元日本代表GK川島永嗣のストップに合うも、ワンタッチでテンポ良く繋ぎながらゴール前まで侵入するポポヴィッチの求めるサッカーを体現したシーンだった。植田直通の縦パスから始まった場面、濃野公人→名古新太郎→藤井智也→土居聖真→名古→濃野と繋がったが、濃野はサイドで受けて名古へ渡した後ライン間のハーフスペースに移動。受けた名古も藤井へ預けた後に相手LSB(松原后)とLCB(リカルド・グラッサ)の間に立ち位置をとる。土居の縦パスが名古へ渡ると、グラッサがつり出され今度は2CB(グラッサ、鈴木)の間が大きく空いた。ここに濃野が走ってペナルティエリア深い位置を取ることに成功。鈴木優磨とチャヴリッチ、2枚のアタッカーがボックスに入っていたが、濃野はマイナスにフリックしてチャヴリッチを選択。自分が受ける前に2度、濃野は鈴木とチャヴリッチのポジションを確認しており、鈴木が飛び込めば手前が空くことも折り込んでチャヴリッチへのヒールパスを選んだのだろう。

まさに守護神、早川友基。彼の活躍なしに勝ち点3はない

20分ごろからは磐田が少しずつ盛り返し始める。特に安西が高い位置を取る分、その背後にできるスペースを磐田は活用。また前線のペイショット、ジャーメイン良にロングボールを当てて、こぼれ球を拾ってシュートまで持っていくというシンプルな攻撃も見せた。上原の決定機をGK早川友基が見事に防ぐなど、鹿島ディフェンスは集中して磐田の攻撃を耐え忍んだ。

そして鹿島の先制点は33分に生まれた。コーナーキックから名古の蹴ったボールを関川郁万が折り返す。すると折り返したボールが競った松原の手に当たり主審はPKを宣告。PKを苦手と公言していた鈴木優磨だったが、川島との心理戦を制し見事ゴールネットを揺らすことに成功した。彼にとっては節目のJ1通算50得点である。

悩ましき右ウイング、対照的な左の鋭さと脅威

先制点を奪った鹿島は再びチャンスを迎えた。磐田が全体でハイプレスをかけて前に出てきたところを交わしていく。そして関川の浮き球パスをコントロールしたチャヴリッチがヒールでインナーラップした安西へ落とすと、一気に背後のスペースへ加速。中央で鈴木優磨、右サイドで藤井が並走。最終的に藤井へ渡りシュートまで持ち込みたかった場面だったが、うまくコントロールできず相手が寄せてきたことで中途半端なクロスとなってしまう。藤井は持ち前のスピードで相手をちぎることはできる一方で、クロスの質やシュートというところに難がある。

右サイドが悩ましいのとは対照的に、左サイドはチャヴリッチと安西でチャンスを演出した。先制点のコーナーキックに繋がったのはチャヴリッチの突破からだった。さらに45+1分には、植村、松本、鈴木と3人を交わしたチャヴリッチがクロスを上げると、こぼれたボールを土居が回収。後方から浮き球のパスを出すと、背後に抜け出した鈴木優磨にピタリと合う。そこに至るまでは一瞬の加速力で相手を置き去りにできるチャヴリッチをサイドで起用する魅力が詰まっていたシーンだった。

課題と収穫

ジャーメインと競る関川郁万

この試合は毎度のごとく早川が見せる驚異的なシュートストップ、守備陣の踏ん張りで無失点に抑えられた。しかし、11分のジャーメイン良、60分の松本、ヘディングで合わせたシュートシーンはどちらも、斜め前からのアーリークロスを入れられた時だ。それも関川と安西の間を狙っている。数的同数もしくはそれ以上ではあるものの、シュートを打たれてしまっている。特に関川は開幕戦からコンディションが上がっていないこともあるだろうが、相手を自分の前に入らせてしまったり、背後の選手に気づいていないことが目立つ。今後の試合でもこの斜めからのクロスは、相手も研究し鹿島のウィークポイントとして入れてくるだろう。ポポヴィッチ監督らコーチ陣がここを問題視しているのか、修正できるかは注目していきたい。

ボランチで起用された土居聖真

そしてこの試合、鹿島にとって触れないわけにはいかなかったのが、土居聖真と知念慶のボランチだ。佐野海舟の怪我により本職ではないボランチコンビが誕生したわけだが、経験豊富な2人はドタバタすることもなく卒なく仕事をこなしていた。ポポヴィッチ監督にとって今後のオプションがまた増えたことは収穫となったに違いない。

さて、開幕5試合を終えて3勝1分1敗の勝ち点10、4位という順位はここ数年と比較すれば良いスタートを切れたといえよう。しかし、勝利した相手と勝ち点を失った相手を見れば、失った相手(町田、C大阪)は首位と2位に位置する。今後対戦を控える現在無敗のG大阪と広島、昨季王者の神戸、過去2年勝てていない横浜FMといった相手には、現状だと苦しい戦いを強いられる可能性が高い。それでもチームが成熟していけば、スカッドは強力だからこそ相手を上回ることも十分可能だ。4月はアウェイゲームが多くなるが、粘り強く戦って勝ち点を積み上げていくことに期待したい。

text by 亀石弥都
photo by 鹿島アントラーズ公式X

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