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【アントラーズ定点観測】#5 呪縛からの解放。勝利こそが最大の栄養

国内最多のタイトルホルダーである鹿島アントラーズが国内タイトルと無縁になった過去7シーズン、代わってJリーグの盟主となったのが横浜Fマリノスであり、そして川崎フロンターレだった。その間、鹿島はリーグ戦で8年間、対川崎での勝利とも無縁になった。そんな近年の流れを汲んでいる新旧王者の対決ともいえた一戦。鹿島は長年の呪縛を解き放つことに成功した。

試合結果

鹿島アントラーズ 2 - 1 川崎フロンターレ

【得点】
〈鹿島〉
47' チャヴリッチ(←植田)、50' 鈴木
〈川崎F〉
36' マルシーニョ

【警告】
〈鹿島〉
パレジ
〈川崎F〉
ジェジエウ、マルシーニョ×2

スタメン

鹿島は知念慶と関川郁万が先発に復帰。過去2戦途中出場の名古新太郎が今季初先発に抜擢され鈴木優磨と2トップを形成。アレクサンダル・チャヴリッチは左サイドハーフで起用となった。

一方、3連敗を避けたい川崎はジェジエウが今季初先発となった以外に、前節京都サンガ戦から変更はない。

明確な戦い方を示した前半だったが

前半、ゲームの主導権を握ったのはホームの鹿島だった。特に2試合ぶりの先発起用となった右ウイングの藤井智也のスピードを活かした攻撃が目立った。相手のスペースを突いた攻撃や、藤井自身の突破から川崎のゴール前まで素早く攻める。また、川崎の右サイドバック橘田健人が攻撃時にボランチ化することから、相手からボールを奪った瞬間は鹿島の左サイドにはスペースがある。そこを左サイドバックの安西幸輝がうまく使ってクロスを上げるというのも、明らかに狙いを持って鹿島は戦っていた。
しかしながら、折り返しのクロスの質がイマイチだったり、味方と合わないこともあり、上福元直人を脅かすようなシュートを放つ場面は見られなかった。

対するアウェイチームは数少ないチャンスを仕留めてみせた。

川崎のゴールキックからのビルドアップに対して、鹿島は前から捕まえに行った。ところがジェジエウが鈴木優磨のプレスを剥がして前進した瞬間からマークがずれた。家長昭博が内側に絞って安西を引き寄せてできたスペースに、インサイドハーフの脇坂泰斗が橘田からボールを受けようと流れた。左センターバックの関川は捕まえに行く判断を迷ったのか、最終ラインより少し前に出てきていた。脇坂が前を向くと、関川が前に出てきた背後のスペース、植田と安西の門に家長が走り込み、そこにボールが供給された。1対1の場面でゴールキーパー早川友基も1度はストップするが、弾いたこぼれにマルシーニョが詰めて川崎が先制に成功した。

電光石火の逆転劇

4試合目にして初めて、後半最初のメンバー変更を行わなかった鹿島。ビハインドで折り返したものの、ポポヴィッチ監督の中で手応えがあったのかもしれない。

トップスピードに乗せるとチャヴリッチを止められる者はいない。開幕戦以来のゴールで試合の流れを変えてみせた。

チャヴリッチの同点弾は47分に生まれた。植田のロングフィードは鈴木を狙ったものだったが、鈴木、名古を越えてスプリントしていたチャヴリッチがボールを受けると圧倒的なスピードで抜け出し冷静にフィニッシュ。最終ラインからのパス1本で見事にカウンターを完結させた。
実はこの直前、鹿島は前半の失点シーン同様、川崎のビルドアップから脇坂がサイドに流れて起点を作り、マルシーニョに背後を取られ決定機を作られた。安西が家長についていったことで最後は事なきを得たものの危ないシーンだった。そして安西のクリアボールを植田が拾ったことで、鹿島に得点が生まれた。

そして勢いそのまま50分。安西が左サイドで運んでチャヴリッチがボールを受けるが奪われてしまう。ここで名古がすぐにプレスバックして、山本悠樹からボールを奪うことに成功。こぼれたボールをチャヴリッチが拾い、奪った名古はすぐに裏へと走りこむ。再び名古のもとへボールがわたると、左足で上げたクロスボールはやや外に回転がかかりクロスバーを直撃。これにはゴールキーパー上福元は反応できず、バーが弾いたボールに鈴木がプッシュ。鹿島サポーターの前でエースストライカーに待望の今季初ゴールが生まれた。

名古がスタメン定着へ?

昨年7月の広島戦以来のスタメンとなった名古。トップ下の序列では土居聖真、樋口雄太よりも上がってきそうだ。

チャヴリッチ、鈴木優磨と点を取ってほしい選手がゴールを決めた。鹿島らしく縦に速い攻撃から1点。そして守備の切り替えでボールを奪ってから1点。

逆転された川崎だったが、マルシーニョが2枚のイエローカードをもらってしまい万事休す。右サイドバック濃野公人は厄介な相手を戦いの舞台から引きずりおろすという仕事も見せてくれた。そして、得点とアシストはつかなかったが、名古の躍動はまた鹿島の激しい中盤のスタメン争いを盛り上げることになりそうだ。この試合でチーム最多の4本のシュートを放ち、守備でもピッチを駆け回り存在感を示した。今の調子でいけば、名古はトップ下のファーストチョイスになりそうだ。

鹿島アントラーズは、開幕戦以来の勝利。何より長年勝てなかった川崎フロンターレを下したことに意味がある。もちろん川崎は現在チームの過渡期であり、中村憲剛、守田英正、三笘薫らがいた頃とは違う。それでも負の歴史を断ち切ることに成功した事実は変わらない。

そしてこの試合が終わりインターナショナルマッチウィークに入った。チームとしてさらに熟成を高めることができる時間となる。次の磐田戦でチームの進化が見られるか楽しみなところだ。

text by 亀石 弥都
photo by 鹿島アントラーズ公式X

試合ハイライト

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