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【アントラーズ定点観測】#1 盟主返り咲きを目指して。2024年の期待と不安

2024年のJリーグがいよいよ開幕を迎える。
2月10日(土)、サンフレッチェ広島が新本拠地「エディオンピースウイング」のこけら落としとなるプレシーズンマッチを開催。2024年オープニングマッチとなる会場は私も早く足を運んでみたいところだ。
時同じくして茨城県では、毎年恒例の「いばらきサッカーフェスティバル」が開催。今年は県立カシマサッカースタジアムで、鹿島アントラーズ対水戸ホーリーホックのプレシーズンマッチが行われた。
昨年から鹿島を定点的に追うようになったが、遠ざかるタイトルの奪還と常勝軍団復活へ彼らの戦いを今年も引き続き追っていきたい。

ポポヴィッチ招聘は吉と出るか

岩政大樹前監督の退任は賛否両論だった。早すぎるという声もあれば、内容と結果からして当然という声もあった。サポーターからは、吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)らフロントの責任を問う声も噴出した。
岩政前監督は2022年、レネ・ヴァイラー氏が就任した際にトップチームのヘッドコーチを任された。ところが成績不振等の理由により、ヴァイラー氏は夏に解任。岩政前監督は火中の栗を拾わされる格好となった。

2022年は4位に終わって迎えた昨季。開幕節の京都サンガ戦は快勝したものの、途中5連敗を喫するなど開幕ダッシュに大きく躓いた。ハイプレス主体の守備、鈴木優磨を軸にしたシンプルな攻撃がうまくハマりだした6月以降は持ち直し、「優勝」の可能性もまだあった。しかし、戦い方の幅を広げるべく保持から組織的な崩しを試みるも、ピッチで選手が混乱し、かえって得点が取れない状況に陥ってしまった。
その結果、重要な横浜FM、神戸との試合に敗れ万事休す。シーズン5位、5季連続で無冠の責任を取り岩政前監督は事実上解任となった。

攻撃的なスタイルを標榜する新指揮官ポポヴィッチ

新監督に招聘されたのは、吉岡FDとの結び付きが強いランコ・ポポヴィッチ。かつて大分トリニータ、FC東京、セレッソ大阪、町田ゼルビアを率いた経験のある監督だ。ヴァイラー氏以来2人目の欧州出身監督となったポポヴィッチ監督だが、タイトルを獲得したことは一度もない。確かにクラブの課題である攻撃面の構築においては、彼の招聘でポジティブな変化は生まれるだろう。それでも優勝を目指すクラブが、かつて率いたJクラブの最高順位が8位の監督を呼ぶのはどうか。直近の町田での3シーズンも19位→5位→15位と安定していない。内容の改善だけではなく、結果も求められる鹿島アントラーズというクラブに彼が適任だったかはいずれ答えが出る。しかし、ファンはタイトル奪還を待ち望んでおり実績の乏しいポポヴィッチ招聘はリスクが大きいようにしか感じない。

期待大のチャヴリッチ

鹿島の戦力は決して優勝を狙えないほどライバルに劣っているわけではない。だが、昨季の鹿島を見て感じた課題は2つあった。

❶人を動かすセンターバック
❷鈴木優磨というエースを軸とした攻撃の形

特に根深い問題は❷だった。
鈴木優磨は典型的なストライカーではない。攻撃の起点となり、ピッチの広い範囲で顔を出しながらチャンスメイクして、最後にペナルティエリアに入っていく。鹿島は4-4-2を基本としたツートップを置いているが、鈴木の相棒となる垣田裕暉、知念慶はシーズン5ゴールにとどまった。最終節で師岡柊生が先発に抜擢され、2ゴールに絡む活躍で希望が見えたものの、ラインブレイクが得意なストライカーは是が非でも欲しかった。

新ストライカーのチャヴリッチ


そんな前線に加わった新戦力は、"チャッキー"ことアレクサンダル・チャヴリッチだ。このストライカーは今季得点を量産する可能性を秘めている。PSMでは背後への抜け出しや、ボックス内で仕留めるのがうまい、と一つの特徴が目立ったわけではない。足下で収めて起点となったり、持ち出した後のドリブルでの推進力など、非常に器用な選手なんだろうという印象を受けた。加えてトップ下を務めた土居聖真との補完関係もよく、しっかりチームにフィットできていそうだ。現在負傷離脱中の鈴木優磨と組んだ時にどうなるか非常に楽しみだ。

補強必須のセンターバック

もう一つの課題であった人を動かすセンターバック。経験豊富な昌子源が町田へと移籍したことによってそもそも頭数が少なくなり必要となる補強ポジションだった。だからこそ期待値の高かったヨシップ・チャルシッチがメディカルチェックで異常が見つかり契約破棄となったのは誤算だった。

クリーンシートでのPSM勝利に貢献した津久井

現在チームの本職センターバックは、植田直通、関川郁万、津久井圭祐の3人のみ。PSMでは関川が怪我で不在だったため津久井が先発に抜擢された。昌平高校から加入して2年目の19歳は巡ってきたチャンスでの起用に十分応えてみせたといえる。もともとビルドアップに定評がありアジリティも高いことから、純粋なフィジカル面で強くなれば関川とともに未来の鹿島のバックスを担うことになるだろう。今後の伸び代も含めて、シーズン中に何度かチャンスは与えられるだろうし、現にそうあってほしい。

しかし、やはりもう1枚センターバックは必要だ。植田と関川を脅かす実力をもった、(できれば左利きの)足下の技術に長けた人を動かすことができる選手。なかなか見つけるのは簡単ではないが、タイトル奪還を目指すには必要な補強だ。

タイトル奪還は至上命題

キャンプでは監督のやりたいこと、チームとしての攻守におけるコンセプトの理解を深められたという。PSMでも、昨季よりゴールへ向かう姿勢が強く見られた。味方とのワンツーでのダイレクトプレーが増え、より早くゴール前にボールを送り込む場面は明らかに増えている。
また、監督の奇策ともいえるアイデア、知念慶のボランチ起用については水戸戦では大きな穴にはならなかったが、守備面でのリスクが大きい。もちろん3列目からの飛び出しで相手守備を撹乱させ、得点チャンスの機会が増える予感もある。やはりリスクとリターンのバランスが適切かは冷静に見極めが必要となってくる。アジア杯の日本代表に選出された佐野海舟、新キャプテン柴崎岳といった選択肢が豊富な中盤の組み合わせパターンで、最適解を見出したいところだ。ただし、佐野に関しては今冬ドイツ方面からオファーがあったとみられ、夏に海外へのステップアップは濃厚だ。中盤のフィルター役である彼の抜ける穴を埋めることは決して簡単ではない。ポポヴィッチ監督は近い将来も見据えた戦い方を考えていく必要があるだろう。

鹿島のDNAは「勝利」だ。欲しいのはタイトル、ただそれだけだ。
2/23(金)の開幕節、同じオリジナル10である名古屋グランパスとのアウェイゲームから、タイトル奪還への道が始まる。

text by 亀石 弥都
photo by 鹿島アントラーズ公式X

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