【読書】源氏物語・紫の結び3(荻原規子訳)
2024年1月25日(木)、荻原規子訳『源氏物語・紫の結び3』を読了しました。感想文です。
■本書の範囲
『源氏物語・紫の結び』は、「源氏物語」54 帖から、「紫の上」との関わりを中心とした帖を抜粋して再構築した作品です。そのため、光源氏の生涯を手早く掴むことが出来ます。
簡単に振り返ると、『紫の結び1』では、源氏の君の誕生から、都落ちした須磨、明石での生活までが描かれました(感想文→リンク)。『紫の結び2』には、都に返り咲いた源氏の君が、栄達を重ねていく様子が描かれます(感想文→リンク)。
今回の『紫の結び3』では、女三の宮(光源氏の兄である朱雀帝の娘)の降嫁に始まる内部悲劇、そして、紫の上と源氏の君が亡くなるまでが描かれます。帖でいうと「若菜」以降で、「幻」「雲隠」にて光源氏の生涯は一旦の完結します。
■『源氏物語』の名場面
あらすじやネタバレをあまり記載しない方がよいのでしょうが、「若菜 上」の帖に『源氏物語』の名場面と思われるシーンがあります。以下、抜粋します。
猫が御簾を引いてしまったが故に、女三の宮の姿が顕になります。それを目に止めた柏木(頭中将の長男)が恋に落ちてしまう場面です。
この場面は、他の作品で取り上げられることも多いようです。例えば、私は絵画で見かけたり、邦楽(「新青柳」)で聞いたことがあります。そういうこともあって、私は非常に楽しみにして読みました。思ったより淡々と描かれているように感じました。
■女三の宮と柏木
こうして恋に落ちた柏木ですが、結果的に悲劇を招きます。女三の宮は意外にそっけなく、個人的には、柏木の恋の行方、光源氏を含めた関係など、ある意味悲喜劇のように感じる部分もありました。シェイクスピアのような感じも受けます。
また、「桐壺」に始まる第一部に比べ、「若菜」以降は筆致が変わるというか、登場人物達がより生き生きと動き出しているように感じました。例えば、柏木と親友である夕霧(光源氏と葵の上の息子)のやり取りなど、源氏の君と頭中将とのやり取りより、心情が細やかに描かれているように思うのです。
(更に後半である源氏の君亡き後の)宇治十帖は筆致が変わり、別の人が書いたようだと言われることもありますが、その辺りは宇治十帖に入ってから考えてみたいです。
■女三の宮の性格
さて、女三の宮についてですが、私はすごく面白い人物のように思いました。
身分としては朱雀帝の娘であり申し分ないのですが、性格としては、あどけなさが残る、子どもっぽい女性のように描かれています。こうした性格は、生まれ持ったものもあるのでしょうが、育ち方、ましては帝の娘であり、他の女人以上に社会とあまり接する機会が無いことも影響しているのだろうと思いました。
そして、上述した柏木や源氏の君へのそっけなさは、女三の宮の身分が高い故でもあり、幼さと現実主義的側面が同居し、間がスッポリと抜け落ちているようにも思います。(追記:この辺りは、幼さ故に現実主義的側面が表立って出てくるのか、議論の余地はありそうですが。)
宇治十帖にも登場する人物のようですので、今後もどのようになっていくのか、楽しみにしていきたいと思います。
読み始める時、女三の宮は、光源氏にとっての「ファム・ファタール(運命の女)」なのかなと思ったりしたのですが、少し違う気もします。柏木にとっては、「ファム・ファタール」で間違いないような気もしました。
■出家について
源氏の君の年齢が上がってきたこともあり、女人たちとの会話の中などで、「出家」について語る部分が出てきます。例えば、以下のような部分です。
もっとよい引用箇所もあるように思うのですが、取り敢えず載せてみました。再読する際にでも整理してみたい分野です。
以下のような記述もあります。
出家とは、嘆き悲しんだり、現実から逃れるために行うのではなく、発心(決意)から行うのでしょうか。出家に対する当時の人の捉え方や、紫式部の考え方が感じられるようです。
他方で、他の人と優劣を競ったり、世間の目を気にする部分もあり、こういった点は、紫式部の物語を作る上手さを感じさせます。
■最後に
荻原規子さんの現代語訳『源氏物語』も、残りは『宇治の結び(上・下)』と『つる花の結び(上・下)』となりました。また読み進めていきたいと思います。
本日は以上です。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
また、冒頭の写真は「猫」で検索し、*nao*さんの画像を使用させて頂きました。こちらもありがとうございました。
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