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egg(45)

 
第十九章
 
「ギャラ! ちょっと待って!」
キャンパスを走り回っていた岡田葵は、大学のバスターミナルからバスに乗り込もうとしていた西島秀樹ことギャラを捕まえて、タラップから力任せに引きずり出した。
「うわわ! 何するんだよ!」
よろけたギャラを葵ががしっと捕まえる。運転手が
「もう発車しますよ?」
と聞いてきたので、葵が
「はい、行ってください!」
と答えると、バスはたくさんの学生を乗せて出発してしまった。
がらんとして誰もいなくなったターミナルで、ギャラは葵の腕を振りほどき、ちょっと怒って言った。
「なんで降ろすんだよ? この時間はあと30分しないとバスが来ないのに!」
「だって……」
元気のない葵の声に気がついて、葵の顔を見たギャラは驚いた。葵の頬を涙が伝っていたからだ。
「え? どうしたの? なんで葵が泣いてるの?」
「ごめんよ、ギャラ……。ボクがあおったばっかりに、あんなことになっちゃって……」
大きなため息をついてギャラがベンチに葵を座らせる。自分も隣に腰かけながらギャラが言った。
「いいよ。ずっと告白できなかった俺がいけなかったんだ。それにしても、いきなりキスしたのはまずかったなあ……。高藤先輩どんな様子だった? きっとショック受けたよね? 次会ったときに、どんな顔したらいいか、わかんないや……」
冬の雲一つない青空を見上げてふうっと白い息を吐いたギャラに、葵が抱きついた。
「えっ!? あ、葵?」
ドギマギして固まっているギャラの首に両腕を回して、葵はギャラの首元に顔をうずめた。ギャラの体温を間近で感じて、走りっぱなしで飛び跳ねていた心臓が、ますます激しい音を立てる。
「好き……」
蚊の鳴くような声で葵が告白した。ギャラがはっとする。葵は顔を上げてギャラの顔を真正面から見た。
「ボクを選んで、ギャラ」
葵がギャラの唇に自分の唇を重ねる。ギャラの腕が葵を抱きしめ、二人はじっと動かなくなった。

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