オカキ

あまやどり出版から自著出版中。https://note.com/amayadori_s…

オカキ

あまやどり出版から自著出版中。https://note.com/amayadori_syupan/ 編集者。書家。VR/AR/AI大好き。自分出版社協同組合。https://note.com/jibunsyuppan/ VRC&Cluster&Resonite→okaki5959

マガジン

  • 『イコール』大人倶楽部

    『イコール』大人倶楽部 『イコール』を使って、新しい社会の仕組みやビジネスモデルを考えたい人の集まりです。『イコール』の刊行をご支援していただける方の参加をお待ちしています。 ◇毎月1回の橘川幸夫を囲んでのリアル会合にご招待します。 ◇会費は月額1万円になります。お申し込みはNoteの『イコール』大人倶楽部マガジンを登録してください。 ◇リアル会合の参加費は、会費に含まれています。会場は、神宮前のシェアラウンジで行います。す。

  • 小説『egg』執筆中

    2作目になる小説『egg』を執筆中です。三部構成なのですが、ようやく第一・二部完結。第一部は1964年の夫婦関係を、第二部は夫婦の長男が中2になったときの家族の在り方を書きました。第三部ではこの家族の娘が主人公。1992年のバブルが崩壊した日本で就活をする大学4年生の目から見た家族との関係性を書いています。

  • あまやどり出版 新刊のご案内

    • 14本

    あまやどり出版から出版されている本をまとめて見られるマガジンです。 最新刊が気になる方はこちらをフォローよろしくお願いします。

  • 「自分出版社協同組合」新刊のご紹介

    • 21本

    「自分出版社協同組合」から発行された新しい本の紹介をしています。

  • 深呼吸する言葉(2020-2023深呼吸学部)

    • 132本

    2020-2023深呼吸学部の塾生の深呼吸する言葉の部屋です。

最近の記事

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第三十六章(最終話) 「ただいま……」 川上直樹が運転する車に送られて、高藤隆治とその妻の恵美、そして隆治の母のいちが自宅に戻ってきた。 鍵を開けて中に入ると、家の中はしんとしている。 隆治は不審げに呟いた。 「なんだ、あんなに大騒ぎしたっていうのに。哲治はもう帰ったのか」 恵美もきょろきょろと部屋を見回す。 「由美と話はできたのかしら? ちょっと様子を見てきますね」 突然、二階に上がった恵美が「きゃあああ!」と悲鳴を上げた。隆治といちは慌てて上に向かう。 「恵美、ど

    • egg(61)

      第三十五章 部屋の中にいる妹の高藤由美が泣きじゃくる声を聞きながら、あたしこと哲治は温かい気持ちになっていた。 「気が済むまで、泣くといいよ」 とびらの向こうにいる由美にあたしは優しい声で話しかけた。 「ずっと付き合うから」 1時間も経った頃、ようやく由美が泣き止んだ。 「ありがとう……。もう平気」 かすれた声で話す由美に、あたしは言った。 「あたしがここを逃げ出したあとも、由美はずっとずっとあの人たちのわがままに振り回されてきたんだね。本当にお疲れ様」 ぐすんと

      • egg(60)

        第三十四章 「どうして髪切ったの?  たしか3歳から伸ばしてなかったっけ?」 ドアの向こうにいるお兄ちゃんの高藤哲治に聞かれて、わたしこと由美は、喉に大きなビー玉がつかえたようになった。 決壊しそうな涙腺に負けないように、眼球をぐいと押さえて大きく息を吐く。 くだらない本音なんて、言っちゃダメ!  お父さんとお母さんを悲しませてはダメ! 由美はいい子! いい子なのよ! お父さんとお母さんを愛してないの? 一瞬でも裏切ったら、 「お前が」愛してもらえなくなるのよ

        • egg(59)

          第三十三章 トントントン。 ゴホンと咳払いをして、あたしこと高藤哲治は妹の由美の部屋の扉をノックした。そしてドキドキしながら扉の向こうの由美に声をかけた。 「こんにちは! ……お久しぶりです。 兄の哲治なんだけど……。 ええと、由美?  ……今何してる?  うーんと…… 話せたりしないかな?」 わたしこと由美は扉の前に駆け寄って、お兄ちゃんに返事をした。 「うん、大丈夫……。 ……久しぶりだね、お兄ちゃん」 由美の声が聞こえたので、あたしはほっとして廊下に座り

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        • 小説『抹茶ミルク』脱稿版
          17本

        記事

          egg(58)

          第三十二章 「お父さんなんて嫌い。大っ嫌い」 暗闇の中で、わたしこと高藤由美は布団をかぶって不貞腐れていた。 昨晩、部屋でバレエをしていたら、外から帰宅したらしいお父さんが乱暴にドアを叩いて、いきなりわたしを叱りつけたのだ。 「おい、何時だと思ってるんだ! 真夜中に2階でドタバタ踊るやつがどこにいる? そんなに踊りたいならまたバレエを習わせてやるから、その部屋から出て来なさい! お母さんもノイローゼ寸前だ! かわいそうだと思わないのか!?」 わたしは流れる汗をタオ

          egg(57)

          第三十一章 「てっ……哲治なのか!?」 高藤隆治は真っ青になって叫んだ。分厚く塗られたマスカラや真っ赤な口紅に目を奪われてしまっていたが、たしかによく見ると、目の前にいる女は十二年前に家出した息子の哲治だった。 「だがっ! なぜ女の格好なんて! それに、そっ……それはっ!!」 と、隆治は哲治のはちきれんばかりの巨乳を指さした。 哲治がラメ入りの黒いマニキュアを塗った長い爪で自分の豊かな乳房を指し、ハスキーな女性らしい声で答えた。 「これ? シリコンを入れたのよ」 「し

          egg(56)

          第三十章 「由美は部屋から出てきたのかい?」 高藤隆治の実母のいちがいつものおっとりとした口調で尋ねると、隆治は首を横に振った。 「いや、まだなんだ。僕たちの話はまったく聞いてくれなくて……」 キッチンで号泣している妻の恵美の声が玄関まで聞こえてくる。いちが気の毒そうにそちらを見やり、隆治に言った。 「今日はねえ、由美にどうしても会わせたい人たちを連れて来たのよお。ねえ、あなたたち、こちらにいらっしゃいな」 門の向こうに声をかけると、3人の男性と1人の女性が顔を出した

          egg(55)

          第二十九章 十二月二十八日。娘の高藤由美が自分の部屋に閉じこもって、一週間になった。年末で仕事納めをした夫の隆治と妻の恵美は、キッチンで昼食を食べ終わりお茶をすすって一服していた。 「今日はバレエをしないわね」 と、天井を見ながら恵美が呟いた。ここ一週間、キッチンの真上の部屋にいる由美は、気が向くとバレエをしているようで、軽やかなステップの音が天井から時折響いてきたのだ。だが、今日は朝から一度もそんな音さえ聞こえてこなかった。 「何をやっているんだろうな。いい加減、出

          egg(54)

          第二十八章 部屋に閉じこもって、もう何日になるんだろう。 そもそもはわたしこと高藤由美の部屋を、お母さんが勝手に漁って、しまっておいた通帳を無断で見たことがきっかけだった。学習机の引き出しの奥にあるファイルに通帳を忍ばせておいたのに、どうしてお母さんはありかがわかったんだろう? ひょっとして、こっそりつけていた日記も、中学時代にもらった初めてのラブレターも、片思いしていた男の子の写真も、何もかも当たり前のように見られてきたのではないかと思うと、恥ずかしさと怒りで頬

          egg(53)

          第二十七章 早朝からホームセンターでバールを買ってきた高藤隆治は、娘の由美が閉じこもる部屋の前に立った。隣では妻の恵美が寄り添うように立っている。隆治は自分に言い聞かせるように、恵美に言った。 「よし、やるぞ」 ドアの隙間にバールを差し込み、ぐいっと力を入れた。板で打ち付けられてびくともしなかった扉が、てこの原理でギギギギギ……と大きな音を立ててきしみ始めた。 ガキッ、ガガガキッと、ドアに打ち付けられた釘が外れる音がする。もう少しだ、と思った瞬間、部屋から怒鳴り声が聞

          egg(52)

          第二十六章 2か月ぶりに自宅に戻った高藤隆治は、真っ青な顔をした妻の恵美にしがみつかれた。 「ああ、よかった! あなたが帰ってきてくれて!」 「由美はどうなった?」 「それが……部屋に閉じこもったまま、もう3日になるの……」 クリスマスイブだからと買ってきた、3人分のケーキを恵美に手渡した隆治は、コートを脱ぐと、早速2階に上がり、娘の由美の部屋のドアをノックした。 「由美、お父さんだ。クリスマスケーキを買ってきたよ。一緒に食べないか?」 しかし部屋からは物音ひとつ聞こ

          egg(51)

          第二十五章 ガチャガチャ。ガチャガチャ。 夫の隆治にお金を渡して、意気揚々と戻ってきた高藤恵美は、ドアノブを何度かひねって、首をかしげた。 「開かないわねえ……」 娘の由美の部屋に鍵はついていない。ノブをひねって押せば開くドアだから、開き方を間違えているわけではない。それに由美がいつも履いている靴が玄関にあるから、本人は部屋にいるはずだ。 ―ドアが故障したのかしら?― コンコン! とドアをノックして恵美が声をかける。 「由美、ただいま。今帰ったわよ。ドアを開けてちょう

          egg(50)

          第二十四章 高藤恵美は娘の由美がこつこつ貯めてきた100万円の入った封筒を、ドトールの小さな机の上で夫の隆治に手渡した。 「はい、これ」 隆治はうやうやしく封筒を手に取った。 「本当に申し訳ない! これですべて終わらせられるよ!」 ふうっと大きなため息をついて恵美が言った。 「この前も話したけど、このお金は由美が貯金したものなのよ。戻ったら、ちゃんとお礼をしてくださいね」 「わかってる、わかってるよ……。本当にお前たちには迷惑をかけてばっかりで……」 隆治はこらえきれ

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          第二十三章 「おろしてもらうことになったのよ」 コンビニから深夜に帰宅したわたしこと高藤由美に、お母さんの恵美が顔を輝かせて報告してきた。 「おろす? お金を?」 言っていることがよくわからなくて、わたしが首をかしげると、お母さんは少女のように首をぶんぶんと横に振ると、勢いよく私の両手を取った。 「そうじゃないの! あの女とお父さんが別れることになってね、中絶することになったのよお!!」 びっくりしているわたしの肩をゆさゆさ揺すってお母さんが続ける。 「退院するまでは

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          第二十二章 12月21日になった。わたしこと高藤由美は、大学が冬休みに入ったので、一日中町田駅の近くにあるコンビニでバイトをする毎日を過ごしていた。 「高藤さん、急で悪いんだけど、今日も夜10時まで延長してもらえないかな?」 と、店長が聞いてきた。 「はい、大丈夫です」 とわたしが答えると、店長がほっとした顔をした。 「ありがとう、助かるよ!! 大山さんところ、お子さんが熱を出しちゃって、ご主人が帰ってこないと家から出られなくなったみたいでさ」 「小さい子って大変なん

          egg(47)

          第二十一章 「おかえり」 わたしこと高藤由美は袖で涙を拭うと、慌ててソファに座りなおした。 「ただいま。はー、今日も疲れたわ」 化粧と香水の匂いを漂わせて、お母さんが帰ってきた。 「今日は何を買ってきたの?」 わたしはげんなりして、お母さんの両腕にかかっている重たそうなスーパーの袋を見た。 「これ全部りんごよ」 と言って、お母さんが袋の中から赤くてつやつやしたりんごを次から次へと取り出した。わたしはびっくりして聞く。 「量多すぎじゃない? 何個あるの?」 「うーんと、