【Disney +】「アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実」 モルモン教の「宗教2世」問題
<概要>
事実をもとにした7話連続ドラマ。
1980年代のアメリカ・ユタ州。モルモン教徒の多い土地で、信徒の妻と娘が惨殺される。
夫は、「ユタ州のケネディ家」と呼ばれるモルモン信徒の名家、ラファティ家の一員である。
夫は犯行を否定するが、信仰問題が事件の背景にあることを暗示する。
この現代の殺人事件の捜査と並行して、ジョセフ・スミスに始まる19世紀からのモルモン教の歴史を再現したドラマが挿入される。
事件を捜査する刑事も、敬虔なモルモン教徒。事件を探り、モルモン教の暗部を知るうちに、自らの信仰が揺らぎはじめるのを感じる・・
<評価>
今観るべきドラマ
ディスニープラスのお試しサブスクで、私の好きなサム・ワーシントンが出ているので見始めた。
ディズニープラスなんて、アニメと馬鹿みたいなアメコミ・ヒーローものばかりだろう、と思っていたが、こんな野心的なドラマも作っているんだな、と驚いた。
面白い、とか、楽しい、とかいうドラマではない。
新興宗教の「信仰の悩み」をテーマにした、ひたすら深刻なドラマだ。
でも、見応えがあり、時節柄、考えさせられることが多い。観るなら今、といえるドラマだ。
一般大衆向けに作られているから、決して難しいドラマではない。
でも、「信仰の悩み」なんて普通の日本人は悩まない。いまどきアメリカ人の大半もそうだろう。
「レーマン人」とか「神権」とか、独特の宗教用語が飛び交う。
描かれているのが、普段の世界とあまりに異質なので、その意味で「難解」なドラマである。
登場人物のほぼ全員が、モルモン教という特異な世界観の中で生きている。多くの視聴者にとって、自己同一化できる登場人物が発見できない難しさがあるだろう。
モルモン教と創価学会
うちの近所のキリスト教会の掲示板には、
「(当教会は)エホバの証人、モルモン教、統一協会とは関係ありません」
と書いてある。
正統派キリスト教からは異端とされているモルモン教だが、ご承知の通り、アメリカでは一大勢力だ。
日本でいえば創価学会ーーというと、モルモン教と創価学会の両方から怒られるだろうか。
両者は、「成功した新興宗教」の日米の代表格だ。
創価学会も、1970年代までは強引な勧誘や、盗聴事件や出版妨害事件を起こして、社会問題になっていた。
しかし、1980年代、メディア工作に成功し、自民党と結んで与党に成り上がる。
モルモン教も、教義が人種差別的、女性差別的だといった批判を乗り越え、1980年代を境に、「現代的」に生まれ変わろうとした。
その時代を背景にして、変化についていけない、保守的なモルモン教徒「2世」たちの葛藤を描いたのが、本ドラマと言える。
「原理主義」への回帰
具体的には、教団内の進歩的改革に反対する彼らは、昔の一夫多妻制に回帰した「原理主義派」に惹かれていく。
ということで、このドラマは、Netflixのモルモン教原理派のドキュメンタリー「キープ・スイート」にもつながっている。
惨殺された女性は、教団内で「男女平等」を進めようとしていた改革派だった。
「考える」ことに慣れていない人たち
このドラマに「悪人」は出てこない。
それどころか、俗人である我々一般人よりはるかに真面目な「善人」たちである。
酒、タバコをやらないのはもちろん、低俗な大衆文化とは縁がない。高い道徳的基準で、神の意思にかなう生き方をしようと努力している人たちだ。
「俗世間は間違っている」というのが前提なので、社会と衝突しても仕方ないと思っている。悪いのは社会である。そして衝突は、神が与える試練だと感じる。
しかし、小さい頃から宗教の秩序の中で生きているので、「自分の頭で考える」ことを禁じられて育っている。
その結果、このドラマのようなことが起きる。
「善人」ばかりの共同体で、なぜこのような惨劇が起こるのか。倫理学や教育学の根本を考えるのに、良いドラマだと思う。
そして、こうした宗教団体が「変わる」ことがいかに難しいか、現今の統一教会問題にも参考になる教訓がある。
それにしても、日本で創価学会や統一教会を舞台にしたドラマが作られるかというと、難しいだろう。
オウム真理教をテーマにした小説は私が書いているので、原作にしてほしい。
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