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【YouTube】出演者はすべてゲイ? 伝説的映画「サロメ」新編集版が好評



サイレント期の伝説的映画で、フェミニズム史上のメルクマールとされる1922年の「サロメ」の新編集版が今月、YouTubeにアップされた。

1週間で視聴回数約5万回と好評だ。


<本編>
Salomé (1922) Nazimova -- Dance of the Seven Veils - Richard Strauss(Gilda Tabarez 2024/5/5)


「サロメ」について


イエスに洗礼を授けたヨハネの首を求めた女ーー新約聖書に記された「サロメ」の逸話は、古来多くの芸術作品の主題になってきた。

「マタイによる福音書」での記述は以下のとおり。

さてヘロデの誕生日の祝に、ヘロデヤの娘がその席上で舞をまい、ヘロデを喜ばせたので、彼女の願うものは、なんでも与えようと、彼は誓って約束までした。すると彼女は母にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。(マタイ 14:1-12)


聖書には「ヘロデヤの娘」としかないが、歴史書に「サロメ」の名が記され、実在した人物とされる。


短い聖書の記述から、オスカー・ワイルドは想像力によって「サロメ」の物語をふくらませて、1891年に戯曲として出版。フランス語で書かれ、すぐ各国の翻訳版が出版された。

その背徳的な内容のため、イギリスでは1930年代まで上演禁止となった。


だが、ドイツでリヒャルト・シュトラウスのオペラ(1905年)になって大成功したほか、イタリアやアメリカ、また日本でも戦前から上演、映画化されている。

この1922年のサイレント映画「サロメ」もその1つ。

日本では戦後、三島由紀夫の演出により1960年に上演され(サロメは岸田今日子)、三島の自決の翌年(1971年)、追悼再上演された。


この映画のあらすじ


紀元50年ごろ、古代イェルサレムのヘロデ王の宮殿。

好色なヘロデ王は、王妃の娘、16歳のサロメに色目をつかう。

ヘロデ王はサロメに、自分のために踊ってみせたら、なんでも望みをかなえてやると約束する。

そこでサロメは官能的な「7つのベールの踊り」を踊り、そのあとヘロデ王に要求をつきつける。

捕らえられて宮殿の牢獄にいる預言者ヨハナーン(洗礼者ヨハネ)の首がほしい、と。

サロメは、ヨハナーンに恋心をいだいていたが、無視されて、傷ついていたのだ。

預言者を殺すことを恐れるヘロデ王だが、サロメに責められて、ヨハナーンの首を切る。

その生首にキスをするサロメを見て、ヘロデ王は恐怖を感じ、「あの女を殺せ」と叫ぶ。


アメリカ初の芸術映画


この1922年の「サロメ」は、サイレント期最大の女優といわれるアラ・ナジモヴァが、製作・監督・主演したもので、「アメリカ最初の芸術映画」とされる。(当時ナジモヴァの夫だったチャールズ・ブライアントと共同監督)


原作者の同性愛者オスカー・ワイルドに捧げる目的で、この映画の出演者はすべて同性愛者だという「伝説」があった。

「すべて」は大げさだが、主演のアラ・ナジモヴァと、美術を担当したナターシャ・ランボーヴァはレズビアンの関係とされ、ほかにも、映像のなかでゲイないし「ドラッグ」的な登場人物が見て取れる。

(参考:Wikipedia「Salome (1922 film)」)


衣装・美術は、「サロメ」英訳本のオードリー・ビアズリーの挿絵の世界を再現している。極度にスタイリッシュで、全体として異世界的、異教的な雰囲気を、みごとに作り出している。


オードリー・ビアズリー「サロメ」


公開時は批評的にも興行的にも失敗したが、のちに再評価されて「カルトクラシック」になる。1989年にゲイ・フェスティバルで復活上映されたあと、2000年、アメリカ議会図書館への永久保存が決まった。


伊奈学園の名演が使われている


このYouTube版「サロメ」は、サイレント映画研究家のギルダ・タバレスが、オリジナルの76分を約30分に編集したもの。

サロメがヨハナーンを誘惑し、拒絶される前半をカット。クライマックスにあたる「7つのベールの踊り」から最後までのシーンに、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」の音楽を当てている。

演奏は、前半はカール・ベーム指揮ウィーンフィル、後半は伊奈学園吹奏楽部の森田一浩編曲版が使われている。埼玉県立伊奈学園総合高等学校の吹奏楽部は、吹奏楽コンクールの超強豪として知られる。


白黒だけど、100年以上前のものとは思えないハイセンス。30分と、短い編集版だから、飽きることなく見られました。

とくに、動画17分あたりの夢幻的イメージがすばらしい。



なお、伊奈学園吹奏楽部の同曲の見事な演奏は、以下の動画でも見ることができます。



<参考>


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