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『家計簿』と一緒に、この家事帳はぜひとも主婦の机上にはなくてならないものです

 NHKの朝ドラ「虎に翼」、4月30日(火)の放送では、母・はるが30年間つけ続けてきた日記が決定打となって、贈収賄の疑いで逮捕されている父・直言の冤罪の可能性が浮き彫りに。画面でアップになった日記は、羽仁もと子が1907年に創案した『主婦日記』とそっくり・・・!? その日の献立や家族の様子をこまめに記録した主婦の日記をあなどるなかれ。婦人之友社から今も100年を超えて発刊しつづけている『主婦日記』や『家計簿』の記録が家族を救った話は数えきれないほどあります。
 現在、『主婦日記』は『Diary for simple life』の名称で販売しています。働く女性が多くなった現在でも、この『Diary for simple life』が愛用され続ける秘密は、記録を書くと同時に、明日の予定を立てて家事を上手に運営していくための「家事ノート」だからです。

『Diary for simple life』の2024年版の表紙絵は安原ちひろさん

 羽仁もと子著作集『家事家計篇』の中から、『家計簿』と『主婦日記』について書かれた文章を紹介します。1927年(昭和2年)の文章です。

家事整理の根本
 第一に家計に予算が必要であったとおなじに、家事には予定が根本のものです。家計予算が一年を見わたしてつくられなくてはならないものである通りに、家事の予定も、まず今年一年の予定をきめて、その中うちで一月はどういうことをする、二月三月にはまたどういうことがあるということになり、その中うちでまた一週間の日割りが必要になる、一日の生活の予定がたつということになるのです。そして家計予算と、家事の予定が相合あいがっして、私たちの家庭の事務的方面の生活が、はじめて健全なもの楽しいものになるのです。

 例をひいていえば、寒くなりそうだ、それ大変だといって、あわせをつくり羽織を縫うこと、それがすなわち家事の不整理不経済のもとなのですから、家計に一家の衣服費を見積もったのと同じことに、家事のほうでは、一家一年中の服装に関する労力を予定して、夏のはじめに着るものはいつまでにそろえること、秋のはじめに着るものはまたいつまでということを、ちゃんと家事帳に書いておいて、それにしたがって月々また日々の仕事をしていかなくてはならないのでございます。

 家計に娯楽費があったとおりに、家事のほうでも、今年の夏は一度海辺にいく、秋には山登りをする。子供の誕生日は何月と何月にあるから、その月の娯楽日にその日をあてることにしよう。そうすると食費と娯楽費からその費用がでる。また家計の娯楽費のうちから、以上の費用を引いてみて、音楽会などの切符を買われる費用はどれだけあるということも分かります。

 家計予算に交際費があれば、それをどういうふうに使っていくかの内容は、家事予定で考えなくてはなりません。月に一度友だちをよぶことができる費用が見積もってあるとすると、その日をいつにしようということは、この月はじめには縫いものが忙しい、中ごろには大きい散歩がある、それでは月末の何日にしようということになるわけです。

 こういうふうによく考えられた予定のない家事は、家計でいえば帳面づけをしない支払いと同じことになります。私の『家計簿』によって、費目分けのよい記帳をしていれば、それがちょうど自分の家計の指導者ともなり相談相手ともなって、自分の経済のやり方の偏かたよりや下手なところを一々さし示してくれるように、できるだけ考えて予定をつくり、それを家事帳に書いておけば、そうしてそのとおりに実行していけば、去年よりは今年、先月よりは今月と、目にみえて家事の繰りまわしが上手になっていきます。よい家事帳は私たちの家事の指導者です。

 家事には、一年の予定、一と月の予定、一週間の予定がある上に、日々の生活の予定をしなくてはなりません。それは一日の献立でも、朝の食事がすんでから、昼のおかずを何にしようと思い、昼の食事がすんでから、晩のおかずを何にしようと考えるやり方では、一家の主婦は、一日一ぱいそのことにかかっているようなわけになるのです。で毎晩『家計簿』をつけたあとの仕事として、残りもののあるなしもしらべて、あすの献立を考え、その買い物をしらべ、またそれをちゃんと家事帳にしるしておきます。時に思うような魚がなかったから、そのかわりに肉をとったというような変更はあるにしても、こうして前晩に、家事帳に書いておけば、その十分十五分の時間は、どんなに翌日の主婦の心をかるくし、また家事を規律よくすすめていくことになるかしれません。献立のことばかりではなく、それについての買い物ばかりでなく、すべて前晩に翌日のことを考えて、買い物でもどこに使いを出すということでも、なんのことを誰にたのむということでも、その日にしなくてはならない用事を、家事帳にしるしておけば、日に何度使いに出たり出したりすることもなく、あのことも忘れたこのことも忘れたと思って、ほど経てから後悔するようなこともないのです。

『家計簿』と一緒に、この家事帳はぜひとも主婦の机上にはなくてならないものです。それで私は『家計簿』を出版した数年ののち、『主婦日記』と名づけて、以上の予定事項が一と月分も一週間分も一日分も一目でわかるように、また苦なしに書き入れられる帳面をつくって出版しました。そうしてこの帳面が多くの方のご便利になっていることを感謝しています。なおこの『主婦日記』には、家計予算と同時につくってある、衣服費の内容、家具費の内容、交際費の内容を書きこんでおく欄や、いろいろな消耗品の統計、主婦の時間割、家人一年間の健康、その他の書き込み表がついております。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第4章 家事整理の根本(一)仕事の予定より抜粋

 朝ドラと言えば、2001年放映の「ちゅらさん」をNHK+で懐かしく見ていたのですが、この中でも田中好子さん演じるヒロインの母・勝子が家計簿を几帳面につけていました。ドラマの一場面とはいえ、一家を切り盛りする女性を象徴する家計簿と主婦の日記の存在感の大きさに驚きます。

『Diary for simple life』について詳しくはこちら 👇👇👇



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