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AppleのMRヘッドセット「Vision Pro」にまつわる謎に関しての解説と考察

Appleが昨日のWWDCでMRデバイス「Vision Pro」を発表しました。

ハードウェアの設計やインタラクション方式の選定などで結構思い切った判断がされていたり、来年末までの発売なのになぜこのタイミングでの発表だったのかなど謎も多い今回の発表。

5年間AR/VR領域のスタートアップを経営してきた自分がそうした選択や謎について勝手な解釈や考察をしてみました。

インタラクションについて

思い切ってコントローラーをなくしてハンドジェスチャー、視線操作、ボイスインターフェースだけに絞ったのは、これからのXRインタラクションのスタンダードを作るという強い気概を感じます。

なぜならコントローラーがあった方が短期的には操作の快適度合いが高いから。

ただし、過去に自分が以下noteでまとめているように、XRのインタラクションは「ジェスチャー」「声」「受動」の3つの組み合わせに収斂するはずなので、その先陣を切る今回の意思決定は素直に素晴らしいと思います。


「空間コンピューティング」というラベリング

AR, VRなどの用語を用いず、Spatial Computingという言葉を意識して使っていたのは、ARやVRなどの区分は本来的には存在せず、現実/バーチャルの比率をユーザーがシームレスに切り替えていくべきものとの思想が強く感じられます。

また、AR/VRなどの用語を用いると、メタバースを推進するMetaの間接的なPRになってしまったり、Metaが目指す異なる世界観との混同を避けたいという狙いもあったのでしょう。

XRの世界最大のカンファレンスAWEでは4~5年前からXRではなくSpatial Computingがキーワードになっており、自分もSpatial Computingという考え方でAR/VRには向き合っていました。


外側に装着者の目元を表示するEyeSight

Vision ProはHMDの内側にカメラを備え、HMDの外側にディスプレイが埋め込まれており、これによって装着者の目元を周りの人に見せることができます。

これは、空間コンピューティングデバイスはあくまで物理世界とデジタル世界、人と人を断絶するものではなく、むしろ人と人とのつながりは壊さずにいかに物理世界とデジタル世界を近づけられるかがAppleのテーマなのだと感じます。

そして、それを今回のVision Proのような「明らかにこれ着けたまま人に向き合って話さないだろ」というレベル感で出してきたことにAppleの、というよりはTim Cookの後述の理由につながらこの領域への本気と焦りを感じます。


早すぎる発表のタイミング

今回発表されたVision Proの発売タイミングは"来年末"までのどこかだという。不自然に早すぎる発表なのです。

これはCEOのTim Cookの任期と関係が大きいと考えています。Tim Cookの任期は2025年前後と言われており、彼は「Appleの未来にARは極めて重要」「自分の退任までに主要製品カテゴリをもう1つ追加したい」とメディアに語っています。

この早すぎる発表は上記のTim Cookによってのタイムリミットを意識して、早めに世の中に発表したかったという側面が大きいのではないでしょうか。

(消費者に貯金を促すためだという半分冗談のような意見もあるが、Appleは過去にも100万円前後のディスプレイやデスクトップPCを突然発表しているのでそれはない)

また、このMRヘッドセット開発はApple社内でも反対派が多くいるとのことなので、一度対外的に発表してしまい、情報統制的にも外からのプレッシャー的にも社内推進をしやすくする意図もあるのではないでしょうか。


Vision Proの初期ユースケース

一方で、Appleが現状のAR/VRでメインのユースケースの3Dシーンや3Dオブジェクトの閲覧/操作ではなく、あくまで2Dスクリーンを巨大かつ複数表示できるというユースケースを推してきたのは予想通りでした。

以下ツイートで予想していたように、Vision Proの初期ユースケースは動画版「Airpods」であり、TV、ディスプレイ、プロジェクターのジョブの代替。そう考えると、それらに払ってる金額のトータルが参考価格となってきます。


高すぎる?価格設定

日本円で50~60万程度の今回の価格帯は日本から高すぎるという意見がよく上がっています。

しかし、円安・デフレの日本から見れば高いですが、物価高の米国や欧州から見ればもちろん高いものの日本ほど高価格帯としては捉えられていません。

また、今回発表されたWWDCはあくまで「開発者向け会議」であり、一般の人を広く対象に売ろうとはそもそも思っていないでしょう。

まずは上述のようにデベロッパーやクリエイターがモニター的に使う用途で買ってもらいつつ、様々な企業やデベロッパーが3Dデータの表示やインタラクションも含めた「空間コンピューティングネイティブ」なアプリを開発していく中で、徐々に軽量・安価な次世代モデルを市場に出していってマスアダプションを狙うという算段なのだと思います。

日本企業はいまから取り組むべき?

ではそうしたすぐには消費者市場に浸透しないであろうVision Proに日本の企業はどのように向き合うべきなのでしょうか?

個人的な意見としては、企業レベルであれば数台購入して社内利用を進めるべきだと考えます。

以下でデザイナーのGo Andoさんがツイートされているように、今回のVisiron Proはハードウェア的にもソフトウェア的にもAppleの集大成的なプロダクトであり、Appleとしては未来のユーザーインターフェイスはこうあるべきという強い意志が込められたプロダクトなので、企業としてしっかりと体験すべき代物であると考えます。

また、初期は一部のユーザーしか使わないプロダクトですが、ゆくゆくはいまのiPhoneと同じレイヤーのインターフェイスとなることをAppleやMetaなどの巨大テックが目指していることを考えると、企業としてはVision Proを活用した実験的・先進的なプロジェクトを進めて、先行して知見を貯めておくことが非常に重要になります。

Vision Proにつながる空間コンピューティングプロジェクトに興味がある方は

こうしたVision Proにつながる空間コンピューティングのプロジェクトに興味のある方は、ぜひ自分が代表を努めていたMESONにご相談頂けますと幸いです。

5年以上前から空間コンピューティングの可能性に注目して、技術やユースケースなどの知見を蓄積していきている会社ですので、きっと皆さんが空間コンピューティングに取り組む際の良きパートナーになれるかと思います。

様々な職種でMESONを手伝ってくれる人材も募集しています。


以上、勝手な考察と解説でした。

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