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成都と”家族”

中国人の表姐(いとこ)が結婚した。
2024年1月2日、私と旦那は結婚式に参加すべくクロアチアの家から48時間かけて成都へ向かった。

その長い道のりはたしかに疲れたが、成都天府空港まで迎えに来てくれた叔母と母の顔を見たとき、直後すぐに食べに向かった四川名物の串串を目の前にしたとき、とても安心感と幸福感で満ち溢れた。「ただいま」という感情も同時に込み上げてきた。約5年ぶりの成都だ。

微辣にしてもらったが辛かった
辛い串串と一緒に食べる甘いスイーツ”冰粉”。こちらも成都名物

成都に到着して2日後に結婚式があった。

結婚式の朝、早速わたしたちは中国の結婚式における美しい文化に触れた。
”敬茶”と呼ばれるものだ。
華やかなメイクと髪型を施し白いドレスを身に纏う花嫁・表姐と、堂々と立つ凛々しい花婿。
2人は座っている両家の親に向かい合って並び、3回お辞儀をしたあと跪いた。

お辞儀をする新郎新婦。それぞれ義理の親の前に立つ。

育ててくれた親への感謝の気持ちを述べ、新しい家族(義理の親)へ挨拶をし、お茶を捧げた。感謝や尊敬の念を伝える、家族を大切にする中国の伝統儀式だ。

お茶を捧げる様子
敬茶儀式に使われた真っ赤な茶器

声を震わせながら親に感謝の言葉を述べる表姐や、目に涙を浮かべる叔母の様子を見てこちらまでも泣いてしまった。敬茶を見守る他の家族はほぼ全員泣いていた。

結婚式が終わった後、場所を変えて家族たちと火鍋を食べに行った。
私の母は3兄弟の末っ子で、姉(私の叔母)と兄(叔父)がいる。
この火鍋は長女の叔母と長男の叔父とその家族、次女の母とその家族(私の父、妹、私、私の旦那)で行った。

皆で囲む火鍋は格段に美味い。

成都の火鍋は精肉よりも器官など焼肉でいうホルモンを好んで食べている気がする。あと鴨血。涮羊肉などはない。

右上は鴨の腸。豆腐みたいな見た目なのは鴨血。左下はセンマイ
豚の血管

食事を終えた後、母の若い頃住んでた周辺で馴染みがあるという文殊院付近をぶらぶらし、茶館でお茶を飲んだ。

成都の茶館文化は素晴らしい。
時間に追われず、お茶とひまわりの種だけで何時間も居座れる。
成都の人たちはそういった時間の過ごし方を愛している。

茶館の竹でできた椅子も伝統的なものらしく、風情があって良い。

竹の椅子
“茶是苦的。苦着苦着就甜了人生的苦。加多少糖,自己决定”スローガンも面白い。

表姐のために、各地方に住む親戚一同がこの日成都に集まった。
特に遠くから来たのが当然私たち家族だ。母は日本の奈良から。父は茨城から。妹は沖縄から。私たちは欧州のクロアチアから。
実を言うと、私たち4人家族が集まったのも1年以上ぶりだ。前回は去年の私の結婚式のときだった。それに家族4人揃って母の故郷・成都に帰るのも私が27年生きてて今回で初めてだった。
私たちは普段から頻繁に集まるどころか一緒に出かけたり外食をすることはしない。
そのため今回は特に新鮮な家族の時間だった。

母はこの成都市出身だ。
30年以上前、成都で働いていた日本人(現・私の父)と出会い・結婚。その後日本へ渡った。
母は自分の母(私の祖母)を20歳で亡くし、知らない土地の日本にて慣れない言語・文化で2人の子供を育てた。当時90年代、インターネットや海外との連絡ももちろん簡単ではなかった時代。自分の母どころか姉兄さえもそばにいないことで感じていただろう孤独感は計り知れない。
そんな母は若い頃の苦労話をよく口にする。私はずっと責任を感じていた。娘である自分は母の孤独を埋めることができていない。私は母を苦しませている要素の一つであるのではないか。

結婚式から帰ると叔母が昔の写真をたくさん見せてくれた。
その中の1枚。成都の茶館で撮った1歳時の私と母の写真。

茶館のあの竹の椅子に座る26年前の私たち親子

母の目は、自分の子に対する愛しさに溢れ、優しい目をしている。

母は昔からいろいろごちゃごちゃ言うけど、私がいるから幸せに違いない。
言葉などいらない。この一枚は誰が見てもそれがわかる写真だ。

これを見てわたしは長年の不安から解放された気持ちになったのと、普段だとあまり意識しない母からの愛を再確認した。涙を堪えた。
今後どんなときもこの写真は私の頭で再生されるだろう。

表姐の結婚式は単に異文化を見せてくれたり幸せをお裾分けしてくれただけでない。
表姐が海の向こうにいる私たち家族にも声をかけてくれて、親戚一同召集してくれたことで私に家族の絆や愛、尊さを気付かせてくれた。

最後に。
ありがとう。「ここがあなたの帰る場所だ」と言ってくれた姨妈(イーマー)。
ありがとう。泊めてくれた、叔父さん、おばさん。
ありがとう。何がとは言わないけどママ。
ありがとう。姐姐。そして結婚おめでとう。

成都にルーツがある私は幸せ者だ。


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