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我孫子滞在 振り返り

4/22 〜 24は片付けや神戸での個展の準備がメインになったので詳しくは割愛し、滞在を振り返る。

レジデンスのきっかけ
このレジデンスのきっかけは主催の晃南土地の中澤社長が私の作品を常設していただいている、銀座のFEELSEENというお店で購入してくれたこと。

その後同会場での個展で初めて出会い、会社で取り組んでいる我孫子の街創りにアートを取り入れたいという中で、一緒にやりませんか。というお話をいただいた。

そこでまず、駅前の店舗に飾るクリスマスツリーのオーナメントを作って欲しいという依頼があった。そこにメッセージも込めたいとのことで、我孫子で中澤さんや社員の方が拾ったゴミや廃材を送ってもらい、それを使ってオーナメントを作り、そのひとつひとつに顔を書くことで街に住む人を想像し、ゴミをポイ捨てする前に同じ町に住む人の顔を想像しようというメッセージを込めた。

軍手を使ったオーナメント

それと並行してアーティストインレジデンスの話も進んでいた。
晃南土地としては、かつて白樺派の表現者たちが人生の中の何年かを我孫子で過ごし、重要な作品を作ったりその後の構想を練ったりした様に、我孫子が表現者の拠点となり、それが街の魅力になればと思っているということだった。私としても、日常から離れたところで制作をしたり自分に向き合う時間が欲しいと考えていたので、両者の思いが重なりこのレジデンスに繋がった。

また、通常のレジデンスとは違い、この3週間だけで成果をなにか求めるのではなくもっと長い目線でじっくり無理のない形でプロジェクトを育てていきたいというコンセプトとなった。

我孫子の街

そして滞在制作が始まった。
まずは滞在場所から徒歩5分の場所にある手賀沼の魅力に引き込まれた。
行く時間帯で表情を変える自然の美しさ。週末にはたくさんの家族連れで公園は賑わい、平日の早朝に行くとひとりで水面を眺める人や犬の散歩をする人、釣りをする人がいたりして、月次の感想だけれど、それぞれにとっての手賀沼があるんだなと思った。


自然の中で制作をして、距離も近い東京で発表の場を持つことのできる環境に、白樺派の人たちが他の表現者を街に呼びたくなる気持ちもすごくわかった。


また、多賀沼には大きなコブハクチョウがいてその美しさと大きすぎる存在感がなんだか夢の中の光景にも見えた。このコブハクチョウについては、害獣であるという側面もあり、畑を荒らされる被害も出ているのでかなりデリケートな問題だ。そういう面でも宙に浮いているような存在で、人間の煮え切らなさというか、冷酷になれない優しさを表している存在のようにも思える。私は当事者ではないので実害はなく、自分がハクチョウがいる町の風景をある意味搾取しているなと感じながら、ひとりで泳ぐコブハクチョウを眺めていた。

杉村楚人冠が中心となって景観を守るために、手賀沼の干拓を食い止めたという話もそれに近いのかなと思った。干拓は沼を埋めて農地にすることで飢饉への対策に繋がる計画であった。

いつの時代も変化に対して人は、合理的な部分と感情を天秤にかけて決断をしていて、それがそれが歪んだような形で目に見えて現れていくのかもしれない。それは作品の制作にも似ているし、美しさ(綺麗さではなく)ということもできるのかもしれない。

滞在と制作について



作品の制作については大作を1枚、小さな作品を2枚描いた。他にも何枚か描いたけれど作品にはならなかった。滞在が作品に与えた直接的な影響としては、ハクチョウや水辺がモチーフの風景を描いたり我孫子に実際にある風景に近い作品などができた。直接的でない影響としては日々、いつもよりじっくりと自然や街を観察する中で小さな存在に気がついたり、季節の移り変わりの中に自分もいることを感じたりすることで、自分の絵の中にある小さな存在たちを大切に扱わなくてはならないなと改めて思った。それが作品の強度にも繋がるはずだ。

我孫子を描いた作家(例えば原田京平)の作品がいまもこの街で大切に残っているということを知って、滞在と制作について考えを巡らせた。我孫子市白樺文学館の学芸員の方は、白黒写真しかなかった当時の風景が色彩を持って残っているということが貴重だ。ということを仰っていた。

写真があるこの時代に画家が滞在制作でできることはなんだろうかと考えた。はっきりとしたその答えはまだ出ていないけれど、もしかしたらそれはその場で感じる感情を可視化することかもしれない。原田恭平の原画を見たとき、やはり記録以上の何かを感じた。街や自分自身への眼差しのようなものが画面に焼き付いているかのようだった。絵を見た時、この感じ、確かにこの街に感じるよねという風に思った。それはノスタルジアの様な感情だった。この共感みたいなものは単純だけれどもとても重要じゃないかなと思う。

我孫子は都会から程よい距離にある、都市化されていないノスタルジアを感じる街だと思う。都内で働く人のベッドタウンになっていて、忙しない大都会からみんなこの田舎町へ帰ってきてほっとする。

丁度、ノスタルジアは今の制作のテーマのひとつでもあり、その感情についての研究してある書籍を読んでいた。ノスタルジアとは負の感情から心を守る脳の機能でもある。孤独を感じたときに、遠くに住む家族や昔住んでた田舎を思い出し、さみしい様な暖かい様な気持ちになり、最終的に孤独感が軽減されるという。つまり、お守りの様な存在かもしれない。

我孫子で感じた、このノスタルジアの部分を絵画を通して共有することで街の人にとってのお守りの様なものを作れるかもしれないと思った。

これからについて

滞在中にひとつ、アイデアが湧いてきて関西に帰宅後もその企画を晃南土地と進めることになりそうだ。

内容は、ZINEを作るということだ。滞在中に撮った写真や描いた絵をまとめて一冊の本にする。そうすることで滞在した作家の目線からみた我孫子を、住む人、または我孫子を知らない人に共有することができる。今住んでる人は他者のフィルターから街を見ることができ、知らない人は街に興味を持つきっかけになる。特に我孫子を知らない、感度の高い人や表現者に届くといいなと思っている。このZINEがきっかけに表現者が街にくることがあれば、白樺派が今も我孫子の街に与えている様な影響を小さな規模でもできるんじゃないかと思う。

そして、滞在するごとにこの雑誌が定期的に増えて行って、だれかの楽しみになったりアーカイブとして残っていけばいいなと思う。

最後に

このレジデンスを企画してくださった晃南土地の中澤さん。忙しい通常業務の合間にサポートをしてくださったスタッフの方々、滞在中に出会ってくださった方々に感謝を申し上げます。これからも共に我孫子だからできる街造りに一緒に取り組ませていただけると幸いです。




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