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絵と短編、詩

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絵と短いお話や詩
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ブルーラインの先で

ブルーラインの先で



20時に寝て23時に目が覚めた。
この後の時間をなんと呼ぼう。
牛乳を電子レンジで温める。
Bluetoothでスマホからスピーカに音楽を送る。

脱いだ靴下が床に落ちていて、
それがとてもとても黒く見えた。

黒を拾って籠に投げる。
電子レンジがチンと鳴る。
ヨラテンゴがAnd I'll find you thereと歌う。
ブルーラインの先で。

朝日を待つように

朝日を待つように



布団を先に抜け出す。

冷蔵庫を開けると薄暗い部屋が照らされた。

鳥の声が聞こえてベランダを見に行くとコンクリートの街が青く染まっていて、みんなまだ寝ているのかなと思った。誰も起きて来なければ良いのにと考えていた頃の気持ちが蘇って胸が軋んだ。

私は朝日を待つように、暫くその場に立ちすくんでいた。

音を浴びる時

音を浴びる時



ざぶざぶ 気配 ベール

ほぼ常にシングルサイズで

しんしんと冬が鳴る

音を浴びる時 生きていくこと

音を浴びる時 生きていくこと

丘の上

丘の上



考えごとをしていると、母が熱い柚子茶を運んできた。私は考えごとをやめて、窓の外を見た。外はすっかり暗くなり、家の窓灯りがぽつぽつとみえる。丘の上にある馬小屋の方に視線を移す。灯はなく、そこだけしんとしていた。でも、そこには確かに、生命の威厳が横たわっていることを感じた。

創作室

創作室



ドアの下の隙間から入っていくとあまり広くない場所につく。初めて来た場所ではないと身体が知っていて、言葉を捨てるべきであるということを思い出す。創作の源はこの場所にあり平面的な事象とは別の次元にある。

水に浸かりたいと思った。

身体に空いている無数の穴に液体を通したい。何故なら私は独立した1個体ではないからだ。ここから見ているもの、触れているもの聴こえる音が私であり私の消滅は1次元の消滅で、

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IHATOV

IHATOV



誰もが心の中に自分だけの空間を持つ。宮沢賢治は心象世界の中の理想郷をIHATOV(イーハトーヴ)と呼んだ。私の場合はドリームポップやシューゲイザーと呼ばれる浮遊感のある音楽を聴いた時に言葉には表せない風景や色、空間を感じる事がある。その感覚を絵にしようと試みた。

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珍しく、宣伝があります。

私の所属するアートチーム「海と梨」が年明け1月8日から

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帰省

帰省



バスを降りて誰も居ない実家へ向かう途中、新しい土地に来たような感じがした。空気は冷たくて新しくて、夜空より濃密な山の稜線が黒々とそびえ、星は漫画のようにちかちかと輝いて、その間を飛行機の橙色に点滅した灯りがするすると東へ進んでいった。

3日目の夜

3日目の夜



夏、憧れの音楽祭へ行った。山にみんなでテントを張って、ずっと音楽を聴いた。2日目の夜にたくさんたくさん雨が降って、川のような水の激しい流れを越えて、山を登り、必死でテントへ戻った。体が自動運転で動いているかの様だった。3日目の夜は雨が上がり、遠くから音がふわっと聴こえてきて空には星が見えた。私はまたここに来たいと思った。

ガーデン

ガーデン



なにがみえますか。なにがみえませんか。みえるものをみえないことにしているということは悪いことですか。そこには花が咲いていますか。いつか咲くとしっていますか。それはあなたのための花束ですか。だれかに渡すものですか。小さくて熱を持った壊れやすくて大切なものを、どうしていいのかまだ分かりません。私は、いつか見たガブリエルの花を忘れることが出来ません。

泉



小さなお城の小さなお庭に、ふしぎな泉がありました。吹き出す花は色や香りとなり浮遊しています。でも私は知っていました。あなたの中にあるものを。今の今それを確信したというだけです。

マイクロキャッスル

マイクロキャッスル



身体から水があふれでることがあります。そしてわれわれは運が良ければ、身体の中の水の綺麗さに気づき、外に流してあげることができます。きらきらとすいすい流れゆく綺麗な水を辿れば、その人の中にある小さな城へたどり着きました。小さな城には小さな庭があります。

ボディスナッチャーズ

ボディスナッチャーズ



やり過ごさなければいけない。それに見つかってはいけない。私が対象を認識していることは重要であるが、私が対象を認識していることを対象に認識されることは何があっても避けなくてはならない。もし何も知らずに大きな塊に飲み込まれることができるのならそれがどんなに幸福なことであろうか。

祈祷台

祈祷台



大きな樹に祈る。これまでに何十年もの間にここで手を合わせた人たちの跡がある。その人たちの気持ちは場所にぷかりと浮かんでいて、わたしの思念も隣に並ぶ。何かを得たいとかこうなりたいとかではない。ただ自分のことを話し、受け入れてくれるのではないかという希望こそが祈りだと思う。

熱い紅茶

熱い紅茶



彼女はそのコンサートを待ちわびていた。三ヶ月前からチケットをとり、カレンダーのばつ印がその日に近づく事を毎日の楽しみとしていた。しかし、当日会場へ着くとどうしても体が場内へ入ろうとしなかった。沢山の人達が入り口へ吸い込まれていく所を少し離れたところからしばらく眺めた。彼女は諦めて駅の構内にあるパン屋でチーズケーキを買い、家に帰り熱い紅茶をいれることにした。