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業界でも稀な「看取り支援」を行った理由と、その結末

こんにちは!
外部広報担当の三好です。

さてさて、前回の記事でご紹介した泉川さんは、辞表を提出した後、余命宣告された利用者さんを最後まで支援する「看取り支援」を経験します。そしてその結果、辞めるのを辞めました。が、実はこの出来事、業界ではかなり稀な例なのだそう。

そもそも入所施設で看取り支援を行うこと自体、ほぼ前例がありません。入所施設で余命宣告を受けた方は、病院へ移るのがほとんどなのです。その理由はふたつ。ひとつは支援員は命に係わる専門職員ではないこと。もうひとつは、人を看取ることの精神的ダメージは大きく、職員の離職が増える可能性があることです。

もちろん、看取り支援によるリスクの大きさは海邦福祉会にとっても例外ではなく、最初は病院に移る予定でした。ですが結果として、看取り支援をする決断をしたのです。

なぜリスクの高い看取り支援をやろうと思ったのか、そして看取り支援という難題にどう向き合ったのかをお聞きしました。

※当時のお写真がないため、今回はほぼフリー素材でお送りします。

知的障がいのある方が、余命宣告をされたら

今回、余命宣告を受けた利用者さんを仮にAさんとします。Aさんは末期癌により余命2ヶ月と宣告されました。

通常入所施設では、余命宣告を受けてすぐに病院に移動の手配を行うのですが、海邦福祉会ではその日、支援員全員を集めてAさんの今後について話し合ったのだそうです。

隆生さん「Aさんには重度の知的障がいがあり、自分が癌になったということを理解できないんです。つまりAさんにとっては、なぜか突然知らない場所(病院)に連れて行かれることになります。点滴は外してしまうでしょう。そうなると、おそらく拘束されます。知らない場所で、わけも分からず拘束され、わけも分からず意識を失っていく。そういう人生の終わり方って、ちょっとかわいそうだよねと。だからみんなで話し合って、看取ることにしたんです」

こうして、ゼロから看取り支援に挑戦することにした海邦福祉会。とはいえ支援員だけでは何かあった時に対応ができません。そこで、共感してくれた病院と外部連携を行い、医者・看護師・栄養士に訪問してもらいながら看取り支援を進めることになりました。

「沖縄そばを食べさせるか否か」。支援員と専門職員の争いが勃発!

看取り支援は試行錯誤の連続でしたが、なかでも印象に残るエピソードがあったといいます。それは、昼食にAさんが大好きな沖縄そばが出た日のこと。

その頃のAさんは、癌の進行により徐々に食欲が減少し、食事ペースが2日に1度ほどに落ちていたそう。ですがその日のメニューは沖縄そば。Aさんの大好物です。

体力も落ちていたAさんですが、その日ばかりは食堂へ歩いてやってきました。その様子を見た支援員は「食べに来たね」「沖縄そばだからかな?」と微笑ましく眺めていましたが、Aさんは食事が出た瞬間、怒って器をひっくり返してしまったのです。

実はAさんの沖縄そばは、麺をすりつぶしたペースト状のもの。飲み込む力が弱っていたAさんは、麺をそのまま食べると誤嚥性肺炎になる恐れがあり、麺をペースト状にする必要があったのです。

※写真はイメージです

Aさんは食堂の受け渡しの場所まで行き、沖縄そばを指さして「あれが食べたい」と訴えました。

隆生さん「もちろん看護師と栄養士は反対しました。誤嚥性肺炎になる可能性があるからあげられないと。だけど支援員はどうにか食べさせてあげたいと反発します。2日ぶりに食堂まで歩いて来たAさんが、どれだけ沖縄そばを楽しみにしていたかが分かるから。その願いを何とか叶えてあげたいんです。命を守りたい専門職と、想いを汲みたい支援員の対立ですね。どっちも間違っていない」

最終的に判断をあおられた隆生さんは「支援員と看護師、栄養士の3人がみんなが見守る中で食べさせるのはどうか」と提案。悩ましい判断ではありましたが、もしかしたらこれが最後の食事かもしれないと思うと、やはり好物を食べさせてあげたい。そう思ってのことでした。

「もっとやれることがあったはず」という働きがい

そんなトラブルもありながら、Aさんは最後まで施設で過ごし、支援員全員が見守る中、息を引き取りました。

Aさんが幸せだったかどうか、それは誰にも分かりません。もしかしたら病院に移動していた方が、長く生きられたかもしれません。だけど少なくともAさんは、病に侵されながらも拘束されることなく、大好物の沖縄そばを食べることができた。これだけは事実なのです。

泉川さん「ご家族からはとっても感謝されました。家族でもこんなにきついのに、他人の職員さんたちがこんなにも寄り添ってくれているのは本当に有難いと。ただ私は、そんな風に言われても、もっとできることがあったんじゃないかと今も考えてしまいます。」

その後、泉川さんは「やり残したことがある」と辞表を取り下げ、利用者さんがもっと楽しく過ごせる方法を日々模索しながら働いています。

泉川さん「海邦福祉会は、頑張れるときはみんなで頑張ろう、楽しいことはみんなで楽しもう!っていう会社なんです。もちろん悲しいこともみんなで共有して。だからこれからも、私はここでやり残したことをひとつひとつ頑張りたいと思っています」

◎海邦福祉会は、一緒に働く仲間を募集しています。無資格・未経験の方もOK!興味のある方はリクルートサイトをご覧ください。


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