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B砂漠の40日間と休む

 海外漫画、特にバンド・デシネの世界で巨匠を1人あげるとすれば、「メビウス」であることに異論がある人は少ないはず。1970年代以降に発表されたメビウスの作品は現代においても輝きを失っていない。

 これまでも、以下のように複数のメビウス作品を紹介してきた。例えば、ジャンジロー名義の「ブルーベリー」。例えば、メビウス自身の内面の精神世界を描いた「インサイドメビウス」だ。

 本作品は、上記「インサイド・メビウス」でも出てくるB砂漠を舞台とする作品だ。本作品がどういうものであるかの説明は、Wikipediaに端的な記載があったので引用をさせていただく。

『B砂漠の40日間』(ビーさばくのよんじゅうにちかん、40 days dans le desert)は、メビウスによるフランスの漫画作品。フランスで1999年に発売されたバンド・デシネ作品である。
60歳を過ぎたメビウスによって、ラフスケッチや下描きをせずに一発描きで、かつ修正を一切入れずに制作された。セリフやコマ割りは一切存在せず、絵物語の様な形式となっている。

 そう本作品は、「ラフスケッチ」や「下書き」をしない一発描きで、しかも、修正一切なしの無修正で制作されたものである。とはいえ、どんな絵かみないと(しかも、ブルーベリーやインサイドメビウスとは異なる線・スタイルで描かれている)一発描き・無修正の偉大さがわからないと思うので早速、下記を見て欲しい。

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 このレベルなのだ。このレベルで描き込んでいるにも関わらず、一発・無修正なのだ。本当に驚愕する。

 本作品のもう1つの特徴は、サイレント漫画であるということだ。メビウスにおいてはサイレント漫画は他にもありそれほど珍しいものではない。また、バンド・デシネを読んでいくとたまにサイレント漫画は見かける。日本のストリー漫画に慣れていると、セリフが一切ない漫画を「漫画」と呼ぶべきか、というのは、なかなか悩ましい問いだと思う。私は、「絵」と「コマ」と「コマにより時間が流れること」が漫画の要素だと思うので、セリフのない本作品のようなサイレント漫画も「漫画」に含まれると思う。

 例えば、(ほぼ)サイレント漫画の近年における名著といえば、以前取り上げた「Here」だろう。


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 私の中でもう1つメビウスの作画の特徴だと思うのは、「手」をうまく使っているところだ。あるときは、感情を表すために使われ、あるときは、何かを語らせるために「手」が使われる。そういう意味では、「手」が一部セリフを代替しているという側面もあるのだと思う。上記のコマでは、指で何かを指し示す男と、読みを射る姿勢を取る男がいる。ある意味「手」のおかげで、指が指し示す方向に矢を射るべき対象がいることがわかるし、何かを狙っていることも語らせているように思われる。

 インサイドメビウスを読むと、メビウスにとってB砂漠は、自身の思考の場であったように思える。そして、メビウスにとって、思考の場は、砂漠でなければいけなかったのだろう。何もない砂漠が、思考の場であり、イメージソースであるというのはとても興味深い。

 このB砂漠、過去に日本語訳(日本語版)が出版されて、なかなかカッコいい日本オリジナルの装丁だが、今は絶版でとんでもない価格で中古市場に出回っている。本作品は、若干のコメントみいたものがある他、大部分は「絵」のみで構成されているためあえて日本語版を買う必要はないと思う。DX化が進むこの現代社会の利器をフル活用して是非フランスの書店等から直接購入して、本作品を手にとって見て頂きたい。

 

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