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アルザックと休む

 巨匠メビウスの代表作といえばこのアルザックだろう。メビウスについては、これまで、ジャン=ジロー名義のブルーベリー、メビウスの精神世界をコミカルに描いた即興的作品インサイドメビウスを紹介してきた。

 そういえば、先日紹介した草間彌生の人生を描いたKUSAMAでも、作品を作ったり、描いたりすることが草間彌生自身にとって自己セラピーになるという話が掲載されていた。そういう観点で考えると上述のインサイドメビウスは、メビウスが9.11の事件を受けて精神的に衰弱していた時期に描かれたということであった(実際作中にはビン・ラディンが登場しメビウスやメビウスが描いたキャラクター達と対話するような場面もある)。そういう意味では、現代アートとインサイドメビウスの作品は自己セラピーという点で関係を持っているのかもしれない。

# さて、そんなメビウスが1976年に描いたのが本作品アルザックだ。この1976年というのは、メビウスの代表作の1つである密封されたガレージが製作された年でもあり、アレハンドロ・ホドロフスキーとのタッグでの製作をしていく1980年台前夜のフレッシュで勢いのある時期の作品に該当すると思われる。

 この作品は、竜?恐竜?に乗った戦士が、覗きをしたり、巨大な猿と戦ったりしながらストリーが進んでいく。本作品はわずか約30ページ程度の作品であり、ほぼ全てセリフなしでストーリーが進んでいく。いわゆるコマの進行だけでストリーを語るストイックな構成になっている。セリフがないおかげで、邦訳が絶版かつプレ値がつき、しかもフランス語が読めないため手が出しにくいメビウス作品の中で今でもフランス語版であれば容易に手に入る点でありがたい作品だ。

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 上記のコマはわりと著名なコマではないだろうか。インサイドメビウスで出てくるアルザックと若干違う気もするが、このくらい描き込まれているメビウスの線もとてもよい。それにしてもメビウスはキャラクターに被り物させがちだ。絵のバランスが取りやすくなるのだろうか。

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こういう見開きのページもかっこいい。モブキャラをみても、B砂漠やインサイドメビウスで見られるような遠くが見通せる構図、中世とSFが混同したような世界観がとてもかっこいい。

本作品はサイレントでも漫画だと思わせてくれるし(漫画が持つコマの要素がいかに重大か感じられる)、1コマ、1コマを見ていても飽きない描き込みだ。まるで画集を動き出しているかのうように。かなり古い作品だし(1976年というと日本だとこち亀が始まったくらいの時期)少しオールドファッションな感じもあるが、今みても飽きない不朽の名作といえるだろう。是非手にとって見て欲しい。

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