海外漫画と休む

邦訳されている海外漫画について感想めいたものを残していきます。タイトルは著名なブログ『…

海外漫画と休む

邦訳されている海外漫画について感想めいたものを残していきます。タイトルは著名なブログ『シャツと休む』のサンプリングです。

最近の記事

バウンサーと休む

 バンドデシネの原作で有名な(カルト映画好きにとってはおなじみ)アレハンドロ・ホドロフスキー原作の作品「バウンサー」を紹介しよう。  ホドロフスキー原作の作品はこれまで何作品も紹介してきた。例えば下記のようなものがある。本当に色々な方向性・ジャンルがあるので紹介はしきれいなが、バンドデシネ作品でホドロフスキー原作であれば読む価値ありだろう。  本作品は、南北戦争の時代を背景に、ある家族の物語が描かれている。その物語とは、父親を殺された子供を中心に、3人のおじさんを取り巻く

    • MEADOWLARKと休む

       本作、MEADOWLARKは、未邦訳の英語の作品となる。本作品は、かのハリウッドスターのETHAN HAWKEが原作を執筆し、GREG RUTHが作画を担当している。ETHAN HAWKEについては、説明不要だろう。あえて付言するのであれば、(ネットの情報によれば)ETHAN HAWKEは俳優活動以外にも小説の執筆などわりとマルチの活躍しているらしい。GREG RUTHについてはどうだろう。あまり日本での知名度は高くないのではないか。こちらのGREG RUTHについて、彼の

      • マンガ学と休む

         最近訪問した柳宗悦の没後60年を記念した展示「民藝の100年」では、民藝運動が、作品だけでなく雑誌「民藝」というメディアを使った批評文化を合わせもっていた事が民藝運動を深化させる契機であったという分析が示されていた。全ての芸術等の分野における、全ての批評はくだらないという言説にも理解がある。だが、ある表現が批評文化なしに深化することはないのではないかと思う。  本作品は、スコット・マクラウドという漫画家であり批評家である作者による、漫画批評である。特徴的なのは、漫画を使っ

        • ワイン知らず、マンガ知らずと休む

           ワイン知らず、マンガ知らずが先日郵送で手元に届いた。この作品は、昨年サウザンブックス社によるクラウドファンディング出版の企画により必要な資金が集まり刊行された。本書は、まずプロジェクトに参加した方に先に届いたのち、一般発売される。一般の発売は7月頃か。   サウザンブックス社のクラウドファンディング企画では、これまでもレベティコやティキング・ターンズといった海外漫画が出版され、本作が第三弾、そして第四弾まで出版が決まっている。さらに、第五弾の募集も近日開始するということで目

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          a bag of marblesと休む

           本作品は、フランスの作家であるジョセフ・ジョッフォの「Un sac de billes」という自身の回想録を綴った小説を漫画にしたものだ。この作品は、本作品以外にも1975年に「小さな赤いビー玉」という名前で映画化されている。さらに、2017年にも「A Bag of Marbles (Un sac de billes)」という名称で映画化されている。いわば映画映えするストーリーなのだろう。なお、映画版は2つともみたことないので、いつかは見てみたい。  本作の物語は、ナチス

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          ファン・ホームと休む

           本作品の題名であるファン・ホームは作中に出てくる葬儀場の呼称だ。本作品は、アイズナー賞最優秀ノンフィクション賞を受賞していることからもわかるように、作者の自伝的(もしかしたらフィクションかもしれないが)作品だ。そして、作者は同性愛者であり、その作者と作者の父親との関係を自伝的に叙述していく作品だ。ここまでだけだと、それほど珍しい作品ではないのかもしれない。この作品を一層味わい深くしているのは、間違いなく作者の父親の存在だろう。作者の父親は元軍人で、几帳面で、骨董好きで、文学

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          キリング・アンド・ダイングと休む

           最近、「パリ13区」という映画が公開された。このパリ13区という映画、実は、このエイドリアン・ト(ー)ミネの「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」が原作になっている。まだ、パリ13区の映画は視聴できていないのだが、このムーブメントに乗っかって海外漫画を喧伝したいと思い、本記事を書いている。  まず、「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」は、本作、キリング・アンド・ダイングに収録されている。本作、キリング・アンド・ダイン

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          レヴォリュ美術館の地下 ある専門家の日記よりと休む

           私が海外漫画を読み始めたきっかけは、メビウスとホドロフスキーの猫の目を読んだことだ。そして、私が海外漫画に興味を惹かれたのは、ルーヴル美術館のBDプロジェクトが影響だ。当時、日本からも荒木飛呂彦や谷口ジローがこのプロジェクトで漫画を出版するという話はなんとなく把握していたがそれ以上に興味を惹かれることはなかった。しかし、改めてメビウスとホドロフスキーというBDの正門から入ってルーヴル美術館BDプロジェクトを見ると、それはとても興味深いプロジェクトであることに気付かされた。そ

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          SAND CASTLEと休む

           本作品は、フレデリック・ペーターズ原作の作品だ。フレデリック・ペーターズといえば、日本でも「KOMA」や「青い薬」という作品が邦訳されており、人気のバンドデシネ作家だ。日本語のWikipediaもある。  また、本作品は、書肆喫茶moriさんの先行研究業績があるので紹介させていただく。 まず、本作品は英語に翻訳された作品だ。そのため原典のセリフがどうなっているかは確認していない。その上で、とても読みやすい作品だった。使用されている単語も平易で、ほとんど辞書を引かず読むこ

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          テクノプリースト(後編)と休む

           本作品紹介の前編では、本作品の概要や特徴、大まかなストーリー展開を紹介した。 今回は印象に残ったコマを中心に見ていきたい。 本作品は機械・コンピューター的なものと、動物・恐竜・モンスター的なものが同居する世界観である。上記は、機械的なものがでてくるコマだ。ただ、機械的といってもどれも何か生命感がある。曲線的だからなのか、彩色のせいか。不思議と機械なのに生命感があるのは興味深い。  上記のコマは肉弾戦のシーンの1コマだ。本作品では精神力の具現化とか、特殊な銃とかわりと道

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          テクノプリースト(前編)と休む

           テクノプリーストは、メビウスとホドロフスキーがタッグを組んだアンカルのいわゆるスピンオフ作品だ。アンカルに出てきたテクノプリーストに焦点を当てた作品だが、アンカル本編との接点はほぼない。このあたりは、以前紹介した同じくアンカルのスピンオフ作品である、メタバロンの一族と同様だ。メタバロンの一族については、以下をご参照ください。  本作品は総ページ数400ページを超える大作で、なおかつ、ハードカバーでの製本であることから、さながら百科事典の様相を呈している。内容もそれに比して

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          ウィルソンと休む

            ダニエル・クロウズは米国のグラフィックノベルの旗手と言えるだろう。これまでもダニエル・クロウズの作品は紹介してきた。ダニエル・クロウズの作品を邦訳で手軽に読めることについてはプレスポップ社さんには本当に感謝しかない。  本作品は、題名と同名のウィルソンという中年の男が主人公の作品だ。ウィルソンは皮肉屋で孤独で嘘つきの中年男だ。このウィルソンが父と死にたちあったり、離婚した妻に会いに行ったり、親戚に会ったりしていく中で厭世的な気分をどうにか晴らそうとする物語だ。  以下

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          マッドジャーマンズと休む

            本作品は1980年代にアフリカのモザンビークから東ドイツに移住した3人の移民の物語だ。本作品の紹介に最も適した一文は本作品の帯に書かれている以下の言葉だ。「社会主義の歴史は個人的な記憶のディテールでできているんだなと思う」。何かと大きな主題を取り扱おうとすると、主語を大きくしてみたり、抽象論に終始したりしがちだと思う。しかし、社会に関する事象を取り上げる限り、それが歴史的な事実にしても、現在進行形の問題にしても、同時代に生きる人々の日々の営みに分解ができるはずだ。そういう

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          No One Elseと休む

           最近誰かがおすすめをした本作品。No One Elseは、R. Kikuo Johnsonという作者の短(中)編の漫画だ。グラフィックノベル、という呼び方をする方が適切なのかもしれないが、漫画文法で育った私としては、バンドデシネを読んでも、グラフィックノベルを読んでも、その他海外漫画を読んでも、漫画文法のフィルターを通して読むわけで、漫画と呼ぶ方が適切であると思うのだ。  そんな前置きはさておき、R. Kikuo Johnsonという作者について簡単に紹介したい。彼のホー

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          かえるくん、東京を救うと休む

           これまでも何作品か村上春樹原作のバンドデシネを紹介してきた。これで6作品目だ。9ストリーズのタイトル名の通り残りは3作品。 恒例の扉絵。毎回字体と色合いがすごくかっこいい。 個人的に一番好きなシーン。「さん」ではなく「くん」で返す。 上記の通り絵柄はいつも通りの雰囲気。6作品目にもなるとすっかり絵柄にも慣れてきて村上春樹の小説を読むときに上記の絵柄が思い浮かんできそうだ。  ところで、この「かえるくん、東京を救う」については、小説、オーディオブック、本作品と様々なパ

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          歩くひとと休む

           現在、サンデーマンガ倶楽部の『歩くひと』の回を聴きながらこの記事を書いている。サンデーマンガ倶楽部をご存知でない方がいたら是非聞いて欲しい。マンガに詳しい愉快な鼎談が毎週聞けるのだ。背表紙の開き方が特殊だとか、高精細印刷なのでトーンの貼り様までくっきり見えるなど今回もマニアックな話がされている。  本作品は、飯を食う漫画で有名な谷口ジローの作品だ。  内容については、歩く。ただ歩く漫画だ。本作品は色々な読み方があると思うのだが、1つの視点として、誰しも経験したことがある

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