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アメリカ:カトリック神秘主義の伝統を受け継ぐJ.フォッセについて

USA: J. Fosse continuing the tradition of Catholic mysticism

アメリカの作家でハーパー誌(Harper)の編集者であるクリストファー・ベハ(Christopher Beha)は、最近12月10日にストックホルムでノーベル文学賞を受賞したノルウェー人のヨン・オラフ・フォッセ(Jon Olaf Fosse)の『ヨン・フォッセのカトリック的神秘主義(The Mystical Catholic Tradition of Jon Fosse)』に関する記事をニューヨーク・タイムズ紙に掲載した。2012年にカトリックに改宗した64歳の作家は、過去に二度の離婚とアルコール依存症との闘いを経験している。

同様に、記事を書いたベハはカトリックの家庭で育ったが、離婚を経験しており、アルコール依存症と闘った。彼は10年ほど前に、回心して信仰への回帰を果たした。そのためか、今年のノーベル賞受賞者の仕事に対する理解が深まったと彼はいう。彼はとくに、作家の代表作である『Septology(セプトロジー──A series of seven works)』と、今年10月末に出版された『A Shining(シャイニング)/Blancura(Whiteness)』の2作を取り上げた。ノルウェー人の作品には、マイスター・エックハルト(Meister Eckhart 13~14世紀)、アビラの聖テレサや十字架の聖ヨハネ(Teresa of Ávila/John of the Cross)、さらには20世紀の神学者であるイエズス会のカール・ラーナー(Karl Rahner)など、カトリックの神秘主義の伝統が受け継がれている。「未来のクリスチャンは神秘主義者になるか、さもなくば、全く存在しないだろう。人間は神と直接的で、経験的な関係を持つか、信仰を失うかのどちらかである」という後者の有名な言葉を引用することをベハは忘れなかった。

「カール・オーヴェ・クナウスゴール(Karl Ove Knausgård、フォッセの弟子)、ベン・ラーナー(Ben Lerner)、レイチェル・カスク(Rachel Cusk)、シーラ・ヘティ(Sheila Het)など、オートフィクション(自伝的なフィクションのスタイル)で書く他の作家とは異なり、フォッセは自己についての考察だけに‐瘴気( しょうき/miasmsマイアズム、有害で病気や不均衡、士気を失わせる原因となる影響や要因)や唯我論(solipsismソリプスィズム、個人の認識のみが存在し、すべての現実は個人の主観的な感情の集まりに過ぎないという見解)──焦点を当てているわけではない。前述したカトリックの神秘主義者たちのように、教会はしばしば彼らを批判したが、後に伝統の一部と認めた。肉となり、私たちの間に住まわれるみ言葉。言い換えれば、神は語り、また人間の肉体を持った世界を創造することによって、死すべき運命にある私たちの人間的な生活のなかで『神と接触する可能性』をも同時に創造したのである。フォッセはキリスト教のメッセージの核心を明らかにしている」とベハは述べた。

『Septology(セプトロジー)』の主人公、 画家アスルは、同じく画家でアスルという名前の自分の分身(ドッペルゲンガー)と対話する。このアメリカ人編集者は、この物語をより広い視野でとらえ、彼自身の人生や一卵性の双子との関連性にも言及している。と同時に、「しかし、私は主人公の悩みによって、そしておそらく、フォッセ自身によって、この本に引き込まれた」とも指摘している。彼自身も当時、激動の時代を経験していたことを認めている。「この小説の主人公のように、私もいわゆる、もうひとりの自分、自分自身の『影』(村上春樹が2016年にハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞した際に『影』を称賛したことを参照)について、彼が生き残れるかどうか心配していた」。雪の中でアスルが半死半生の自分の分身アスルを見つける。慈悲深いサマリア人のたとえのように、彼は分身のアスルを診療所に運んで、地元の宿屋に引きこもり、そこで疲れ果てて倒れる。作家が唱えるラテン語のロザリオの祈りで、この本は終わる。

600ページに及ぶ『Septology(セプトロジー)』とは対照的に、『A Shining(シャイニング)』はわずか75ページしかない。ベハによれば、ダンテの『神曲』の現代版のようだという。この本の主人公は、気温の低さだけでなく、寒さを感じながら、ますます暗くなる森のなかに車を走らせる。「今、私の目の前にあるこのすべてを包み込むような暗闇のなかに、私は人の輪郭を見る。光り輝く輪郭がだんだん見えてくる。彼が近くにいるのか遠くにいるのかはわからないが、この白さは夜の闇とのコントラストである」とフォッセは書いている。

そしてベハは、「フォッセの文章の偉大さは、この闇と光のコントラストを表現することにある。(中略)彼の登場人物は、私たちの生活や世界のなかに神が存在し、神なしでは『完全な空虚』になってしまうことを私たちに教えてくれる。常に世のなかには、このような信仰を批判する人たちがいる」。それに対してノルウェーのノーベル賞受賞者はこう答えた。「信仰というすべてを受け入れるには、非知的で、根本的に非合理的な受け入れがたいものを批判することは正しいかもしれない。しかし、繰り返すが、それはあなたが考えているほど単純ではない」。

kg Fr. jj

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