「春夏秋冬の夏」麦茶とラーメンとピニャータと私

 今年の夏は1ヶ月ほど日本に一時帰国した。「日本の夏はカナダと違って暑いでしょう」「せっかくカナダの夏が一番良い季節なのにもったいない」と言われることもあるが、私は日本で過ごす夏休みが好きだ。その中でも、毎回帰国すると東京周辺に住んでいる友人たちの家に泊めてもらいながら1週間ほど「会いたい人たちに会う旅」をするのだが、今回もその期間面白いことが目白押しだった。

グラスに夢中になりすぎて中身の麦茶の存在忘れちゃった事件

 まず最初に、私は「夏と言えば麦茶」と言うぐらい麦茶を飲む。寮生活をしていた中高生の頃、普段はあまり見向きもしなかった食堂のやかんの中身が夏の時期冷たい麦茶になった途端に、やかんの存在が急にありがたいものになる、そのぐらい麦茶を欲していた。

 そして今回も、泊めてくれた友人の一人がグラスに冷たい麦茶を注いで出してくれた。いつもだったら、グラスの事など気にもとめず、麦茶を一口飲んでその親しみ深い味に安心しつつ、暑さにほてった体に潤いが行き渡る感覚を楽しんでいたと思う。だがその日は、麦茶よりも自分が触れたグラスに興味関心が向いた。表面がポツポツしているのだ。もしやと思っていたら、このグラスには点字が書かれていると友人が教えてくれた。よく触ってみると、点字の五十音、数字、英語までが実に美しいレイアウトで、しかもちょうど良いさわり心地の突起で書かれている。このグラスに炭酸などを入れると、気泡と点字の突起がいい感じに反射してとても綺麗に見えるそうだ。そんな話を聞いた私はさらに興味を引かれ、このグラスの製造元はどこかと訪ねた。すると友人は楽しそうに「それはそのグラスのどこかに点字で書かれているよ」と教えてくれた。それから私は、いろいろな角度からグラスの表面を触察し、答えを探すのにのめり込んでしまった、そのグラスの中にはまだ飲んでいない麦茶が入っていることを忘れて…。

 今私が手に持っているグラスの中には結構な量の水分が入っているということを思い出したのは、椅子に座っている自分のジーンズが急に冷たくなったのを感じた時だった。そこで我に返った私は、表面の点字をできるだけ読みやすい角度で理解しようとするあげく、グラスをかなりの角度で傾けていたことに気づいた。「あぁ、麦茶がぁぁぁ」と驚く私に友人は爆笑し、あまりの出来事に「自分どれだけ子供なんだろう」と苦笑するしかなかった私も、最後はもう笑ってしまった。でもそのぐらい、本当に魅力的なグラスだった。麦茶にまつわる思い出が一つ増えた夏。

中華パーティーが図らずもラーメンパーティーに化けた話

 今回も、ちーちゃんのお家に数日泊めてもらい、それはもうとても楽しい時間を過ごさせてもらった。その中で起きたハプニングを一つ。ちーちゃんと彼女のパートナーと私の3人で「外に出るのも暑いから今日はウーバーで中華でも頼もう」と言うことになり、エビチリとチンジャオロースと麻婆豆腐と海鮮焼きそばの4品を頼んだ。

 まぁ4品頼んだからそれなりの分量が来るであろうと思って待ってはいたのだが、届いたウーバーの袋の数は予想を遥かに超えていた。配達員さんも商品を渡しながら「いっぱいありますねぇ」と言っていたぐらい。そして、全ての袋を受け取り、配達員さんが出て行った頃、私はその袋の中にどう見ても汁物が入っていることに気づいた、しかも丼サイズの汁物が2つはある。「あれ、これ違うかもしれない」と疑念を抱いた私たちが全ての袋を開けて目にしたのは、ラーメン2杯、チャーハン2・3人前、餃子3皿ほど、回鍋肉、そして最後まで謎だったサラダみたいなものだった。どこに行ったんだ私たちのエビチリたちは。

 その後いろいろと確認したが、結局私たちが頼んだ4品の行方は謎に包まれたままだ。予想としては、ドライバーさんが一件別の場所を経由してからわたしたちのところに来るとなっていたので、その家と鳥違ってしまったのか、でも私たちのところに来た時に袋を渡しながら名前の確認をしていた気もするのでそもそも店側が間違えてドライバーさんに渡したのか、そういう部類のハプニングが起こっていたのだと思う。結局ウーバーからは返金があり、店に電話したら「それは食べちゃってください」とのことだったので、私たちは中華パーティーに化けて変わったラーメンパーティーを楽しんだ。以前別の友人から「寿司を頼んだらまず先に頼んでもいないマックが届いた」と言うような話を聞いたことがあったけれど、まさかこんなスケールの大きい誤配達を自分が経験するとは思わなかった。ラーメンとチャーハンと餃子と回鍋肉と多分サラダを頼んだ人たちは大丈夫だっただろうか、私たちのようになんだかんだ楽しく食事ができていたことを願いたい。何はともあれ、夏の暑い夜に涼しい部屋で食べるラーメンはとても美味しかった。

ピニャータで祝ってもらった27歳のバースデー

 そして私は、8月の終わりで27歳になった。今回の日本滞在中も、夏休みが終わって戻った先のカナダでも、本当にたくさんの人たちに誕生日を祝ってもらえて、感謝の気持ちで胸がいっぱいだ。今このエッセーも、ちーちゃんからもらったとてもエレガントでシルキーなさわり心地の良いルームウェアを着て書いている。

 そして今回、夏休み終わりのバンクーバーで、友人が近所の人たちも集めて私のバースデーパーティーを開いてくれた。そこで初めて経験したのがピニャータだ。ピニャータとは、元々は子供の誕生日をお祝いするときのイベント事で、堅い紙で作られた人形の中にお菓子やおもちゃを入れ、それを一人ずつ木の棒でたたいて、くす玉が割れるみたいにその人形からいろいろなトリートが出てくるのを皆で楽しみ、全て出たら餅投げの餅を取り合うみたいに皆で群がって中身を拾って持って帰るという遊びである。

 今回友人は、大きな可愛い熊の形のピニャータを用意してくれた。そして「大人も子供も楽しめるピニャータ」と題し、いろいろな種類のお菓子や紅茶のティーバッグやゼリーや、ジョークでタマネギやジャガイモやニンニクをごろっとそのまま入れたりもして、ピニャータを壊し終わった後は子供も大人も目隠しをしてドキドキしながら中身を拾いまくり、実に楽しい時間を過ごした。爽快な音と共に一人ずつピニャータをたたき、特に最後の方にかけて盛り上がりが増していくあの感じが好き。とても思い出に残る27歳の夏だった。

 毎年暑い暑いといいながらも、夏の終わりは何だか少し切なくなったりする。大量に宿題があった子供時代の夏とは違い、カナダの大学生の夏休みはとても自由だ。そんな黄金期間とも言える夏休みを、今年も本当に満喫できた。1ヶ月ぶりに戻ったクイネルの朝はもう3度まで下がっていてびっくりしているが、2022年の夏には思い出と共に終わりを告げ、ここからは秋を迎える準備をしようと思う。

Hope you had wonderful summer!

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