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「雨の日に思うこと」ハメハメハ島民に憧れた私のRainy Day

 子供の頃の話。保育園の時だったか、小学校の時だったか、『南の島のハメハメハ大王』という歌を覚えた。そしてその歌の3番の歌詞に、当時の私はえらく衝撃を受けた。

南の島の大王は
子どもの名前もハメハメハ
学校ぎらいの子どもらで
風がふいたら遅刻して
雨がふったらお休みで
ハメハメハ ハメハメハ
ハメハメハメハメハ
歌ネットより

 世の中にはこんな素晴らしい国があるのかと思った。だから私は家に返って母に懇願した。「南の島に住みたい」と。

 それぐらい、当時の私は雨の日が嫌いだった。昼間でも薄暗くて、アスファルトから変な匂いがして、雨音が耳障りで、雨水を跳ね返しながら走る車はうるさくて、頭が痛くて、そして体も心もいつもより重たくドンヨリしていた。この前何かで読んで知ったのだが、私たちは普段約1トンほどの重さの気圧に押されているらしく、低気圧はそれ以上の付加がかかっているから不調になる人も多いのだと。そういう物に特に敏感だった子供時代の私には、それは確かにつらかっただろう。

ザーザーザー、ザーザーザー、ザーザーザー
 当時弱視だった私の目には、雨の日はずいぶんと景色がかすんで映った。意図せず水たまりに足を取られてビショビショになった靴の中、私の差す傘に肩が触れて顔をしかめる同級生、どんなに気をつけていてもまたやってしまったとただただ焦る気持ち、無情に走り去っていく彼女たちの背中、可愛くもなんともない派手すぎる色のカッパやランドセルカバー、泣きながら一人で返ったあの日、困った顔をしていた周囲の大人。

ザーザーザー、ザーザーザー、ザーザーザー
 雨の日はいつだって悲しくて、寂しくて、悔しくて、そして心許なかった。だから『ハメハメハ大王』のいる南の島では子供は雨の日には学校に行かなくていいと知った時、なんと素晴らしい制度だと思った、とてもうらやましかった。「南の島に住みたい」と必死に訴える私に、母はこう言った。「それは多分ハワイだ。それかサイパンかグアムか。とにかく、南の島に住むためには英語がしゃべれた方がいいんじゃないかな」。

 あれから約20年。私は南の島からほど遠い北米の地にいる。カナダに6年半住んでわかったことは、この国では「ハメハメハ式スクールシステム」は成立しないということ。特にバンクーバー、年間の半分以上は雨が降っているのではないかと思うこの地では、雨天の度に休んでいたらとても日常が成り立たない。だからあの歌は結構理にかなっているというか、温暖な気候で晴れの日が多く、雨が降っても一瞬のスコールか、休んでも日常に支障が無い頻度の南の島ならではなのだろう。暗くて雨ばかりの冬が終わり、夏になると水を得た魚のように日光を浴び続け、ウェルネス休暇を使って仕事を休んでテニスに出かけたり、ちょっと早めに作業を切り上げてテラスのあるパブに行ったり、いつもより夜更かしして10時半を過ぎて日が沈むまで外で遊んだりする人の多いカナダと、期間限定の非日常感という点ではある意味にているのかもしれない。

 南の島移住にただならぬ憧れを抱いていた私だが、思った以上に雨の日が多いカナダでも結構うまくやっていけている。そもそもの湿度がとても低いので雨が降ってもそんなにジットリしないし、こちらの人たちは少々の雨では傘を差さないから自分の傘と周囲の距離感を過剰に気にしなくてもいいし、今はおしゃれなレインジャケットやレインブーツもたくさんあるし、自分に合った痛み止めの薬やエッセンシャルオイルも見つけたし、明るいとか薄暗いとかかすんで見えるとか、全盲になってそういうことを気にする必要もなくなった。

 そして今はあの頃とは違って、ひとりぼっちだと思うこともない。ありがたいことに友達もたくさんできた。雨の中も結構上手に歩けるようになり、雨の日だからこそ出かけたくなるような可愛いファッションアイテムもたくさんゲットした。「かほはね、外国の方が合っていると思うんだ」。折に触れてそう言い続けてくれた母。勉強した英語はまだ南の島では使えていないけれど、思い切って飛び込んだ、雨の多いカナダの地で、私はとても楽しく暮らせている。

ザーザーザー、ザーザーザー、ザーザーザー
 今は雨音を聞いても怖くない。雨の日をどう楽しく過ごすか、思考もポジティブになった。

 先日、バンクーバーにいる日本人の友人に『雨のちふたり』の見出し画像をデザインしてもらった。空をイメージした水色の拝啓に、雨をイメージした濃い青の水玉のフレーム。背景の中には虹がかかっていて、その下に「雨のちふたり」の文字が薄紫色で斜めに入っている。雨そのものが暗すぎる訳ではなく、過ごし方を少し工夫すれば今よりも楽しくなるかもしれない。そして明けない夜がないのと同じように、やまない雨もない。南の島に住む以外生きる道はないと思っていた私も、今はそんな風に思えるようになった。

 そして、このオンラインマガジンのタイトルにもなっている『雨のちふたり』。明るい晴れの日だけではなく、つらくて暗い雨の日も一緒に乗り越えてきた親友。たとえ天気が少々悪くても気兼ねなく一緒に出かけ、いつまでも語り合えた彼女との出会いも、私の中ではとても大きかった。誰かが雨宿りしながら一休みできる、そんな記事をこれからも書いていきたい。

 日本はもうすぐ梅雨も明ける頃だろうか。避け続けていた梅雨の時期の帰省、そろそろ解禁してもいいなと思っている。降り続く雨に打たれて悲しい思いをしている人、体や心にのしかかっている鈍痛に暗澹たる気持ちになっている人、いつやむかわからない雨脚に苦しみ呆然としている人、そんな人たちの明日にどうか虹がかかり、太陽が顔を出し、また晴れて穏やかな日常が戻ってくることを祈りつつ。
I hope it will be sunny for you tomorrow!

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