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選挙漫遊in湯河原町議会議員選挙2024

 9月の伊東市議選から約半年ぶりの選挙漫遊。
 湯河原町議会議員選挙。定数14現職の枠に、現職11人、元職2人、新人7人の計20人が立候補した。
 得票数順に、インタビューで聞いた政策に関する話を中心にまとめてみる。(候補者と話していて考えたことや思ったことについても、脱線しながら書いた。また、筆者の都合もあり候補者に接した時間が違うため紙幅に差がある。その点ご了承いただければ幸いだ。)


土屋由紀子候補

1227.065票【当選】
 
 4年前に当選して見てきた議会の中での派閥争いや足の引っ張り合いをなくし、町民のための建設的な議論ができるようにする、議会に新しい風をふかせることを争点とする。
 土屋候補の選挙カーには、2023年の湯河原町長選のときに土屋候補の子供が描いたという絵が貼られていた。「政治家の硬いイメージじゃなくって、親しみやすい感じがしますね」と言うと「おっさんみたいな政治はやりたくなくて、子供のために」と思いを話した。

土屋由希子候補の選挙カー

貴田太史候補

 942票【当選】

 コロナによって元気がなくなった町を今一度団結しあえる町に、また教育力を上げるためにも地域の活性化が必要だと話す。
 初めての選挙だが、初日から地元の高齢者の方々が手伝いに来てくれたり、出陣式にも集まってもらったりしたという貴田候補は、地域に育ててもらったと話した。

 インタビューのため事務所を訪問した時は、新人無所属で家族ぐるみでできることをやっていると聞いたことから、貴田候補が2位当選したことを知って驚いた。
 選挙で候補者の当落を決める要素はたくさんある。演説でどんな話し方で何に重きを置いて訴えているか、集まっている聴衆はどんな人か、地域とどんな結びつきがあるか、どの地区に重点を置いて活動をするか、投票率は何%か…。
 たくさんの要素があり、開票結果は予測不能だから面白いし、それぞれの候補者に有権者がどんな魅力を感じているか実際に見に行く面白さがある。
 そんなことを考えて、インタビューだけでなく貴田候補が演説をしているところも見に行っていたら、上位当選の理由になる何かを発見できていたのかもと、インタビューだけでそそくさと事務所を後にしたことをちょっと後悔した。

松井一寿候補

 940票【当選】

 子育て、福祉政策も大事だが、まずはその財源確保のため観光産業を盛り上げ優先順位をつけて政策を進めていくとした。
 演説の中では「小さい頃から政治をやりたい」と話していた。その理由を聞くと、松井候補の同級生が町長の娘さんで、選挙を手伝うこともあり、そのことがきっかけになったのだそう。実際に政治家として働く中で、政治家は言うことしかできない、その中で政策を実行するため行政と調整をしていくことが難しいと話した。

 松井候補は子供の時選挙の手伝いをしたこともあるということから、政治に関心を持つ人が増えるためには「そういった(選挙の手伝いをするなどの)機会があると良いですよね。でもなかなかない」と話をした。

 そんな話をした後、ふと「選挙漫遊を主権者教育として学校で取り入れるのっていんじゃないか」なんてことを考えた。
 候補者のことを事前に調べてインタビューのアポを取ったり、街頭演説の予定を聞いたりするのはキャリア教育につながるだろうし、ビラやポスター、SNSの発信、街頭演説で話されていることを比較分析するのは情報リテラシー教育になる。また、その地域を巡って名産を食べたりや歴史的な遺物を見たりすることで地理・歴史を知ることができる。そして何より多様な候補者に会えば、将来にはたくさんの選択肢があり、決まったレールの上を走らなくても良い、自由に生きていいと思えるようになるかもしれない。
 平成29,30,31年の改定学習指導要領の重要事項には「主権者教育の充実」が入っている。だが、10代の投票率は平成28年の参院選で46.78%、令和1年32.28%、令和4年35.42%。いまだ伸び悩んでいる若者の投票率と政治への無関心に、選挙漫遊が一石を投じられるのでは…!文科省の方、教育者の方にはぜひ、検討してみてほしい。

善本真人候補

 904票【当選】

 人口減少に対しては、湯河原に多くある空き家を活用したサテライトオフィスを作りテレワークを推進、子供たちの安心のために通学路に防犯カメラの設置、またヤングケアラーの支援、高齢者には社会で働ける環境づくりや虚弱にならないよう温泉資源の活用を政策として掲げる。

松野洋一候補

 779票【当選】

 「湯河原で働こう」と掲げ、観光客の誘致、人口減少、若者の流出などの課題に対してワーケーションの推進や伝統的産業の振興を挙げる。
 選挙期間中の5日間は基本歩いて、有権者に直接話しかけるという選挙活動を行うという。これは松野候補だけでなく、松野候補の所属する議会の会派に所属しているメンバーも行うそう。「5日間歩いたら、足とかパンパンになるんじゃないですか」と聞くと、「難しい話などを演説でするより、話しかけてしか聞けないことがある」と、選挙カーに乗らず湯河原町内を巡る理由を教えてくれた。また、政治家も次世代が担っていかなくてはならないとし、選挙の手伝いも若い人が多いと話した。

早乙女智子候補

 679票【当選】

 税金の使途を決める代表を選ぶ選挙なので好き嫌いではなく政策を読んでほしい、また、自身は医師として高齢者医療、女性の健康を中心に様々な提言をしていくと思いを語った。
 出陣式では、地域政党ゆがわらの代表である土屋由希子候補のあとに続き会派を組めるように頑張りたいと語った。

石井温候補

 644票【当選】

 住民から道路が壊れている、空き家が増えている、トイレが汚いなどの声を聞く。そうしたインフラ整備のため、観光立町として産物やふるさと納税を使いながら健全な財政再建をしていくことを政策として掲げる。

山本俊明候補

 619票【当選】

 能登半島地震のニュース報道を見て、とっさの時、人に手を差し伸べられるということが地域防災の観点で大事だとする。そのために日ごろから地域コミュニティなどを支援し人と人とのつながりを強固にしていくべきとする。

笠原進候補

 613票【当選】

 単なる多数決ではなく町民の声を聞き、しっかり議論したうえで方針を決めていくことが必要だとする。高齢化や人口減少問題に対しては子供が元気で大人と繋がりをもつこと、また観光に関してもロケツーリズムだけではなく人と人との触れあいを体験することが重要だと話す。

村瀬公大候補

 600票【当選】
 
 観光立町として発展していくことで増収につなげ行政サービスを提供できるようにすることを過去5回の選挙からの政策とする。今回の新たな政策としては、自身が2児の父であることから子育て支援、高齢化率が高い湯河原のお年寄り支援、幕山公園の新価値付加による観光シンボル化、そして築60年を超える庁舎の建て替えを挙げる。

渡辺久子候補

 598票【当選】

 湯河原では中学生までになっている子供医療費の助成を18歳までに拡充することをはじめ、町の人が、平和で安心安全に暮らせる町にしたいと話す。

室伏寿美夫候補

 598票【当選】

 湯河原町が観光業を基に形作られてきた町であるため、ロケツーリズムの強化で観光の推進をすることを政策の一丁目一番地とする。また、子供を育てる同世代に寄り添い子育て環境の充実も政策とする。
 声を上げることは簡単だが、実際にやるために行政との議論、議会で仲間をつくる必要性があるとし、そうした過程を経ることと決断する力が重要だと思いを話す。

土屋誠一候補

 583.934票【当選】
 
 今期で辞める同僚議員のために、また、周辺市町と連携して観光業を成立させるノウハウを若手に教え込むために立候補を決意したと話す。観光のほか、海と山がある湯河原の防災や、高齢者が県内一である湯河原で、公共のバス以外に交通手段を創出することを政策として掲げる。

熊谷照男候補

 498票【当選】

 道路整備、物価高騰など課題がある中で、小さい子から高齢者まで安心して暮らせるようにすることを政策とする。移住政策も、教育費の負担がある若い世代をはじめとした住民のために税金を使うこと、都市計画税を時間をかけて0にしていくなどの政策がなければ進まないと話す。
 選挙活動に関しては、あまり車での遊説はやりたくなくて、現職としての実績を問うものであるべきとの考えを話した。

上田尚彦候補

 359票【落選】

 防犯カメラの設置、空き家、空き店舗対策、湯河原温泉を知ってもらうため万葉集に詠まれた6つの市町との連携、農業の働き手を増やすために農業インターンシップや農福制度の活用、そして古井戸を復活させ災害時に水を確保できるようにすることを政策として掲げる。

松本裕哉候補

 185票【落選】

 11カ月の期間、無所属無会派でも、町民の声を届け実現できたことが多くあると話す。野鳥の虐待防止のための看板設置や、トイレ設備の改善など、行政に声を届けて実現することが必要で、理想論で解決してはいけないと言う。公共施設の耐震、老朽化対策、活動報告会を開き町民の理解を得ることも重要だとする。
 小人数で選挙活動を行っているという松本候補、「たいした演説ではないので…」と演説前に言っていたが、マイクを握ると約20分間力強く演説をしていた。

小倉高代候補

 149票【落選】

 話す場所の少なさを指摘し、サロンの開催、また独居老人の見守りを政策として挙げる。観光については、自身の専門であるデジタルの発信でPRを行っていきたいとする。いろいろな人たちが家族のように自分のことを支援してくれている、湯河原を大家族のような町にしたいと話す。

 自身の経営するパソコン教室を事務所にしていて、お茶菓子に(スタッフの方が用意したという)ゆで卵が用意されていたのは斬新な感じがした。

内藤陽子候補

 148票【落選】

 行政と議会が車の両輪となりスムーズな政治で町民に喜んでもらえる施策を行いたいとする。防犯だけでなく、迷ったときなどに立ち寄れる交番や、からくり時計などを駅前に設置するなど行政が観光に関わることに更に力を入れるべきとする。その他、湯河原に一つもない産婦人科の誘致、高齢者、低所得者への助成、給食費の無償化、セラピー動物の埋葬施設がなく、ごみとして捨てられている現状があることから、そうした施設設置などを政策として掲げる。

後藤輝樹候補

 42票【落選】

 みかんや源泉かけ流しの温泉などがあり東京や横浜からも近い湯河原を、住んでいる一人一人が活性化させていく意識が必要だとする。温泉街にきたことを感じられるよう駅前の手湯を足湯にすること、町営温泉の100円ロッカーを無料にすること、少子化対策としてベーシックインカムの導入などを政策として掲げる。
 後藤候補のことをその特異な政見放送で知っている人もいると思うが、17回目となる今回の選挙ではスーツを着て駅前でビラ配りをしていた。本人曰く、2021年に立候補した葛飾区議選のときあたりから(自身の政見放送の)誤解されているイメージに気づいてきたこと、前回の秦野市議選のときはトウモロコシのコスチュームを着てビラ配りをしていたが、その時「お前ふざけてんのか」と、いかついかんじの人に言われたこともあり、最近は政策が伝わるように襟を正しているという。

 (ちなみに、インタビューを行った演説会には、私のほかに、後藤輝樹マニアで近くからきたという方、芸人の山本期日前さんが参加していた。いずれも湯河原在住の有権者ではない3人だったが、後藤候補はどの質問に対しても丁寧に答えていた。)

北沢晃男候補

 29票【落選】

 湯河原町には外国人が多く来ているが、自身以外の19人の候補者に外国に滞在、留学歴のある人がいないこと、湯河原町に隣町である真鶴町の不正選挙を波及させないために立候補をしたという。政策としては、湯河原町から小田原高校への進学者が今年0だったことを受け、多様性の面から小田原高校への進学倍増を掲げる。
 安倍晋三氏のことを「安倍しんちゃん」と呼び、岸総理の時代からの付き合いで幼馴染だったと言う。安倍氏の首相時代には「官邸にハーレーに乗っていった」と話す。そんなことがあるのだろうかと「ハーレーでいきなり官邸に行ったら、ニュースとかにならないんですか」と聞くと、「裏でやってるからニュースにはならない」と話した。
 安倍氏との関係が気になった私はさらに、「安倍さんと幼馴染だったのに、自民党ではなく、れいわを支持しているのはなぜですか」と問うた。北沢候補の車には、「れいわ」の文字が書かれたステッカーが貼ってあり、ボンネットにはガムテープでスピーカーが取り付けられ、そのスピーカーかられいわ新選組のデモ行進の音声を流せるようになっていた。
 北沢候補によると、「安倍氏はアジア各地へ訪問をしていたが、それは「ラブラブ旅行」で世界中に血税をバラまいただけ」「ASEANも日本のことを慕っていない」。そして、れいわの山本議員もASEANに関して、北沢候補と同じことを言っていたため、れいわを支持するようになったらしい。

 北沢候補といえば、選挙が終わって、各候補者の政策をまとめようとビラやポスターを撮影した写真を見返していたところ、ある政策が書かれているのを発見した。「親たちの代理婚活」。また、選挙公報をみると他の政策は印字なのに代理婚活だけ手書きで、代理と婚活の間に「風」の字もある。「代理風婚活…?」「この政策…何だ…?」
 「代理婚活」で調べてみると、親が独身の子のために結婚情報の収集やお見合い斡旋などをして結婚活動を支援することなのだそう。(参考:代理婚活~親だからできる子供のための結婚活動支援~
 でも、どういった理由や経緯で代理婚活(代理風婚活?)を政策にしたのだろう。インタビューでは、このことについて何も言及していなかった。
 しまった、と思った。北沢候補とは2回も会っていたのに…。
 そんなこともあって、選挙公報、ポスター、ビラは手に入れたり、見かけたりしたら、ひとつずつザっと目を通しておくようにして、気になったことはメモして候補者に会ったときに聞けるようにしたいと自省。

 

全候補者に会えた


 久しぶりの選挙漫遊ということもあって、肩慣らし程度に漫遊できればいいなーなんて思っていたが、一人にインタビューしたら、「やっぱり全候補者に会わないとな」と思い4日間かけて全20人の候補者に会うことができた。
 前回の伊東市議選でもそうだったのだが、全候補者に会えたのは、地方紙のおかげであるところが大きい。伊東市議選では伊豆新聞、今回の湯河原町議選では湯河原新聞が、各候補者の事務所の住所や出陣式の日程を事前に調べて記事にしていた。個人で調べるのは大変なので、18人というほぼすべての候補者の情報を知ることができたのは大変助かった。

 そんな新聞のおかげもあって、全員に会うことはできたのだが、ちょっと反省することがある。

ちょっと反省


 それは、湯河原町名物を食べ損なったこと。
 仮にも選挙漫遊とハッシュタグをつけて発信しているのに、湯河原名物を何も食べていないなんて。
 いや、私は観光案内所で「得するお店ガイド2024」を手に入れて、きび餅とか、湯河原みかんを隠し味に使った湯河原ナポリタンとか、あと柑橘ソフトクリームとか食べようとしたんです。食べようとしたし、温泉にも入りたかったんです。
 なんですけど、時間がなかったり、行ったらもうお店が閉まっていたりして…。
 候補者の撮影は4日間で終わっており5日目に漫遊することも考えたのだが、なにせ選挙漫遊って交通費をはじめ支出は多いが、収入は0なので躊躇ってしまった。(いろいろな人と考え方に接することができたり、事務所でお茶菓子をいただいたりはできるので収穫はたくさんあって楽しいのだけれど。)
 でも、観光スポットには3か所行ったので、選挙漫遊としての体裁は保つことができた。

 1か所目は成願寺。源頼朝の鎌倉への出陣を見守ったと言われる、推定樹齢900年のビャクシンの大木がある。幹の大きなねじれは近くで見ると圧倒される。


 2か所目は不動滝。湯河原町議選のYouTube動画のイントロの音声はこの不動滝の音。

 3か所目は五所神社。ここにも大木があり、高さは36メートル。ビャクシンの大木とはまた違う壮大さがあった。

 と、名物は食べられなかったが、漫遊はしたので反省はこのへんにしておこう。

 

選挙漫遊をすると毎回、新しい発見がある


 選挙漫遊中には、演説を聞くことはもちろん、一対一で話すと演説で言っていたことに説得力が増したり、逆に、全く違う一面が見えて演説で受ける印象が変わったりする。
 事務所を訪ねるだけでもいろいろなことがわかる。支持者の方から候補者の魅力をきいたり、為書きをみてどんな人が応援をしているのかがわかったり(湯河原町議選では国政政党に所属している候補者が公明党の善本真人候補と共産党の渡辺久子候補の2人だが、無所属の候補者の事務所でも自民党などの議員の為書きが貼ってあることも)、その地の選挙の特色を知ったり(通常、候補者の名前を連呼する連呼行為は8時~20時までだが、湯河原町は観光街なので、9時~18時までしか選挙カーで連呼行為をしてはいけないという紳士協定があるらしい)。
 

 普段、一人で過ごしていたり、特定の人たちと過ごしていたりすると、単一の考えに囲まれることが多いと思う。そこで快適に過ごせる人もいれば、雁字搦めになる人もいるかもしれない。
 そんなときに選挙漫遊をしてみる。
 選挙にはたくさんの候補者が立候補し、それを支えるたくさんの人がいる。普段一緒に過ごす人とは違う人たちと会えば、きっと自分の思いや考えを共有できる人もいる。新しい視点でものを見る助けになってくれる人もいる。ひとりでいろんなものを抱えるには限界があるから、そんなふうに選挙漫遊をしてみるのも、ひとつの形かもしれない。


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