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メリージャガリマス

今日はクリスマスだからか、新宿は人で溢れかえっていた。
バスタ新宿も同様で、バス乗り場横にあるデイリーヤマザキは一度進むと引き返せないくらい混雑していた。そんな中、私は焦って蒸気でホットアイマスクワンパックと爽健美茶、じゃがりこを購入した。
あと10分でバスが出てしまうため、私は急いでデイリーヤマザキからD12という乗り場に走る。

4列バスに乗り込み、これから10時間ここに座り続けなければいけないと覚悟しながら蒸気でホットアイマスクを目に当てた。
横浜を過ぎたあたりから完全消灯となり、ちらほら寝息やいびきが聞こえてくる。

私はそこで気づく。じゃがりこを買ったのはミスだったということに。焦っていて気づかなかったのだ。視覚が閉ざされ、聴覚が研ぎ澄まされる夜行バスという環境において、じゃがりこの音が許されるはずがない。

しかし、私は今じゃがりこが食べたい。そもそも食べたくて買ったのだから当たり前だが、私は今塩味が欲しているのだ。
グミにしておけば…なんて後悔するよりも、どうやったらじゃがりこを音出さずに食えるかを考えるべきじゃないのだろうか。
私は早速その考えを実行に移すことにした。

まず、じゃがりこがカバンに入っていると思われると今後に響きそうなので音を立てずにカバンを膝の上に乗せる。そして、手に神経を集めてじゃがりこを見つけて蓋を開ける。ここからが勝負だ。

じゃがりこを一本丸ごと口の中に入れて、右の歯と左の歯を渡す橋のように配置する。その後舌を突き上げると口内上部のカーブを利用した形でじゃがりこを二等分することが出来る。これを行う際、唾液は分泌させればさせるほど良い。なぜなら唾液で湿らせたじゃがりこを割る音は乾燥状態の時の音の三分の一以下に抑えられるからだ。
その後、割った2本のじゃがりこは右と左それぞれの歯と頬の間の歯茎に差し込む。そしてゆっくりと咀嚼していく。
こうすることで、偏らずに口の中全体でじゃがりこを味わうことができる。

あともう一つ、行う上で重要なことがある。
それは、乗客の耳と私の口の距離だ。1人にも音を気づかれてはいけないので、全員平等に離れていなければいけない。そこで頭の中で乗客の耳の位置をシミュレーションし、私がその真ん中に来るように調整する。隣の人がこちらに寄りかかっている状態だったので私は左に重心をかけ、通路に少しはみ出る形をとった。

こうして、私は誰にも気づかれていない状態(ことを願う)でじゃがりこを食べ続けた。

10時間かけ、バスは姫路駅南口に到着し、電気が灯るとじゃがりこはもう無くなっていて、私の顎は異様な疲れによりガクガクになっていた。

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